[読書メモ] Business Agility① / 山本政樹
企業の成長はもちろん個人としてより良く生きるために必須の能力「ビジネスアジリティ」について定義し、ビジネスアジリティの構造や特徴について網羅的に解説されている。ビジネスアジリティが組織能力に分類されることを念頭におくことで、デジタルトランスフォーメーションの成否を分ける本質的なポイントについても理解が進められる書籍。読書メモ①。
第一章 変化に適応する組織能力 ビジネスアジリティとは
ビジネスアジリティを「組織能力」と定義している点が重要。DX(デジタルトランスフォーメーション」が失敗しやすいのも、システムのデジタル化に注視し過ぎて、「組織能力(組織のケイパビリティ)」の観点を見落としていることが多い。
企業経営が常に健康状態を保つためにはこの考え方はとても重要で、細胞分裂や新陳代謝を促進し続けることで生命活動を維持することと似ている。持ち株会社(ホールディングカンパニー)も、本来はこの考え方を志向すべきかもしれない。
企業経営だけではなく人間社会のウェルビーイング(Well-being)が持続し続けることが重要。つまり、企業自体のビジネスアジリティだけが向上しても、本質的に人間社会のウェルビーイングが持続しなければ企業経営も持続しないことを示している。短期的な企業経営改善の視点だけでは、ビジネスアジリティを獲得できないということ。
第二章 新事業の創造
マルチモーダルなデータ(テキスト、音声、映像など、複数の形式や手段を組み合わせて取得されたデータ)をリアルタイムに取得する活動の重要性にも繋がる。さらに、マルチモーダルデータ取得から意思決定までもが自動化されれば人間中心社会の実現は理論上可能であると考えられる。
一時期流行した「論破」とは全く逆の思想。アリストテレス哲学の視点で考えた場合、人間は本質的に「善い」という上位の根本概念を理解しているので「論理」よりも「主観」を大切にするという点は共感できる。但し、ある時期や側面で「善い」とされているものも、別の時期や側面で「悪い」ものになりうるので慎重な判断と見直しを要する。
これはビジネスアーキテクトに求められる能力・スキルと同じ。特にビジネスプロセスに落とし込むためのプロセス設計の能力は、『現状のビジネスプロセスを可視化する能力』、『事業や社会構造を改善するために必要となるプロセスを特定する能力』に分割できる。市場、顧客、デジタル技術など人間が関わるあらゆる事象に興味が持てるかどうかが、この能力が備わるかどうかに強く関係してくると思われる。
正常系だけでなく異常系の設計も重要。言い換えれば、サービス設計だけでなく運用設計も重要であるということ。運用設計は出来るだけ人間が関与せずに運用できる仕組みを作ることで、目指すべき人間中心の社会構造に近づけることができる。
異なる領域の専門化を同じ目標に向かわせるためには、ビジョンの提示が必要。このビジョンは抽象的過ぎると共感が得られにくく、具体的すぎると特定の人にしか響かないものになってしまう。チームメンバー全員が自分ごととして認識するためには、人間にとって共通の価値観に訴えかけるようなビジョンが求められる。
継続・撤退の判断が非常に難しい。この判断は、株式売買の損切りと同様にある閾値でシステマチックに実行することが有効とされている。つまり、継続・撤退の判断基準を予め決めておき、KPIマネジメントによってこれを運用・実行することで判断がしやすくなる。
むしろ、これが最低限のベースの判断基準で、あとは論理的に説明できない「主観」や「洞察」をどの程度例外的に認めるかという議論になる。
市場や顧客接点からの洞察は大切にするが、顧客ニーズのみに頼り過ぎてはいけないということ。自分自身の直感や想いが大切であり、これが無い事業創造は仮にその事業が失敗したときに他責にする逃げ道を発生させることになる。
また、お客様接点やものづくり現場に近い人は、事業の必要性と蓋然性を把握している人物であることが多い。
第三章 ビジネスプロセスマネジメント
ビジネスプロセスは、マイクロサービスの集合体としても表現できる。
事業創造において、通常はもととなる業務やビジネスプロセスが存在することを示している。業務は原材料のアナロジーで表現が可能で、ビジネスプロセスは製品のアナロジーで表現が可能。新たな事業創造において、もととなる業務やビジネスプロセスをベースに拡張や改善を考えることで現行の業務やビジネスプロセスを再利用したり有効活用したりすることができる。
・トランザクティブメモリー(Transactive memory):同一の知識を組織の全員が記憶するのではなく、組織内の「誰が何を知っているか(Who knows What)」を共有することを重視する考え方のこと
個人の知識(ナリッジ)も、書籍の全てを丸暗記しているのではなく、「どの本に書いてあったか?」を覚えておくだけでも十分に知識を活用できることと同様。目次(インデックス)のようなもの。
・形式知:文章、計算式、図表などにより、客観的、論理的に言葉で説明ができる知識のこと
日本古来の職人技術が俗人的であることからもこれは伺える。また、日本発でフレームワークが国際標準化されるケースも少ないことからも伺える。
[読書メモ] Business Agility② / 山本政樹 に続く
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