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[読書メモ] 次世代プロジェクトリーダーのための すりあわせの技術① / 山本修一郎
次世代プロジェクトリーダーのための すりあわせの技術
新規事業系サービス開発における提供価値を最大化するための「すりあわせの技術」を紹介した実用書。近未来に新たな教育サービスを開発するストーリーに前半部分の多くのページが割かれているが、前半のストーリーに散りばめられた「すりあわせ」の実践技術について後半部分で体系的に解説する構成となっている。読書メモ①。
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はじめに ー 訪れる「専門家時代」にプロジェクトを成功させるために必要な技術とは?
人と人とのあいだをとりもって「調整」する目線だけでも、そのための能力だけでも足りません。機能と機能をつないで、価値を生み出すための組み合わせをつくり、そこに相互作用を生みだすこと、そして、それぞれの強みのどの部分をとり、どの部分を削るかを考えて実行すること、またそのための協働能力も必要になることでしょう。
「調整」の仕事は、これまでのシステム企画やシステム開発のプロジェクト業務でも存在していたが、筆者は「調整」ではなく「すりあわせ」という言葉を使っている。「調整」は何かを生み出すとは限らないが、「すりあわせ」という言葉によって明確に何かを生み出す行為であることを強調している。生み出すものは価値そのものであり、これを生み出すにはあらゆる機能や仕組みを熟知した上で組み合わせる創造力が求められる。さらに取捨選択といった判断力・実行力も求められる点にも着目したい。
第1部 202X年 新しい教育サービスの開発プロジェクト
CIOとは1970年代後半にアメリカで設置された役職で、当時は<Chief Information Officer=情報統括役員>を意味し、CIOの命名者として知られるウィリアム・シノット氏は「CIOとはCEOの直轄下にあって、全社的な立場から情報資源を活用する戦略を開発し、実行する最高責任者である」と定義した。
現時点でのCIOの定義。既にITは普及・浸透しており、近い将来に訪れるであろうITが意識されない社会においては情報資源を活用するだけではなく、情報資源を用いて事業戦略を開発(イノベーション創出)する能力が求められる。
通信インフラや通信機器が充実したこの時代、ホワイトカラーのほとんどの業務は自宅で行うことが可能な状況となっていたが、サラリーマンが自宅から外に出ないことによる本人および家族の精神的ストレスが大きな社会問題となり、「オフィスへの出勤」がなくなることはなかった。
2009年に出版された本書で、既に在宅勤務の未来予測がされており概ね筆者の予想に近い事象が現代で起こっている。
業務要件を徹底的に洗い出し、先にシステムの構成としてのアーキテクチャと、構成要素としてのコンポーネントの仕様を固めてしまい、それに合ったコンポーネントを市場から調達するってところがこのスタイルの意図です
ビジネスアーキテクチャからテクノロジーアーキテクチャを定めていく手法そのもの。要求定義から必要な構成要素(コンポーネント)を洗い出したのち、コンポーネントを開発するのではなく調達するという発想が重要。構成要素を分解しておくと、コンポーネントの調達や置き換えが容易になる。
顧客に大きな価値を生むサービスであったとしても、それを運用する社員に大きなストレスをもたらすようだと、その価値は大幅に低くなります。つまり、その企業にとって、人的資源の確保、あるいは次の知的財産を生み出す土壌形成としては不適切だという考え方です
これは実際のサービス設計・開発でもよく起こる問題。運用設計の考慮不足は実際のシステム設計・開発で散見される。価値を提供する相手は、顧客でもあり運用者でもある。システムを取り巻くすべてのヒト・モノに対して価値を提供できることが必要となる。
サービスの価値には、社会的価値、個人的な価値、そしてサービス提供者にとっての価値があります。これらの価値を継続的に測定していくことはとても大切なことです。
・KPI(Key Performance Indicator):業績管理評価のための定量的な指標
価値の継続的な測定とは、即ちKPIマネジメントのこと。『個人的な価値』は顧客や運用者個人にとっての価値。『社会的な価値』は個人の集合体に対する価値、例えば国や企業にとっての価値、学校や病院など公共性のある事物にとっての価値などが挙げられる。『サービス提供者の価値』は、ビジネス的な価値や運用者にとっての価値(運用の効率性の向上など)が挙げられる。
[読書メモ] 次世代プロジェクトリーダーのための すりあわせの技術②に続く