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[読書メモ] Business Agility③ / 山本政樹

企業の成長はもちろん個人としてより良く生きるために必須の能力「ビジネスアジリティ」について定義し、ビジネスアジリティの構造や特徴について網羅的に解説されている。ビジネスアジリティが組織能力に分類されることを念頭におくことで、デジタルトランスフォーメーションの成否を分ける本質的なポイントについても理解が進められる書籍。読書メモ③。

第六章 フラット化する組織

「誤った決断は、決断しないことよりもまし」という言葉があるように、精度を欠いても迅速な決断が求められる状況は確かに存在します。

Business Agility|P.215

むしろ決断をしないことが最も悪い状況を生み出してしまう。誤った決断から得た結果から次の判断材料を得ることを繰り返すことで、正しい判断をする可能性を継続的に高めることができる。但し、取り返しのつかない決断を安易にすることを推奨するわけではない。

従業員に「自発的に動いてよい」と伝えても、それまで経営者や管理職の指示で動いていた従業員は何をすればいいか悩んで右往左往してしまいます。また、管理職も自分の役割を見失い、混乱してしまうでしょう。

Business Agility|P.216

これは、民間企業で良く起こる現象。特に、協調性を強く重んじられた世代ではこの混乱が顕著に現れる。
ただ注意すべき点として、自発性を重視すべき場面と、協調性を重視すべき場面はケースバイケースでありどちらか一方の性質に偏ると上手くいかない。

現状のほぼすべての企業が階層型組織であることを考えると、一足飛びにネットワーク型組織を目指すよりも、まずは階層型組織をある程度前提にしつつも、よりフラットで、自律した個人がサイロを越えて連携できる組織を目指す方が、より現実的な取り組みであるとも言えます。

Business Agility|P.220

P.161に記述のある「特定のフレームワークに拘ると視野を狭める」という話にも関連している。ネットワーク型組織を目指す場合も、漸進的に無理なく移行するプランを立てることが重要。

大切なのはチームがサイロを越えてしっかり連携できることです。この時に鍵となる役割はチームのリーダー層で、通常の会社組織であれば部課長のような管理職や、業務に熟達したベテランたちがこれにあたります。

Business Agility|P.221

各組織のハブとなるリーダー層がサイロを越えた連携を意識するだけでも、実質的にネットワーク型組織のような仕組みは実現できる。

これからの評価は、究極的には「周囲からの信頼」という極めて定性的なものに帰結します。これは別に売上や利益、生産効率といった定量指標を評価軸とすることを否定するものではありません。

Business Agility|P.229

非常に共感できる。定量指標の評価軸が重要である点は否定せず、「周囲からの信頼」のように人間の価値そのものの評価が社会や企業にとって最重要な評価軸となる。これを信用スコアとして定量化しようとする試行もあるが、「周囲からの信頼」は機械的に良いことをするだけでは得られない領域のものも多く、定量化する仕組みを構築するにはもう少し工夫が必要かもしれない。自然現象を定量化・予測することが難しいのと同様に、人間を定量化・予測することも同様に難しい。

残念ながら現実の企業の大半は、所属チームの壁を越えて連携できる自律型人材を育てることはできていません。<中略>これは別に日本企業に限ったことではありませんが、文化的背景として”個”として振る舞うことに慣れておらず、労働市場の流動性が低いために同じ組織に長く所属し続ける傾向にある日本企業の方が、海外企業に比べて顕著であるように感じます。

Business Agility|P.230

日本という島国の特性として、所属以外のコミュニケーションを取らなくても生活の脅威とはならず、生活の質を下げずにやってこれた歴史がある。また、国民の中でも一部の例外を除いて総体的に劇的な変化を望まない人が多い印象がある。他国と比較しても、日本の多くの人が国際共通語(英語)の能力を獲得できていないことも関連している。

コンピュータの研究者で、その分野に多大な貢献をもたらしたアラン・ケイ氏は、「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」と述べました。最高のビジネスアジリティとは変化に対応すること以上に、自らが明確なビジョンを持って社会や市場にイノベーションをおこし、変化を創出する側となることです。

Business Agility|P.235

書籍「マーク・ザッカーバーグの生声」でも、「The best way to predict the future is to create it.」という発言がある。イノベーションを創出するには、常に発明者となることを意識する必要がある。
発明というと大事のように思えるが、広義の意味では「新たに物事を考えだすこと」なので、実際は一般人が自分の行動をその日の気分や思い付きで考えだすこととそれほど大差がない。

第七章 アジリティの鍵は個人の自律

組織の情報管理の仕組みをこれまでの「必要な情報にアクセスできる」から「どのような情報にでもアクセスできる」という考え方に変えていく動きが注目されています。

Business Agility|P.250

インターネットによって誰もが情報にアクセスできる現代において、「情報アクセスを制限すること」よりも、「適切に情報を取り扱うリテラシーを高めること」の方が重要。
データという資源の取り扱いも、火の取り扱いと同様にその利便性と危険性を理解して、正しく取り扱うリテラシーが求められる。

「徹底的に情報を公開する」とは、単に文書を公開するだけでなく、日々のコミュニケーション活動も含めた情報共有体制全体の構築を指します。

Business Agility|P.256

情報を公開し適切かつ有効に取り扱うためには、情報を取り扱う人間同士のコミュニケーション活動が重要ということ。コミュニケーション活動の場としてプラットフォームやマーケットプレイス(情報の市場)が、情報共有体制を支援する場として機能すると考えられる。

情報が公開されていなければ、社員がその情報を知らないことの責任は会社にあります。そして会社としては情報不足に起因するさまざまな不満や不信感に対応するコストを強いられます。情報が公開されていれば、それを知らないのは情報を取りにいかない個人の責任になります。

Business Agility|P.257

・DFFT(Data Free Flow with Trust):信頼性のある自由なデータ流通。プライバシーやセキュリティ、知的財産権に関する信頼を確保しながら、ビジネスや社会課題の解決に有益なデータが国境を意識することなく自由に行き来する国際的に自由なデータ流通の促進を目指すコンセプト

「情報を公開するリスク」と「情報を公開しないリスク」のトレードオフは、今後あらゆる社会や事業で判断を迫られることになる。どちらかに偏った判断をしてしまうことを一番避けるべきで、信頼(トラスト)のもとで情報を公開できる仕組み(すなわちDFFT)が求められる。

通常、リーダーシップは問題の解決策を示したり、決定したりする役割として語られることが多いのですが、このような「適応を要する課題」を解決していくリーダーシップの根底にあるのは「問いかけ」です。ハイフェッツ教授は困難な問題ほど、リーダーの役割は(解決ではなく)問題を提示し、それが問題であることを皆に理解させ、関係者一人一人が自身の問題として解決のための行動をおこすように方向づけることだとしています。

Business Agility|P.261

課題はリーダーが解決するのではない。人々が自分事としてその課題解決の行動をするように促すのがリーダーの役目ということ。

高い職位にいる人が、自身の専門性が及ばない領域で無理にリーダーシップをとろうとすれば、むしろ問題を悪い方向に導いてしまう可能性があります。逆にそのような職位になくても、説得力のある言葉や高い専門性、過去の行動からくる信頼があれば、権限を伴っていなくても人を動かすことができます。

Business Agility|P.266

ここでも「過去の行動からくる信頼」というキーワードが書かれている。リーダーシップは「立場のある人」ではなく、「信頼のある人」が取ることが重要。「立場のある人」は「信頼のある人」を最大限支援することが求められる。

ビジネスアジリティには「個人を、自律した個人に育てることができる(ないしはそのような個人を外部から獲得できる)組織能力」という側面もあります。

Business Agility|P.268

人材戦略そのもの。人材の「育成」と「調達」をバランス良く継続的に行える組織こそがビジネスアジリティの高い組織と言える。

人は生存のために組織に従属するのではなく、自らの問題意識や理想に基づいて、活動する組織(共同体)を選ぶようになっていきます。

Business Agility|P.270

書籍「二千年紀の社会と思想」でも、自由意志に基づかない共同体や集列体ではなく、自由意志に基づく交響体や連合体(つまり、自らの問題意識や理想に基づいて、活動する組織)になることを推奨する記述がある。
これまでのような学校や会社など単一の共同体に従属するのではなく、複数の共同体に所属するという概念が常識になっていくかもしれない。このような組織運営の概念もまたビジネスアジリティを担保する考え方の一つと言える。


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