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[読書メモ] Business Agility② / 山本政樹

企業の成長はもちろん個人としてより良く生きるために必須の能力「ビジネスアジリティ」について定義し、ビジネスアジリティの構造や特徴について網羅的に解説されている。ビジネスアジリティが組織能力に分類されることを念頭におくことで、デジタルトランスフォーメーションの成否を分ける本質的なポイントについても理解が進められる書籍。読書メモ②。

第四章 デジタルソリューションの活用

2000年代のIT動向としては、スクラッチ開発はすべてを一から開発しないといけないため負荷が高く、敬遠される流れにありました。しかし、2010年以降、「ローコード開発ツール」と言われるような開発支援ツールや開発環境の進化により、以前よりも効率的に自由度の高いシステムを開発することが可能になっています。

Business Agility|P.132

一時期はソフトウェア導入の選択肢としてスクラッチ開発やカスタマイズは課題が多かったが、昨今のローコード開発環境の発展によって事業の多様性に対応しやすい環境になってきている。

日本では90年代からITの導入をベンダーに頼りすぎた結果、自社のIT基盤を自社で管理できなくなる”ベンダーロックイン”という症状が起きてしまった企業が多くあります。

Business Agility|P.135

大切になるのは、ソリューションを活用する担当者が技術動向に普段からしっかりアンテナを立てているのか、そして自社の方針をしっかり定めた上で、目的に沿ったソリューションを活用しているのかといった、担当者の意識と視野の広さです。

Business Agility|P.137

・ベンダーロックイン:特定の製品やサービスを提供するベンダーに依存してしまい、そのベンダーから別のベンダーに切り替えることが難しくなる状況のこと

ベンダーロックインの説明において、自社で「管理できなくなる」という表現は正しい。IT基盤を外部ベンダーに委託することが悪いのではなく、委託した製品・サービスを管理できなくなることが問題ということ。目的に沿ったソリューション活用ができていれば、交換可能なベンダー製品を採用することが合理的となる場合もある。

デジタル技術の導入においてはビジネス部門の役割が鍵だと認識できている会社がどれだけあるでしょうか。

Business Agility|P.144

これはエンタープライズアーキテクチャが、ビジネスアーキテクチャを起点に開発されることからも明らか。デジタル技術の導入はビジネスアーキテクチャの設計思想を実現する具体的な「手段」のひとつでしかない。

実際のプロジェクトではIT部門や外部の専門家(コンサルタントやベンダー)が支援をしながら企画や要件定義の作業を進めていきますが、ビジネス部門のメンバーに一定の基礎知識とチームの一員としての覚悟を持ってもらった上で参画してもらうだけで、プロジェクトははるかに進めやすくなるのです。

Business Agility|P.147

ここではビジネス部門のメンバーがIT部門に歩み寄る必要性について説明しているが、同様にIT部門がビジネス部門に歩み寄る必要がある。具体的にはビジネス要件の根本的な理解として「いつ」、「だれに」、「どのように」サービスやシステムが提供されるのかを正しく把握することで事業創出プロジェクトの成功率は上がる。

もはや学習活動は「普段の業務を滞りなく進めた上で、余った時間で行う」という類のものではありません。普段から優先度の高い作業の一つとして認めていくべきです。

Business Agility|P.150

継続的な学習とは、「学生時代に行うべき活動」という誤認識がまだ残っている。学習という観点では文部科学省が「生涯学習社会の実現」で述べているように、人々が豊かな人生を送るためには必須の活動と言える。特にデジタルリテラシーは老若男女に関わらず必要なスキルだが、いかに楽しく能動的に学習できるように教育カリキュラムを設計できるかが今後重要になっていく。

中心には「Customere(顧客)」がいます。これはBAIがビジネスアジリティを「顧客の価値最大化のために変化に順応し、変化を創出し、かつ活用する組織の能力と意欲」と定義しているためです。

Business Agility|P.153

・BAI(Business Agility Institute):オーストラリアを拠点とするビジネスアジリティの促進と実践に関するグローバルなコミュニティ

顧客の「価値」の最大化という観点がポイント。顧客の価値基準は様々で、必ずしも金銭的価値だけではない。従って資本主義的な事業以外(例えば公共事業や非営利事業)にもビジネスアジリティは適用できる。

フレームワークは、特定のフレームワークだけにあまりに詳しくなってしまうと、むしろ視野を狭める側に働くことがあります。特定のフレームワークの知識を持つことで、そのフレームワークの教えに従うことに凝り固まってしまい、他のさまざまな考え方を学ぶことを止めてしまうためです。

Business Agility|P.161

これはビジネスアジリティに限らず、どのフレームワークにおいても重要なポイント。フレームワークにはそもそもテーラリング(実際の事案に合わせて変更・詳細化)が可能な余地をもつものが多いが、テーラリングを行わずに教科書通りに進めようとする態度は、逆にフレームワークを適用することに対する賛同が得られなくなるので注意が必要。

第五章 広がるアジャイルメソッドの適用

日本でも金融業界を中心に、過酷な営業ノルマが営業成績を高めるどころか、むしろ不正を助長してしまう事例が増えたことから、営業員に対する売上ノルマを廃止する動きが広がっています。

Business Agility|P.170

かつてはこのような営業ノルマは定量的な目標として十分に機能していた。昨今では価値の多様化に伴い営業ノルマのようなシンプルな数値目標よりも、顧客価値の向上を定量化するKPIを設定することや、KPIの設定内容を定期的に見直すことが求められる。

固定的でない数値目標とはどういったものでしょうか。最も分かりやすいのは業界内におけるシェア(順位)です。これらは業界をとりまく環境が不利になり当初の売上目標に達しなかった場合でも、その環境下において最善を尽くしたかどうかを測ることができます。

Business Agility|P.185

事業創出の黎明期においては、「業界シェアの過半数を獲得する」という数値目標はかなり機能すると考えられる。但し、事業が安定期に入った際には顧客価値を最大化するための数値目標は、「顧客満足度」をリアルタイムに測定できる数値目標に変える必要があるかもしれない。

複数の事業計画の中から、収益性や利回りだけでなく、前提事項に何らかの変化が起きた際の計画変更の柔軟性や、影響軽減策の多様性などを総合的に判断して投資を決定するのがリアル・オプション・アプローチ(リアル・オプションとも)と言われる手法です。

Business Agility|P.198

・リアルオプションアプローチ:不確実性の高いビジネス環境において、企業が柔軟に意思決定を行うための戦略的手法
・VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity):変動性、不確実性、複雑性、曖昧性の4つのキーワードの頭文字を取った現代ビジネス環境を表す用語
・インパクト投資:金融的なリターンを得るだけでなく、社会的、環境的な問題の解決に貢献することを目的とした投資の形態

世の中に予期できない変化が起きること(VUCAの世界)を前提としているため、事業計画を柔軟に変更できるかどうかが投資評価における重要な判断基準のひとつになっている。
インパクト投資もVUCAの時代に影響を受けた新たな投資判断基準と言える。不確実性の中でも確実に社会に必要な部分に投資すべきという考え方が芽生えつつある。


[読書メモ] Business Agility③ / 山本政樹 に続く



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