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恋人は依存して、夫婦で自立する 【靴の底 #32】
「もう疲れた・・・。同じことの繰り返しで、しんどい・・・」
冷めた目で見下ろしてくる旦那を涙で滲んだ目で見上げる。
「もう、だったら、やめるの・・・?今までだって楽しいこともあったじゃん・・・。私たちもうやめるの・・・?」
「もう半分は考えてるよ・・・」
結婚式で入った亀裂をそれからも修復できずいる私たちはお互いの気持のぶつけ合いに疲れてしまった。
私たちは、同じ考えをして、同じ感じ方ができる・・・。心の何処かで思う気持ちはすれ違い、最悪な形を作り出そうとしていた。
その日から旦那は殻に閉じこもり、私が話しかけても冷たい態度をするばかりで、話し合いができる状態ではなかった。
ちょうど転職先に入社したての私も日々の新しい仕事に追われ、冷たい態度をする旦那に対して、正直どうでもいいと感じ、私は私なりの生活を楽しむことにした。
仕事をして、友達と電話をし、日々の生活をきちんとおくる。
旦那は冷たい態度をとるクセに、日々の3食のご飯を気にして、その時だけ私に声をかけてくる。正直、なんだこいつ?そんなに疲れたなら、一人で飯を食えばいいじゃないか、と思ったが、その時間だけ一緒に過ごした。
仕事を終わり、夜ご飯を食べると旦那は梨を剥き、2人分の緑茶を淹れるとそばで本を読むことが日常になった。
こんな空気になる前は、話しても話足りず、永遠とくだらない話やじゃれ合いをしていたのに、黙々と本を読み、時折「これ、ここ。おもろい」と声をかけてくる。
私も私で、声をかけることはなく、その指された箇所を目に通し、少しだけ声に出して笑った。
一週間が過ぎて、逗子に住む太郎ちゃんが海岸で「火を見る会」をしようと誘ってくれた。
「ほら、一緒に行こうよ」と旦那に声をかけてみる。
「行かない・・・。もう疲れた・・・」
旦那はベットで横になり、本を読みながらこたえた。
「あのさ、こんなところで一人で考えていてもどうしようもないよ。海に行って、火を見るほうが、前向きな考えが浮かぶよ」
そんな私の声も虚しく「何度も同じことの繰り返し・・・つかれた・・・」という旦那にカチンと怒りが沸き起こった。
「あのね!同じことの繰り返しって言うけど!自然だって、雨が何度も降るでしょ!雨が降って、地面がぬかるむ。いやだなぁ、雨って。って何度も思うけど、その雨が若草色の芽を育てて、数十年。数百年たって、森を作る!!私たちは、数十年後の森を作る過程に今いるんだよ!!同じことの繰り返しって!!!甘えてんじゃないよッ!!」
そう吐き散らして、立ち上がって、さらに一言。
「あんたが元気ないとおもろないねんッ!!!!!」
後ろを見ずに颯爽と家を出て、太郎ちゃんと待ち合わせしている浜辺へ向かう。
私たちは恋人を卒業しなきゃいけないんだ。
相手に依存して、考えを共有して、感じることを縛る。そんな恋人を卒業して、お互いが自立した夫婦にならないと結婚は続かない。
夕日に染まる海を見るとそんな考えが浮かんだ。
恋人は依存して、夫婦は自立なんだ。自立するから家族っていう森を一緒に作れるんだ。
「お〜葉子来たのね〜」
薪を割る太郎ちゃんがすでに火をつけようと準備をしていた。
「あれ?旦那さんは〜?」
「来ないって〜」
「え〜山に木を取りに行くときに「これは旦那ッチのぶん!」って思いながら集めてきたのに〜やだぁ〜」
大学時代からの友人の脳天気な会話に、なんだか笑いが込み上げてくる。
やっぱり、旦那も来ればよかったのに。
「どうも〜」
頭上から聞き覚えのある声がして、振り向くとそこにはスーパーの袋をぶら下げた旦那がいた。
「やだぁ〜来てくれたの〜〜〜!!」
太郎ちゃんと私の歓声になんだか、照れている。
「はやくこっちに来なさいよ〜」という太郎ちゃんに、「寿司買ってきたから、冷蔵庫いれなきゃ」と結局旦那は一瞬顔を見せただけで、帰っていった。
「あんたんとこは、いつも喧嘩してるわね」
「喧嘩というか、恋人離れしてるんよ」
旦那が帰ったあと、太郎ちゃんと黒闇の中を轟く海の音を聞きながら、火を囲む。
「親離れ、子離れってあるでしょ?」
近くにいる恋人たちが海のムードに押されて、キスをしている。
「私たちは恋人離れして、夫婦になる喧嘩をしてるんだ」
「なるほどね〜そりゃ、揉めるわね」
「うん・・・。でも、なんかわかってきた。結婚を続けること。夫婦になること」
「あたしには一生縁が無い話だわ〜」
「いつもごめんね。なんか、迷惑かけて」
「いいのよ。あたしはいつも、あんたのお世話係だから」
この人との縁も不思議だ。大学時代に出会って、今ではご近所さんなんだから。
家に帰宅すると、「おでん食べる?」と旦那に聞かれた。
先程のことがなかったかのように「食べる〜」というと、卵と大根、糸こんにゃくをを皿によそってだしてくれた。どれも私の好きなものばかりだ。
「さっき行ったときに、ふたりが俺のことを優しい顔で見てくれてうれしかった」
そう言って、どれでも好きな寿司とっていいよ、と自分の食べている寿司を差し出してくる。
「当たり前でしょう!あんたのことみんな大好きなんだよ!」
なぜだか涙が滲んでくるけどグッと我慢する。
結婚は、署名をしたときから始まるけど、結婚も夫婦も時間をかけてつくっていくものなんだ。
恋人は依存して、夫婦で自立する。
私たちは家族を作る過程にいる。