短編小説「だから私はあの夏に囚われている」
こんにちは!限界大学生の湊 笑歌です!
今日は短編小説を投下します!ではどうぞ!
だから私はあの夏に囚われている。
うだるような暑さの中、空調のきいた図書室で一人、興味のないファンタジー小説を手に取ったが、それを読むことなくただ外を眺めていた。まだ知らぬ恋に希望を抱いていたわけではなく、やることが無かったからただ外を眺めていたのだ。夏休みにわざわざ図書室を利用する生徒なんているわけもなく、図書委員の私は暇を持て余していた。
この学校は島の端にある高校で、私はとなりの島から船を使い、一時間かけて学校に来ていた。魔法でも使えたのなら船を待つ時間や船酔いなども気にせず移動できるのに。手に持っていた小説の表紙に空を飛ぶ男の子が写っているのを見てありもしないことに胸を膨らませていた。
「その本いいですよね」
不意に聞こえた声に私は驚いてしまった。考えることに夢中でドアが開く音さえも耳に入っていなかったのに目の前に立つ優しい顔をした男の子の声はすんなりと聞こえた。
「ごめんなさい、私はこの本読み始めたばかりでまだ何も知らないの。だけどこの主人公の男の子魔法を使えるのでしょう?」
読んでもないのに本を持っているのもおかしいのでタイトルと表紙だけで答えた。
「君は魔法を使いたい?」
「隣の島からの通学が楽になるなら使いたいな」
高校生になってこんな会話すると思っていなかった私は少し心が躍っていた。
「じゃあ使ってみようか」
外に出た彼を追いかけ、ベランダに出ると彼が自転車に乗り待っていた。
「後ろに乗りなよ」
言われるがまま、荷台に乗り海岸まで走ると、そこからも自転車を降りようとせずに船着場まで走っていた。落ちると思い悲鳴を上げ、目を閉じた。だが、体に水の感触はなく不思議に思い、目を開けた瞬間、一生忘れることがないような体験をしていた。私は水面スレスレを自転車で走っていたのだ。後ろを見るとタイヤの風圧で海に波紋が広がっているのが分かった。あっけにとられていると、すぐに私の住む島についてしまっていた。
「君もいつか魔法を使えるようになるよ」
次の瞬間、私は自分の部屋のベッドにいた。夢かと思ったが右手には表紙に空飛ぶ男の子が写る図書室の本が握られていた。
これが彼との出会いで、私のひと夏の思い出の序章だ。