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2020新作落語台本 応募作品:派遣幽霊

コロナ期間中に作って応募した作品が最終選考の前まで通っていたので、ここに記します!うれしー!

ナレーション:バブルがはじけた後、大卒でも就職できない時期がしばらく続いて、就職氷河期なんて言われたことがありました。で、当時学生だった人たちは正社員として会社に入ることができず、非正規の社員として働かざるを得なかった人が多かった。最近になって、国がこれは問題だと思ったんでしょう、この就職氷河期世代の方々に対する就労支援を始めた。
でも、非正規雇用を推進したのは他でもない国なんだから、何を今更って思われているでしょうね。

タツヤ:いや~やっぱり有名な心霊スポットなだけあって怖いなあ。でもサークルの先輩に写真撮るまで帰ってくんなって言われてるから頑張って曰く付きの奥の部屋まで行かないと。(恐る恐る歩き、立ち止まる)
うわ~ここか。ちょっとなんかめっちゃガムテープ貼られてるじゃん。開けない方がいいよこれは。
いやでも、ここまで来たんだし、ちょっと入ってみたい気持ちもある。
・・・えいやっ!(ドアを開ける)

幽霊:お前かー!!!!!!
タツヤ:うわーーーーー!!!(失神する)

幽霊:すいません、ちょっと、すいません。
タツヤ:(目を覚まして)うわっ!ちょっ、え?!
幽霊:失神させてしまい、大変申し訳ございませんでした。
タツヤ:っちょ、え?!
幽霊:どうかこのことは、ご内密にしていただけないでしょうか。
タツヤ:え、どう言うこと?なんかのドッキリ?先輩の仕掛け?
幽霊:大変申し遅れました。私、株式会社開かずの間の佐藤と申します。
タツヤ:(名刺をもらって)え、開かずの間?なんかそういうサービスってこと?
幽霊:左様でございます。東京都から幽霊事業を受託しております。
タツヤ:どういうこと?幽霊事業って、驚かすサービスってこと?
幽霊:ご認識の通りでございます。こういった空き家に常駐し、お越しになるお客様に対して驚きや恐怖を提供しております。
タツヤ:いや驚きや恐怖って言われても、そんなん求めてないでしょ。
幽霊:私は契約社員なんでよく知りませんが、葬儀屋や宗教法人のロビー活動の結果、公共事業として予算がついたそうでございます。幽霊の存在感が薄れると葬式やお墓のニーズが減るからいけないということらしいのですが。
タツヤ:よくわかんねえな。そんなんに税金使われちゃたまったもんじゃないよ。
幽霊:申し訳ございません。私は契約社員でございますからあまり詳しいことは知らされておらず、こうやってお客様を驚かすのみでございます。
タツヤ:契約社員って、公共事業なのに都の職員とかじゃないんだね。
幽霊:お客様、行政は予算取ってくるだけで、後は委託先に丸投げでございますよ。かく言う弊社も広告代理店の下請けでございますから、東京都とはほぼ何の関わりもないのでございます。
タツヤ:闇が深い話になってきたなおい。でもあれなの、佐藤さんだっけ、佐藤さんは契約社員だけど、正社員の幽霊ってのもいるわけ?
幽霊:おりますよ。弊社には、私みたいな契約社員もおりますが、正社員もおります。貞子さんなんかはご存知かと思いますが弊社のスター社員で、今は現場を退いて管理職に就いております。
タツヤ:貞子さんは正社員なのか。
幽霊:ただ、弊社も零細企業でして、もっと有名なところで言えば、お岩さんやお菊さんは国の予算がついておりますので、ほぼ終身雇用でございますね。福利厚生もしっかりしてますし。残業代もしっかり出ます。
タツヤ:確かに、たまに出てこない時あるもんね。あれは有給使ってる日なのか。
幽霊:先月二人でバリに行ったとインスタにあげてました。でも最近一番稼いでるのはIT系の方々でしょうか。自分は何もしなくても、勝手にお話が伝播していきますので、クリック数に応じて報酬が決まる形ですので、私みたいに現場に行かなくても稼げるのでございます。
タツヤ:アフィリエイトビジネスみたいな話だな。
幽霊:実は私も、貞子さんみたいに正社員になれたはずだったんです。大学出て中堅どころの会社に着けば安泰だって思ってたんです。でも、バブルが弾けた後に、終身雇用は非効率的だ、成果主義だ、アウトソーシングがグローバルスタンダードだって言い出す人が出てきて、それでどんどん採用枠減らされて、気がつけばこの有様でございます。(泣き出す)
タツヤ:おいおい、幽霊が泣くなよ。
幽霊:すいません・・・。我々の業界では呪われた20年と言われてます。
タツヤ:聞いたことあるキャッチフレーズだな。
幽霊:すいません、色々話しこんじゃって。もう帰らなきゃ、
タツヤ:可哀想だなあ。なんとかしてやりたいものだけど。ちょっとググってみるわ。「幽霊」「転職」「年収500万以上」と(スマホをいじる動作)あれ、お兄さん、この会社なんかどう。株式会社ホーンテッド、外資系企業みたいだけど、年収500万以上だって。
幽霊:いやあ、外資系はちょっと・・・。ずっと和風でやってきたもので、ちょっと流派が違うといいますか。
タツヤ:やってみないと分からないじゃん、これ受けてみようよ。何々、筆記、実技、面接の3ステップで採用するんだってさ。俺も手伝うからさ、やってみようよ!
幽霊:大丈夫ですかね・・・。(スマホを受け取って)いやちょっとこれは無理ですよ。実技に「ポルターガイスト」入ってるじゃないですか。私そういうスキルないんで。
タツヤ:なんか動かしたっぽく見せればいいんでしょ。大丈夫!なんとかなるって、まずはやってみよう。

ナレーション:ということで、幽霊の転職活動に向けて二人で準備をすることになった。最初は乗り気じゃなかった幽霊の方も、次第に力が入っていった。

タツヤ:はい、じゃあ問題行くよ。「あなたは今、学校のトイレの個室にいます。少女が一人、隣の個室に入ってきました。一番最初にどのようなことをすると良いでしょうか」
幽霊:「遊びましょう、と女の声で言った後に、天井から個室を除く」
タツヤ:正解!次の問題、幽霊ビジネスを揶揄する言葉で、3Kとは何を指しますか。
幽霊:キツイ、汚い、気味が悪い。
タツヤ:正解!次の問題、「あなたの現場に、お祓いのためにお坊さんが来てしまいました。そのような場合、まず最初にどのようなことをすると良いでしょうか」
幽霊:会社に連絡して、提携先の寺のお坊さんかを確認する。
タツヤ:正解!いや~、すごいね。筆記は全問正解できるんじゃない。
幽霊:ありがとうございます。タツヤさんのおかげですよ。
タツヤ:じゃあ面接の練習してみようか。俺を面接官と思って、佐藤さんのことをいろいろ話してみてよ。
行くよ。何故、弊社に興味を持ったんですか。
幽霊:はい、私がこれまでに培った日系の幽霊のノウハウを、御社のようなグローバル企業の中で試してみたいと思ったからです。
タツヤ:日系幽霊のノウハウとは、具体的にどのようなものですか。
幽霊:お客様が気がつくまで暗い場所からじっと見つめるたり、急にすりガラスに顔を近づけてびっくりさせたりするスキルです。
タツヤ:弊社は外資系なので、ポルターガイストや、満月の夜に狼になったりすることを求められる可能性もありますが、それは大丈夫ですか。
幽霊:はい、私は状況に応じて身につけるべきスキルを習得していきますので問題ありません。実は御社で働くためにポルターガイスト3級を取得しました。
タツヤ:はい、OK。いいじゃない、スムーズに会話できてるじゃん。後は実技のポルターガイストだけだね。
幽霊:ここだけ不安なんですよね。ポルターガイスト3級とったはいいものの、実戦となると出来ない時があるんですよ。
タツヤ:大丈夫大丈夫。実技も練習していくから。じゃあほら、この財布を動かしてみて。(財布に見せかけた手ぬぐいを渡す)
幽霊:わかりました。頑張ってみます。(手ぬぐいを床に置く)ふっ、おっ、おおー!(財布は動かない)
ダメです。今日はちょっと調子が悪いみたいです。
タツヤ:佐藤さんなら出来るよ。諦めないで。
幽霊:わかりました。(手ぬぐいを床に置く)ふっ、おっ、おおー!(財布は動かない)
やっぱりダメです。不安になってきたな。うまくいくかな。
タツヤ:大丈夫!まだ当日まで一週間あるから、頑張って!
幽霊:多分、3回忌くらい間があけばできると思うんですけどねえ。

ナレーション:それから一週間、幽霊は一生懸命練習して、採用面接の当日になった。筆記と面接はうまく出来たが、実技の時間がやってきた。

社員:では、これからポルターガイストの実技を始めます。そこにあるろうそくを動かしてください。
幽霊:はい。よし、やるぞ、ふっ!おーし、いいぞ、いい感じ。いくぞ、いくぞ、いくぞ。(財布は動かない)
社員:あと2分です。
幽霊:今日もダメかな。よし、基本に戻ってみよう。ポルターガイストは、選択と集中だって書いてあったからな。この財布を選び、動かすことに集中するんだ。この財布を選んで、動かす。動かす。(財布が動く)
おおー!!!

タツヤ:(時計を見ながら)佐藤さん遅いなー、失敗しちゃったかなやっぱり。ポルターガイスト。いやーなんて言葉かけてあげたらいいんだろ。「ご愁傷様」とかかな。分かんねえ~。
幽霊:タツヤさん!
タツヤ:おーびっくりした。ちょっと佐藤さん、びっくりさせないでくださいよ幽霊なんだから。どうでしたか?
幽霊:採用されました!!
タツヤ:ええーめっちゃよかったですね!おめでとうございます。
幽霊:タツヤさんのおかげです。本当にありがとうございます。どうやってお礼したらいいものか。誰か呪いたい方がいらっしゃれば、一週間くらい枕元に出るくらいなら合法的に出来ますので。
タツヤ:いやコワイな。そんなのいいですよ。それより、 お祝いさせて下さいよ
幽霊: いやいやいや、何言ってんですか。やめてくださいよ祝うなんて。
タツヤ: 何でですか!
幽霊: そりゃあ、死んでますんで。

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