見出し画像

【植物と短歌】ノウゼンカズラの二面性

家の近くに茂み?があって、そこにわりと目立つオレンジ色の大きな花が咲いている。

なんていう植物だろうと思いながらも、調べないまま3か月ほど経ってしまった。

さすがにそろそろ気になってきて、試しに「オレンジ 大きい花」で検索してみたら一番上に出てきた。

どうやら「ノウゼンカズラ」という植物らしい。

思ったより和テイストな名前だった。なんとなく見た目だけでいうと南国っぽさがあったのに。

中国原産で、漢字では「凌霄花」と書く。
「霄(そら)」を「凌ぐ」ほど高く伸びることから「凌霄(りょうしょう)」と呼ばれ、それが訛って「のうぜん」になったと言われる。

よじのぼり型つる性木本で, 冬は落葉する. 大型で橙赤色の花を鑑賞するため庭に栽培される. (中略)原産は中国大陸で, 日本には9世紀にすでに渡来していた.

堀田満ほか. 世界有用植物辞典. 平凡社, 1989, p208
ノウゼンカズラの花

名前が分かれば私がすることは一つ。
ノウゼンカズラが登場する短歌を探すのだ。

風に揺らぐ凌霄花ゆらゆらと花散る門に庭鳥あそぶ

佐佐木信綱

虻は飛ぶ、遠いかづちの音ひびく真昼の窓の凌霄花

佐佐木信綱

まずは佐佐木信綱の二首。
上の歌はかわいらしい歌だなと思う。おだやかな風がノウゼンカズラの花を柔らかく揺らし、そのそばで鳥が遊んでいる。
しかし下の歌はどうだろう。
いきなり「虻」から始まって、読点でブレーキを踏まされ、そして雷。
その後に登場するノウゼンカズラは決して明るいモチーフではなく、どこか怪しげだ。

次はこの歌。

ほいほいとここまで来られたわけぢやない君待つ道に凌霄花

林龍三

この歌の解釈だが、

夏空に向かって高鳴るラッパのイメージから、花言葉は「栄光」「夢ある人生」。

倉嶋厚ほか. 花のことば辞典. 講談社学術文庫, 2019, p159-160

とのことから、紆余曲折ありながら長い時間をかけ主体が「君」との関係性を築いてきた様子が想像できるだろう。
ノウゼンカズラは祝福のファンファーレなのだ。

ちなみにノウゼンカズラは英語で "Chinese trumpet vine" (vine はつる植物のこと)という。


引き続きノウゼンカズラの登場する短歌を探していたところ、気になることを発見した。

短歌の賞の一つに「笹井宏之賞」というものがあるのだが、第四回笹井宏之賞を受賞しているのが椛沢知世さんという方で、その作品のタイトルが「ノウゼンカズラ」なのだ!

…すっごく読んでみたい。

調べたところ、この作品は「あおむけの踊り場であおむけ」という歌集に収録されているようだ(笹井宏之賞の副賞の歌集)。
初版発行が2024年7月6日とのことなのでとても新しい本。

近くの図書館にあるようなので早速行ってみた。



50首連作「ノウゼンカズラ」、どこか不穏な印象を抱かせる作品だった。
詳しくはぜひ本を手にとって確かめていただきたい。

この連作の中でノウゼンカズラが登場する歌は一首だけだ。

垂れ下がるゴム手袋の夜を抜け朝に戻るとノウゼンカズラ

椛沢知世「あおむけの踊り場であおむけ」

暗いときと明るいときでは同じものでも全然違って見える、ということだろうか。
夜はあんなに怖かったのに、朝になれば明るい花だった。


短歌における植物は漢字表記であることが多い気がするけれど、この歌ではカタカナ表記で(ゴム手袋と合わせたのかも)、その表記方法で読み手の受ける印象が全然違う気がする。
カタカナだと奇妙さが増すような。


どうして作者はこの連作にノウゼンカズラという名前を付けたのか、不思議に思った。


そしてせっかく図書館に来たので、他の歌集も読むことにした。
私は吉川宏志が好きなので、何となく吉川宏志集を手に取ったのだが…

君の肩を人質のごと囲いおり壁一面の凌霄花

吉川宏志「吉川宏志集」 

なんとノウゼンカズラが登場する歌を発見した。

ノウゼンカズラはつる植物であり、つるの絡みつくイメージから不穏な印象を与える効果もあるのか。
このことは上記の佐佐木信綱の二首目の歌にもあてはまるかもしれない。


ノウゼンカズラ、明るい歌にも暗い歌にも登場して非常に興味深い植物だ。

いいなと思ったら応援しよう!