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アドベントエッセイ(62/365) 何回かの後に突然ガンと凄さが分かる話


早いものでクリスマスまであと303日を切った。


どこよりも早いアドベント企画、62日目は「数回通過したのちに突然ガンと良さが分かるタイミング」についてのお話。


音楽、映画、舞台、漫画等々、芸術を「初見で好きになる」パターンと、「何回か触れるうちに突然ガーンと好きになる」パターンの二つある。初見で好きになる場合に比べて、何回かパターンは特殊な条件が整ってないと起きない感動なので、結構レアだ。

つい昨日、久しぶりにそのレアなパターンを経験したので共有したい。


SiriuS」という名前のアーティストを応援している。


東京芸大の声楽科を卒業し、歌手やミュージカル俳優として活躍されている大田翔さん、田中俊太郎さんによるユニットで、今年の2月に正式にデビューしたばかりだ。


友人づてでその存在を知り、デビュー前から何回か彼らの歌う歌を聴く機会があった。


もちろん彼らの歌がプロとして完成度がめちゃ高いという凄さは分かる。しかし、もともと日常的にオペラや声楽を聴く習慣がなかったからか、彼らの歌はテレビやお店のBGMで流れているCDなんかと同じ、「声楽のプロによる音楽」という漠然としたくくりの中で聴いている感覚があった。


昨日、彼らのデビューアルバム発売記念のイベントに行った。渋谷のタワーレコードの一角でミニコンサートが行われたのだ。


店内で行われたこともあって、いつもより二人の声を聴く距離がずっと近い。いつものように精悍な二人がステージに入ってきて、歌を歌い始めた瞬間、突然鳥肌が立った。


「これはやばい」


中でも、映画サウンド・オブ・ミュージックの名曲「私のお気に入り」がやばかった。


曲自体、テンポ、高低、強弱が目まぐるしく変わるから、素人耳にも、「きっとめちゃくちゃ高度で繊細なコントロールが求められる歌なんだろうな」と分かる。


そんな複雑な曲の上を、大田さん、田中さんは軽やかに走り抜けていく。


プロが、人生をかけて磨き上げた技術を、一切の手加減なく、躊躇いも無く、自信満々に叩き込んでいく様子を眺めるのは、とんでもなく気持ちいいものだ。


「人間って突き詰めたらこんなことが出来るんだなぁ」


とただ感嘆するばかりだった。


「なんかよくわらんけど凄いのはわかる」と、「何が凄いのか、少し自分なりに言葉にできた」の間には天と地ほどの差がある。


昨日のミニコンサートを以て、「SiriuS」が自分の中でカチッと「推し」になり、同時に「もっと声楽を生で聴いてみたい」と思うようになった。ひとつ、人生に新しいチャンネルが増えたのだ。これは素敵なことだ。


彼らの活躍を祈ると共に、これからもCD買うなどして彼らにしっかりお金を落とすファンになろうと思う。

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