[読書メモ] Business Agility② / 山本政樹
企業の成長はもちろん個人としてより良く生きるために必須の能力「ビジネスアジリティ」について定義し、ビジネスアジリティの構造や特徴について網羅的に解説されている。ビジネスアジリティが組織能力に分類されることを念頭におくことで、デジタルトランスフォーメーションの成否を分ける本質的なポイントについても理解が進められる書籍。読書メモ②。
第四章 デジタルソリューションの活用
一時期はソフトウェア導入の選択肢としてスクラッチ開発やカスタマイズは課題が多かったが、昨今のローコード開発環境の発展によって事業の多様性に対応しやすい環境になってきている。
・ベンダーロックイン:特定の製品やサービスを提供するベンダーに依存してしまい、そのベンダーから別のベンダーに切り替えることが難しくなる状況のこと
ベンダーロックインの説明において、自社で「管理できなくなる」という表現は正しい。IT基盤を外部ベンダーに委託することが悪いのではなく、委託した製品・サービスを管理できなくなることが問題ということ。目的に沿ったソリューション活用ができていれば、交換可能なベンダー製品を採用することが合理的となる場合もある。
これはエンタープライズアーキテクチャが、ビジネスアーキテクチャを起点に開発されることからも明らか。デジタル技術の導入はビジネスアーキテクチャの設計思想を実現する具体的な「手段」のひとつでしかない。
ここではビジネス部門のメンバーがIT部門に歩み寄る必要性について説明しているが、同様にIT部門がビジネス部門に歩み寄る必要がある。具体的にはビジネス要件の根本的な理解として「いつ」、「だれに」、「どのように」サービスやシステムが提供されるのかを正しく把握することで事業創出プロジェクトの成功率は上がる。
継続的な学習とは、「学生時代に行うべき活動」という誤認識がまだ残っている。学習という観点では文部科学省が「生涯学習社会の実現」で述べているように、人々が豊かな人生を送るためには必須の活動と言える。特にデジタルリテラシーは老若男女に関わらず必要なスキルだが、いかに楽しく能動的に学習できるように教育カリキュラムを設計できるかが今後重要になっていく。
・BAI(Business Agility Institute):オーストラリアを拠点とするビジネスアジリティの促進と実践に関するグローバルなコミュニティ
顧客の「価値」の最大化という観点がポイント。顧客の価値基準は様々で、必ずしも金銭的価値だけではない。従って資本主義的な事業以外(例えば公共事業や非営利事業)にもビジネスアジリティは適用できる。
これはビジネスアジリティに限らず、どのフレームワークにおいても重要なポイント。フレームワークにはそもそもテーラリング(実際の事案に合わせて変更・詳細化)が可能な余地をもつものが多いが、テーラリングを行わずに教科書通りに進めようとする態度は、逆にフレームワークを適用することに対する賛同が得られなくなるので注意が必要。
第五章 広がるアジャイルメソッドの適用
かつてはこのような営業ノルマは定量的な目標として十分に機能していた。昨今では価値の多様化に伴い営業ノルマのようなシンプルな数値目標よりも、顧客価値の向上を定量化するKPIを設定することや、KPIの設定内容を定期的に見直すことが求められる。
事業創出の黎明期においては、「業界シェアの過半数を獲得する」という数値目標はかなり機能すると考えられる。但し、事業が安定期に入った際には顧客価値を最大化するための数値目標は、「顧客満足度」をリアルタイムに測定できる数値目標に変える必要があるかもしれない。
・リアルオプションアプローチ:不確実性の高いビジネス環境において、企業が柔軟に意思決定を行うための戦略的手法
・VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity):変動性、不確実性、複雑性、曖昧性の4つのキーワードの頭文字を取った現代ビジネス環境を表す用語
・インパクト投資:金融的なリターンを得るだけでなく、社会的、環境的な問題の解決に貢献することを目的とした投資の形態
世の中に予期できない変化が起きること(VUCAの世界)を前提としているため、事業計画を柔軟に変更できるかどうかが投資評価における重要な判断基準のひとつになっている。
インパクト投資もVUCAの時代に影響を受けた新たな投資判断基準と言える。不確実性の中でも確実に社会に必要な部分に投資すべきという考え方が芽生えつつある。
[読書メモ] Business Agility③ / 山本政樹 に続く
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