[読書メモ] Business Agility③ / 山本政樹
企業の成長はもちろん個人としてより良く生きるために必須の能力「ビジネスアジリティ」について定義し、ビジネスアジリティの構造や特徴について網羅的に解説されている。ビジネスアジリティが組織能力に分類されることを念頭におくことで、デジタルトランスフォーメーションの成否を分ける本質的なポイントについても理解が進められる書籍。読書メモ③。
第六章 フラット化する組織
むしろ決断をしないことが最も悪い状況を生み出してしまう。誤った決断から得た結果から次の判断材料を得ることを繰り返すことで、正しい判断をする可能性を継続的に高めることができる。但し、取り返しのつかない決断を安易にすることを推奨するわけではない。
これは、民間企業で良く起こる現象。特に、協調性を強く重んじられた世代ではこの混乱が顕著に現れる。
ただ注意すべき点として、自発性を重視すべき場面と、協調性を重視すべき場面はケースバイケースでありどちらか一方の性質に偏ると上手くいかない。
P.161に記述のある「特定のフレームワークに拘ると視野を狭める」という話にも関連している。ネットワーク型組織を目指す場合も、漸進的に無理なく移行するプランを立てることが重要。
各組織のハブとなるリーダー層がサイロを越えた連携を意識するだけでも、実質的にネットワーク型組織のような仕組みは実現できる。
非常に共感できる。定量指標の評価軸が重要である点は否定せず、「周囲からの信頼」のように人間の価値そのものの評価が社会や企業にとって最重要な評価軸となる。これを信用スコアとして定量化しようとする試行もあるが、「周囲からの信頼」は機械的に良いことをするだけでは得られない領域のものも多く、定量化する仕組みを構築するにはもう少し工夫が必要かもしれない。自然現象を定量化・予測することが難しいのと同様に、人間を定量化・予測することも同様に難しい。
日本という島国の特性として、所属以外のコミュニケーションを取らなくても生活の脅威とはならず、生活の質を下げずにやってこれた歴史がある。また、国民の中でも一部の例外を除いて総体的に劇的な変化を望まない人が多い印象がある。他国と比較しても、日本の多くの人が国際共通語(英語)の能力を獲得できていないことも関連している。
書籍「マーク・ザッカーバーグの生声」でも、「The best way to predict the future is to create it.」という発言がある。イノベーションを創出するには、常に発明者となることを意識する必要がある。
発明というと大事のように思えるが、広義の意味では「新たに物事を考えだすこと」なので、実際は一般人が自分の行動をその日の気分や思い付きで考えだすこととそれほど大差がない。
第七章 アジリティの鍵は個人の自律
インターネットによって誰もが情報にアクセスできる現代において、「情報アクセスを制限すること」よりも、「適切に情報を取り扱うリテラシーを高めること」の方が重要。
データという資源の取り扱いも、火の取り扱いと同様にその利便性と危険性を理解して、正しく取り扱うリテラシーが求められる。
情報を公開し適切かつ有効に取り扱うためには、情報を取り扱う人間同士のコミュニケーション活動が重要ということ。コミュニケーション活動の場としてプラットフォームやマーケットプレイス(情報の市場)が、情報共有体制を支援する場として機能すると考えられる。
・DFFT(Data Free Flow with Trust):信頼性のある自由なデータ流通。プライバシーやセキュリティ、知的財産権に関する信頼を確保しながら、ビジネスや社会課題の解決に有益なデータが国境を意識することなく自由に行き来する国際的に自由なデータ流通の促進を目指すコンセプト
「情報を公開するリスク」と「情報を公開しないリスク」のトレードオフは、今後あらゆる社会や事業で判断を迫られることになる。どちらかに偏った判断をしてしまうことを一番避けるべきで、信頼(トラスト)のもとで情報を公開できる仕組み(すなわちDFFT)が求められる。
課題はリーダーが解決するのではない。人々が自分事としてその課題解決の行動をするように促すのがリーダーの役目ということ。
ここでも「過去の行動からくる信頼」というキーワードが書かれている。リーダーシップは「立場のある人」ではなく、「信頼のある人」が取ることが重要。「立場のある人」は「信頼のある人」を最大限支援することが求められる。
人材戦略そのもの。人材の「育成」と「調達」をバランス良く継続的に行える組織こそがビジネスアジリティの高い組織と言える。
書籍「二千年紀の社会と思想」でも、自由意志に基づかない共同体や集列体ではなく、自由意志に基づく交響体や連合体(つまり、自らの問題意識や理想に基づいて、活動する組織)になることを推奨する記述がある。
これまでのような学校や会社など単一の共同体に従属するのではなく、複数の共同体に所属するという概念が常識になっていくかもしれない。このような組織運営の概念もまたビジネスアジリティを担保する考え方の一つと言える。