職能の壁と業界の壁を乗り越えて―Synamonが『越境』の先で掴んだ成功の秘訣
Synamonでは、「XRが当たり前の世界をつくる」をミッションに、顧客のニーズを正確に把握し、そのニーズを満たしたうえでこの世の中に新しい価値を生み出すXRプロダクトを生み出しています。そして、これらの価値創出を成し遂げる秘訣として語るに外せないのがプロジェクトを推進するチームの動き方。
今、Synamonは「顧客を感動させるプロダクトを提供する」という目的の元、エンジニア、デザイナー、BizDevの異なる職能のメンバーが1つのチームとなってプロジェクトを進めています。
XR技術については初心者である顧客と「XRのプロフェッショナル」であるSynamonが一丸となって、顧客の抱える課題を解決し、さらには新しい価値を生み出していく。
今回はこの動き方の原型を作った、Synamonの「ディスカバリーチーム」に話を聞いていきます。
写真左:吉田昂生(よしだ こうせい)(@H9mqVsEISnSFEEY)
2017年10月、東京大学在学中にSynamonにインターンとしてジョイン。同大学大学院を中退後、正社員として「NEUTRANS」の開発を中心に活躍。多くの案件にエンジニアとして参画し、開発の統括を行っている。
写真中央:前田陽太(まえだ ようた)(@yotayoo9724)
2020年3月BizDevとしてSynamonにジョイン。「NEUTRANS」のカスタマーサクセス活動や新規営業、数多くの案件を担当。直近はSynamonの技術を活かせる業界のリサーチや実案件のPMを中心に活躍中。
写真右:徳永まり奈(とくなが まりな)(@MarinaCG666)
2017年11月、Synamon創業期にジョイン。XRプロダクトで使用する3DCGの作成を行うとともに、デザイナーとしてユーザー体験を重視したUI/UXのデザインを行っている。
参考note:3DCGデザイナーの私がユーザー体験を重視する理由
「価値提供のスピードを上げるために」それぞれの想いから生まれた混合チーム
―まず基本的なところからお伺いしますが、「ディスカバリーチーム」とは何なのでしょう?
前田:元々は、「NEUTRANS」やSynamonの技術でPSF(Problem Solution Fit…企業の商品やサービスが、ユーザーの問題を解決している状態)することを目指して、僕とCOO武井さん2名で動き出したチームでした。進める中で建築業界のお客さまにソリューションを提案することになり、そのタイミングでエンジニアチームから吉田さんが、デザイナーチームからとして徳永さんがディスカバリーチームに加わりましたね。武井さんはその後全体統括の方にリソースを割くことになったため、残った3名で案件を進めることになりました。
―吉田さん、徳永さんはそれぞれどんな背景でチームに加わったんですか?
徳永:私はとにかくお客さまと直接話がしたくて立候補しました!お客さまには、一人一人のストーリーがあると思うんです。BizDevメンバーから間接的に簡潔な情報を貰うことはできるんですけど、それじゃ伝わらないようなストーリーを直接話すことで知って、自分の肌で感じたかったんですよね。
吉田:僕の場合は元々社内向けに開催されていた進捗報告会に出ていて、「これは僕が最初から入った方が早いだろうな」というのを感じ、そこにディスカバリーチームという話が挙がって…という感じですね。
―自主性と想いが感じられますね。
前田:特に招集をかけたわけでもなく、進捗報告会に顔を出してくれていた徳永さん、吉田さんと流れでチームを組みましたね。PMF(Product Market Fit…提供しているサービスや商品が、顧客の課題を解決できる適切な市場で受け入れられている状態)を目指す上でスピードを上げていく必要があって、その必要性に駆られる形で自然と生まれたチームです。
外部アドバイザーがもたらす圧倒的スピード感
―当時はどのような動き方をしていたのでしょうか?
前田:僕が建築・土木業界を中心にリサーチを進めていた関係で、あたる業界はほとんどが建築・土木業界のお客さまでした。結成して最初の3ヶ月は、とにかくそんなお客さまに向けてのソリューション提案が中心でしたね。
ーソリューション提案。
前田:提案は大きく分けて2つのフェーズに分けられます。
1つ目が、商談までのフェーズ。ここでは建築・土木業界全体にゆるく刺さるようなデモコンテンツを見せて、次回商談に繋げることをゴールにしています。
2つ目が、クロージングのフェーズ。ここでは商談開始時にデモコンテンツよりも、さらに個社のニーズに最適化したコンテンツを用意して見せていました。
吉田:提案のフェーズには関わらず、打ち合わせの場の設定ができた段階で僕たちエンジニア、デザイナーも打ち合わせに加わっていましたね。
―Synamonとしても「はじめまして」になるお客さまとの打ち合わせも出ていたんですね!
お客さまとの打ち合わせに出ることは緊張しませんでしたか?
徳永:今までも、3DCGでオリジナルシーンを作る時に直接お客さまと話す機会はあったので緊張はそんなになかったですね。ただ、建築・土木業界のことは何もわからなかったのでキャッチアップは必要でした。
―キャッチアップはどのようにして行ったのでしょうか?
吉田:前田さんが今までのリサーチ結果を資料に残してくれていたので、はじめはそれを読み込んで、わからないところは前田さんに直接質問していました。
前田:僕のリサーチでもまだまだ業界を深く理解するには足りないので、外部からアドバイザーを招く動きもありましたね。
アドバイザーの一人、建設業界についての情報発信を行うYouTuber・シャイニー氏。
チャンネルURL→https://www.youtube.com/channel/UCQMXEs3AWSI7ySq2BJP_77w/featured
―業界リサーチ、業界への理解にもかなりのリソースをかけているんですね!何か変化はありましたか?
前田:やはり、スピードは断然上がりました。今までのやり方だと、僕たちだけで出した仮説をぶつけて答え合わせをするのに、次の打ち合わせでお客さまと話せるのを待たなくちゃいけない。そういう時に外部アドバイザーに相談することで、お客さまとの打ち合わせを待たずに仮説の精度を上げることができるんです。なので、お客さまとの打ち合わせの時にはアドバイザーに貰った回答を元に練り上げた新しい仮説を用意して臨める。結果、打ち合わせの質が上がったと思います。
吉田:業界の外から悩んでも中の人の悩みにはたどり着けないなと感じていたので、とてもありがたかったですね。
―外部アドバイザーの働きもあって、元々目的に掲げていた、PSF、PMFへのスピードアップが達成されたんですね。
クリエイター視点の提案が新しい可能性と成果を生む
ー他に変化を感じたことはありましたか?
徳永:アドバイザーの協力によるスピードアップも大きかったですが、クリエイター陣が直接打ち合わせに入ったことでクリエイター視点の提案ができるようになったのも良い変化だったと思います。打ち合わせ直後に「お客さまがああ言っているので、次の打ち合わせではこういうデモ作りませんか?」という提案を、デザイナーからチームに対してできるようになりました。
前田:BizDevからの「お客さんがこう言ってるので」っていう情報に対して、クリエイター陣が別角度から提案をするなんて、今まではなかったですよね。
吉田:そうですね。僕も自分でBIM/CIM(建設事業における、3Dモデルを活用した生産システム効率化のためのワークフロー)について周辺知識として自主的に調べていたので、BIM/CIMに関連した追加提案をスピーディにできました。こうして自分から提案することで、案件に参加している実感が強く持てたのも良かったです。
前田:ディスカバリーチームで案件をやってみて気付いたのですが、「これはまだ技術的に難しいだろう」とか「この期間では作れないだろう」というビジネス側の思い込みって、クリエイター視点からすると案外実現可能だったりする。ビジネス側だけだったら可能性を潰してしまっていたかもしれないので、2人から提案を貰えたのは本当にありがたかったです。
―理想的な協力体制ですね。印象に残っているエピソードはありますか?
前田:とあるスーパーゼネコンの方から「トンネル内のデータを可視化して、遠隔から確認したい」という相談を頂いたんです。データ自体はあるけど数字データの羅列なので、わかりやすくしたいと。ただ、次の打ち合わせまでに一週間しかなかったんですよ。「さすがにオリジナルのデモコンテンツを用意するのは難しいな…」と思っていたんですが、徳永さんから「いけますよ」と。
徳永:トンネル自体と可視化したデータのイメージを作ればいいなら、1週間あればいけるなと思ったので(笑)
前田:吉田さんも「トンネル内のデータのサンプルデータを用意して重ね合わせることはできる」と…。
吉田:簡単なやつですけどね(笑)先方も色々な要望を出していたんですが、その中から1週間でできる範囲で実装しました。
前田:これは僕一人だったら確実に「一週間ではできないです」と言っていたと思います。お客さまのやりたいことに対する技術的な実現可否はある程度判断ができますが、限られた時間でどこまで作れるかというのはさすがにその場ではわからないし、無責任に「できます!」なんて言えないですからね。
トンネル側壁面の内側にスケッチデータ(赤とか黄色の格子状の絵)や、地質ボーリングデータ(細長いカラフルな円柱)を重ね合わせて表示。トンネル本体のモデルと各種データを重ね合わせて視認できることを表現した。
―素晴らしいチームワークだ…。
吉田:お客さまもかなり喜んでいましたね。実際に作って見せることで具体的なイメージを掴んでもらえましたし、それがあったからこそ、その先にある細かい要望も聞き出せたと思います。
前田:お客さま視点になってみると、エンジニアやデザイナーという技術者が直接MTGに参加してくれるのはそれだけで安心感があるなと思います。
徳永:あと、クリエイター側からすると、実際に打ち合わせの現場にいるからこそ、自分が抱えている他案件のタスクを含めた優先度の判断ができるのも良かったです。「これはお客さまのために、他を調整してでも最優先でやったほうがいい」とか。
―確かに。でも、そうやって優先度を変えることで会社側から何か言われたりすることってありませんでした…?
吉田:いや、なかったですね。もともと、人のタスク状況にとやかく言うような社風じゃない(笑)
それに、会社の判断としてディスカバリーチームの動き(PSF、PMF)を優先していいと言ってくれてましたから。
前田:やるべきことにフォーカスできる環境はありがたかったですね。外部アドバイザーへの依頼含め、打てる手は打とうという基本スタンスがあったおかげで、一定の成果も出せたと思います。
―ディスカバリーチームの成果としては、先日プレスリリースも出ているハタコンサルタントさまの事例が記憶に新しいですね。お客さまからの反応はいかがでしたか?
水道管の保護などに使われる「ボックスカルバート」を作成する工事現場の安全パトロール研修をVR空間内で実施。この工事現場には安全上禁止されていることがあえて複数個所で再現されている。研修参加者は複数人で協力して制限時間内にリスクとなる箇所を見つけ出し、共有する。
プレスリリース:Synamon、建設技術コンサルのハタ コンサルタントと「施工管理者向けVR安全パトロール研修」を共同開発
前田:かなり好評でした。研修を提供する側(我々の直接のお客さま)ももちろんですが、研修の参加者アンケートでも全員が「非常に満足」「概ね満足」のどちらかを回答していただきましたね。
徳永:エンジニア・デザイナー・BizDevが一緒に動くというディスカバリーチームだからこそ生み出せた結果だったと思います。お客さまとの距離もぐっと縮まって、全体のスピードも、提案の質も上がった。何より、私たち自身とても楽しかったです!
ディスカバリーチームの「越境」から学んだこと―成功の方程式、ユーザー中心設計、チームへのリスペクト
―最後に、ディスカバリーチームでの経験を通じて得た学びをお伺いしてもよろしいでしょうか。
前田:今回、自分の専門外の業界を相手にソリューションの提案や提供をしてみて、一つ方程式が見つかったと思っています。
―方程式?
前田:シンプルな図なんですが…。上の図で言う緑の部分、「業界の理解とVR/XRの理解が重なった部分」をいかに大きく保ち、広げていくかがミソだなと思いました。
そのために僕たちができることとして、「①業界について勉強する」「②業界の中でもVR/XRに興味を持っているイノベーター層、面白いこと、新しいことが好きな人を見つけて仲間にする」「③PoCを行い、課題と解決策を更に具体化していく」ということがあります。
お互いがお互いの専門領域で力を出し切れる状態を常に成り立たせる意識です。外部のアドバイザーを呼んだのもまさにそうですね。「業界の理解者」を僕たち「VR/XRの理解者」の集まりに招くことで、「業界の理解とVR/XRの理解の重なり」を生める構造を作っていました。
今回は会社のサポートもあってここにフォーカスして活動出来たので、一定の成果も出せたし成功の肌感覚も掴めたと思います。とはいえリソースは無限ではないので、どこまで動くのが最適かの塩梅はこれから掴んでいくことになると思います。
―非常にわかりやすく、広く応用が利く方程式ですね。徳永さんはどうですか?
徳永:前田さんの言ったことにも重なりますが、私たちの歩み寄りがとても大切だなと感じました。業界や会社の壁を超えて、自分たちから聞きに行って、会って、話して、理解する。その上で、VR/XRの専門家としてどうするべきかの提案をすることが大事だなと。既にあるものに追加の開発をすることと、今回のように0→1のPoCをするのでは全く動き方が変わってくるので。以前からユーザー中心設計に基づいた開発を心がけていますが、今回ディスカバリーチームではその本質を突いた動き方ができたと思います。
徳永さんが作成したユーザー中心設計を社内で実践するための説明資料の一部。
ワーク形式で情報を埋めていけるフォーマットもある。
あとは、クリエイターとしての立場で意見を出すのに加え、その意見をデモコンテンツとして実際に作り、見せることの大切さも実感できました。逆に言葉でお客さまに意見したり、提案していくのはまだまだ自分に伸びしろがあるなと感じましたね。今後経験を積むことでさらに成長していきたいと思います。
―ユーザー中心設計に基づいた学びと、今後の目標が得られたのは大きいですね。吉田さんは?
吉田:3つあります。
―非常にまとまっている!ぜひ聞かせてください。
吉田:まず1つ目として、ディスカバリーチームのような動き方を取ることで、エンジニアの行動スピードが上がること。僕たちエンジニアは何かを作るとき、決められた要件を満たすために、何通りもある作り方から最善を選んでいます。判断基準としては、「課題の本質は何か」「どれくらい重要か」「今後再利用される可能性はあるか」などですね。お客さまの意見を直接聞くことで、これらの情報の量と質が上がるので、判断がしやすくなって、結果全体のスピードも上がるんです。
2つ目は、お客さんと直接話すことでモチベーションが上がること。
3つ目は、BizDevの仕事を間近で見ることで、「こんなに頑張って案件を取ってきてくれてたんだ」と気付けたこと。前はエンジニアが前線に出ることが少なかったので、BizDevが具体的にどんな仕事をしているのかよくわかっていなかったんです。一緒に打ち合わせに出てみて、「自分も頑張らなきゃ」というモチベーションが新たに生まれましたね。
―なるほど!BizDevへのリスペクト度は上がりましたか?
吉田:上がりましたね。
徳永:上がりました!「NEUTRANS」の説明をするところまではなんとなくわかっていたけど、そこから先、各社に個別の提案をすることがこんなに大変だったなんて…。
前田:それで言うと僕もクリエイター陣へのリスペクト度上がりましたよ!(笑)
お互い職能の壁を越境して、リスペクト度が上がっている。
―いい話だ…!その越境は今後も続けられそうですか?
吉田:以前よりスピードもクオリティも上がった手ごたえがあるので「このやり方を維持しよう」と思えています。あと、「技術面は自分が支えよう」という責任感も生まれましたし。
前田:さらなる仕組化、言語化は今後も取り組んでいきたいですね。今後Synamonのメンバーが増えてもブレないようにしたいです。
―ありがとうございます。今後も「越境」の先にある成功を目指して、頑張っていきましょう!