
『安心のイブキ』読んだんだけどさ
※ネタバレ注意
武蔵野創先生の新作読み切り漫画、『安心のイブキ』を読みました。
サムネの男性が主人公の伊吹さんです。
保険会社の営業マンの名前が伊吹(息吹き)ってなんかいいですね。
この話を読んで何故記事を書こうかと思ったかと言えば、単純に私が武蔵野先生のキャラクター造形は面白いなと思っているからと言うのが1つ、あと本田貴一というキャラクターについてちょっと言いたいことがあり過ぎるのが1つです。
以下、『灼熱カバディ』最終話(最終巻)までの若干のネタバレ及び『安心のイブキ』のネタバレを多大に含みますので、ご覧になってから戻ってきていただけると幸いです。
伊吹さん
保険会社の名刺を見せながら笑顔で挨拶しているバナーを見て、正直私も作中のモブキャラ達と同じく、最初は「胡散臭そうな主人公だな」と思いました。
しかしスマホが圏外なだけでギャグ顔で焦りだした瞬間に「あ、この人良い人だ」と理解しました。
その印象は最後まで変わらず、なんか素直で熱くて真面目な男だな……って好印象がずっと続いて。
そんで最後は特殊素材の大切なスーツを燃やして、ゴリゴリに減った体力を燃やしてでもヘリに向かって救助アピールして……って。
「あーこの人めちゃくちゃ少年漫画の主人公だなぁ」
読み終えた頃には、そんな印象でしたね。
アマネさん
一番最初にキャラ性が伝わったキャラクターでした。
開始10ページで性格と価値観の描写があったから、その直後の「死ぬ時は死ぬし、死なない時は死なないっす。」という台詞に説得力が生まれていたので。
彼女は別に死にたいわけでは無い、というのが作中時間リアルタイムでの価値観だと思うのですが、そこに至るまでに何を思っていたのかは複雑で簡単には表現できない事なのかなと感じます。
というのも、風呂場で結構ざっくり腕をイっていたので。
手首や腕や脚を自分で切ってもそう簡単には死ねないというのが通説ですが、力を込めてざっくり切った後に血が止まらないように傷口を水につけて置いたり流水に晒し続けていると出血多量で……という場合もあるらしいので、あの瞬間は本気で消えようとしていた可能性もあったりするのかな。
なんて色々考えたりもしましたが。
同時に煙草(彼女の生の象徴)を吸っているし、「心が死んでいる」という台詞と共に描かれたシーンなので、シンプルにそういうことなんだと思います。
「死ぬ時は死ぬし、死なない時は死なない」っていい言葉だよね
複数回出てくるこの台詞。
挑戦ともとらえることが出来るし、諦観ともとらえることが出来るし、ポジティブともとらえることが出来るし、ネガティブともとらえることが出来る。
前後の順番を入れ替えただけでニュアンスが全く変わる。
良い台詞ですね。
本田貴一という男を知っているせい(おかげ)で、若干意味合いが変わって聞こえなくもないのですが。
兎も角、この漫画の象徴たる台詞となっているのは強く理解しました。
ちょっとニュアンス変わるかもしれないけれど、私も似た様なこと考えた時期があります。以下数行自己語り入ります。
私は精神疾患のせいか数年希死念慮(あるいは自殺念慮)に苛まれているのですが、これが本当に意味わからなくて苦しくて考えるのも嫌で考えたくなくて、でも考えざるを得なくて。
だから自ら命を絶つ方法っていうのを無駄に沢山調べていたことがありました。
そんなことをしていたら、ある日ふっと「いつでも死ねるなら、別にいつ死んでもいいか」と思い始めて。それから今まで生きています。
ああ人間ってこんなことで死ねるのか、こんなに沢山の死に方があるのか、ということが分かったら、いつでも死ねるなら別に今じゃなくても良いか、って考えにシフトしていった感じです。希死念慮が勝ちそうになることもありますが、勝ちそうになるだけで勝っていないので、生きています。
ある種これも「死ぬ時は死ぬし、死なない時は死なない」に近いと言えるんかな、とぼんやり思いました。
本田さんの概要
灼熱カバディを最後まで読んだことがあれば本田貴一という男を覚えていないわけがないのですが、万が一この文章を読んでくださっている方が突然記憶喪失になった場合を想定して軽い説明を記載します。
本田貴一(ほんだきいち)
星海高校(ラスボス校)のカバディ部スタメンの高校3年生。
大きく見開きすぎて三白眼を越えている目と、基本絶やさない笑顔が特徴。
喋り方や雰囲気は快活だが、実際その性格はネジが数本飛んでおり、敢えて命レベルの危険に飛び込んでいくことで自身の「成長」を促している(らしい)。
因みにその考え方は他人のチワワにも適用され、溺れかけたチワワを助けず成長のチャンスだと捕えて「応援」した。尚、その後そのチワワは屈強な強犬と化している。
改めて見るとこの人本当にスポーツ漫画の登場人物か疑いたくなりますね。
ペルソナ3の召喚器とか躊躇いなく引き金ひきそう。
本田さんに魔改造されたチワワならペルソナも召喚出来そうですね。
なにやってんだろうこの人
灼熱カバディ本編終了後、詳細不明のままだった本田さんですが、まさか生死まで不明だとは思わなくて震えた。
なにやってんのこの人。
いや確かに性格からして登山家になるのは「らしい」し、生死不明なのも「らしい」けど。
でもどっかで生きてそうですね。
本田さんって、出番は少ないし主人公(宵越)との絡みが多いキャラクターでもなかったのに、めちゃくちゃインパクト強くて頭に残っていて、そんでこんなに「らしい」と思える将来が描かれているの、キャラクター造形の仕方も描き方も凄いですよ。ちょっと嫉妬するレベルです。
だって普通、本田さんくらいのポジションのキャラクターって覚えていなくてもおかしくないじゃないですか。
でもしっかり覚えているんだもんなあ……。
ちょっと失礼な話だけど、本田さんに人生救われている友達があの世界に存在して意外だったと同時に安心しました。
本田さんにも、生死を心配してくれる友達がいたんだな。
大人になっても大切にし続ける友達がいたんだな。
あとたぶんこの人家族関係もそれなりに良好なんだろうな。
いやむしろ家族も皆あんな感じなのかな。
よく考えたら結果論ではあるけどチワワも強くなっていたし、本田さんと関わると人生面白い方向にシフトするのかな。
ナチュラルボーンにそういう人なのかな、本田さん。
いやまさか灼熱カバディ本編終了後に本田貴一にここまで思いを馳せることになるとは思わなんだ。
短時間で魅力が伝わるキャラクター
灼熱カバディでもそうでしたけど、武蔵野創先生のキャラクターは皆魅力的ですね。
準レギュラー未満の人物でも数話のみ登場した人物でも、「このキャラクターはこういう存在である」という印象が残っている登場人物、結構多いし。
主人公格・レギュラー格ともなれば全員そうだし。
テンプレという骨格をなぞることは簡単だけど、形骸化させずに物語の中で読者に存在を残し続けるって、意識しないと難しい事じゃないですか。
連載と読み切りではその辺りの作り方もまた変わってくると思うのですが、いずれでもキャラクターが立っている故に、ストーリーの中でキャラクターが「生きている」ことが伝わる。
それって凄い事だよなと思った次第です。
キャラクターの死に様を(想い)描くことと生き様を描くことって、かなり近しいことだと思う。
作中で実際に死んだことで「このキャラは確かに生きていた」と思えるキャラクターって存在するし、死に様を想像させることでより一層その命が魅力的に映るキャラクターもいるし。
大会中の王城正人とかそんな感じ。
アンデッド生命の他の社員たちとか、伊吹さんの人となりの更なる掘り下げとか、何かしらありそうだからもっと見てみたいですね。
41ページで綺麗に纏まっていたけれど、41ページの先もきっと楽しいんだろうな、でもここで終わってもまたそれも良いんだろうな、と感じました。
私もそういう物語やキャラクターを作ってみたいです。
このキャラクターの存在はこの物語に欲しかったと、あらゆるキャラに対して言える、そんな作品。
以上、『安心のイブキ』への感想と本田貴一への感情でした。