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【植物と短歌】酔芙蓉

夏頃からフヨウの花が咲きはじめて、美しい花だなと思って見ていた。

フヨウ

大学の講義で習ったからフヨウが識別できるようになったのだが、家の近所にフヨウが植えられていることに4年生にして初めて気が付いた。

花が咲くのを楽しみに待つ日々。
そしてついに花が咲いた。だけど…
私が知ってるフヨウの花となんか違う。白くて、八重咲(*1)だ。

考えてみて、一つ思い当たることがあった。

以前本でフヨウの一種に酔芙蓉というものがあると読んだのだ。

普通のフヨウは、花が咲く前の蕾の時から淡紅色に色付いているが、酔芙蓉は咲いた後で色付いてくる。

異界の花. 塚谷裕一. マガジンハウス, 1996, p95

この花、咲いてから色が変わるというとても面白い特性を持っている。
ぜひいつか見てみたいと思っていたのだけど…

もしかしてこれはその酔芙蓉なんじゃないか…?

そう思って数時間後もう一度花を見に行くと、ちゃんと色付いていた。

やっぱり。これは酔芙蓉だ!
こんなに近くにあるとは思わなかった。

ではここで朝と昼、夕方の酔芙蓉の色の移り変わりをお見せしよう。

朝の酔芙蓉


昼の酔芙蓉


夕方の酔芙蓉

本当に色が変わっているのがお分かりいただけるだろう。
いったいどういう仕組みなのか。

花が後から酔ったように色付くのは、赤い色素であるアントシアニンを合成する酵素の異常による。
普通のフヨウでは、花を開いた時すぐに虫の目を引くために、蕾の時から色素を合成する酵素をコードした遺伝子が発現し、アントシアニンを花弁にため込む。ところが酔芙蓉はそのタイミングがずれ、花が咲いた後になってしまっている。だから、咲いた後で花の色が濃く染まってゆく。

異界の花. 塚谷裕一. マガジンハウス, 1996, p95

スイフヨウは、白色の花が夕方赤くなってきます。酔っぱらったように見えるので、酔芙蓉と書きます。ご存じのように、これはアントシアニンの生合成が、午後以降急速に進むためであり、温度が25度以上だと進みますが、低温だとあまり合成されないこと、および紫外線には影響されないことが判っています。

花の色の変化の理由 | みんなのひろば | 日本植物生理学会 (jspp.org)

面白い性質だ。これは短歌にも生かせそうだが…。
酔芙蓉を詠み込んだ短歌はあるだろうか。

追憶とあればなべては美しというにもあらず酔芙蓉咲く

「漆桶」大下一真

酔芙蓉酔いの極みに落ちたるを掃き寄す幾たび堕ちたる者が

「漆桶」大下一真

フヨウの短歌は数多くあったけれど、酔芙蓉となるとあまり見つけることができなかった。もう少し時間をかけて探してみようと思う。

でも徐々に色づいてくようすを酒に酔った姿に喩えた、という酔芙蓉の名前そのものがまるで一つの文学作品のようだ。


*1  酔芙蓉には一重咲きのものもある

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