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ネットフリックスの人事戦略を真似るな。|カルチャーデザイン
・定期的な人事評価制度の廃止
・給与はその人の市場価値で決め最高額を払う
・休暇規定の撤廃、何日でも休める
・経費・旅費の承認プロセスを撤廃する
・承認フローの完全撤廃、上司に許可を取る必要はない
などなど、ネットフリックスの人事戦略・施策は今までの常識や直感に反するものが多いので派手でキレが良くてワクワクしますね。
一方で、それらを実施する上には入念な組織・文化作りのステップがあり、次のようなステップや、まず大前提として彼らの言葉で言う「高い能力密度」が保たれた組織だからこそワークすると創業者のリード・ヘイスティングは説明しています。
・とびきり優秀な人しか採用しない
・その人の能力に少しでも疑問がつき始めれば直ぐに辞めてもらう
・そうやって組織の「能力密度」を最大限に高め維持し続ける
・これが全ての人事施策の土台で「最高の同僚」だけが集まっている状態にする
ネットフリックスの特出した企業文化や人事施策を紹介した本は、第1章とも言える創業者リードと二人三脚で組織を創ってきた元人事責任者のパティ・マッコードによる2018年の書籍で、あらためて学びの深い内容でした。
こちらは良くも悪くもネットフリックスの奇抜な組織に対する考え方を五月雨に紹介する形でしたが、今回出版された創業者リードによる「第2章」と言える書籍は、その行間を埋める、ある種ネットフリックス人事戦略のフレームワーク的内容と言えます。
第1章はこちらでサラッとレビューしたので、
今回も読後感に背中を預けてざっと思うところをまとめてみたいと思います。一言で言うとするならば、
ネットフリックスの人事戦略を真似るな。
です。
ネットフリックスの人事戦略には順番がある
先ほど触れましたが、今回の内容で最も重要な部分は「ネットフリックスの人事戦略には順番がある」ということ。冒頭にも触れましたが、組織や人事施策のありとあらゆる内容には重要なステップがあり、その順番を踏襲しないとワークしない内容となっているんですね。
例えば
「経費・旅費の承認プロセスを撤廃する」
こちらを真の意味でワークさせるには、組織として次のようなステップを経た状態であるべきと創業者のリード自らが解説しています。
1. まず全社員がとびきり優秀で「能力密度」が高い状態であること
2. 彼らが「率直なフィードバック」を与え合う関係で支えられていること
3. 休暇の規定等、従来のルールを徐々に撤廃し「自由と責任」のある文化を醸成すること
4. コントロールではなくコンテキストのリーダーシップを実践すること
彼らの組織創りとして徹底しているのは「社員を大人として扱う」というところです。ここで言う「大人(Adults)」というのは
「物事の良し悪しを自ら常に正しい方へ判断でき、結果に責任が持てる」
という意味ですね。「能力密度が高い」というのも単に「仕事がとびきりできる」というだけの意味ではありません。
「自立した社会人としてとびきり優秀である」という人たちだけを徹底して集めることによって「能力密度が高い」状態をまず実現するわけですね。
その土台を大前提として、常に率直なフィードバック(意見や忠告)が360度言い合える環境・文化を作ることによって、それぞれの行動をより正しい方向に自動修正し合う「自律ベクトル」が働くように2番目の土台として構築されています。とびきり優秀な社員たちが、チームメイトが会社の利益に沿う行動をしているか、お互いに注意し合うようになるというスタビライザーが働く状態です。
これにより「自由と責任」のバランスの取れた文化を作り、コントロール(管理)ではなくコンテキスト(文脈)でチームを率いて行くということが組織全体として実現できてはじめて、
「経費・旅費の承認プロセスを撤廃」
という施策を現場に安全に落とし込むことができるわけですね。
「順番」以上に大切なもの
仮にこのネットフリックス人事戦略の「順番」を厳密に実施するのであれば、大前提の「高い能力密度」を保つために彼らが実践している
・とびきり優秀な人しか採用しない
・その人の能力に少しでも疑問がつき始めれば直ぐに辞めてもらう
・そうやって組織の「能力密度」を最大限に高め維持し続ける
・これが全ての人事施策の土台で「最高の同僚」だけが集まっている状態にする
こちらはかなり難易度が高いことがわかります。その上で、彼らが提唱する第二の土台「率直なフィードバック(=本人に面と向かって言えることしか言わない)」を徹底して実践するには、特に「空気」を読む日本の企業で実践を徹底するのは至難の業なんじゃないかと思います。
ただし、これを持って「ネットフリックスの人事戦略を真似るな。」と思った訳ではないんですね。繰り返しますが上記前提を実現するにはかなり難易度が高く時間もかかります。真の意味で彼らの施策を真似ていくのであれば、もう一つ重要な抑えるべき「前提」があると思っています。
それは、言わば「リーダー陣が中心となった運用レベルでの泥臭い徹底とPDCA」とでも言いましょうか。もう少しわかりやすく噛み砕いていきます。その前にインプットしておきたいのが競争戦略論におけるSP(Strategic Positioning)とOC(Organizational Capability)という考え方です。
SP(Strategic Positioning)とOC(Organizational Capability)
戦略的ポジショニング|SP(Strategic Positioning)
コンビニの例で分かりやすく例えるならば、ローソンが「自然志向の人」に向けた「ナチュラルローソン」を出店することは、分かりやすい「戦略的なポジショニング」です。SPの特徴はポジショニングを変える・工夫するという分かりやすさなので、外部から簡単に模倣することができます。
組織的ケイパビリティ|OC(Organizational Capability)
一方で、コンビニエンスストアでひとつ頭が飛び抜けているのはセブンイレブンですね。分かりやすい指標でいうと、コンビニ各社の日販は次の通り
セブンイレブン|65.7万円
ローソン|54万円
ファミリーマート|52.2万円
完全にセブンイレブンが特出しているわけですが、もちろん様々な要因がこの飛び抜けを支えている訳ですが、ひとつ要因として言われているのが「現場でのPDCA」能力です。セブンイレブンの創業者鈴木敏文さんは科学者みたいな人で、現場レベルでの仮説検証の繰り返しを組織レベルで実現した人なんですね。それぞれの店舗で地域・天候など様々な変数を考慮した上で行う発注管理こそ「欲しい時にある」「売れない在庫を減らす」という商売の基本が現場と仕組みの組み合わせで実現されていると言います。
この現場での運用力というのは、実際外からは見えづらく真似しづらいものんなんですね。このOC力こそが、ネットフリックスの派手なSP的人事施策を下支えしていると強烈に感じました。
つまり、リーダーを中心とした現場での運用力まで考慮して実行しない限り簡単にネットフリックスの人事施策を真似るべきでないと思います。
リーダー陣が徹底したハードワークで実現するネットフリックスの特出したカルチャー
ここでも、やはりカルチャーを実際に形作り、継続性のあるものとして組織に刻み込んでいいくのはトップを中心としたリーダー陣。
リーダー陣の中でも当然最も大事なのがトップ(ネットフリックスの場合は創業者のリード・ヘイスティング)のコミット。組織ピラミッドの頂点が行動で示さない限り、組織を行動レベルで変えることは絶対にできないのが組織の骨格とダイナミズムです。
その点、リード自身が実践し徹底し誰よりもネットフリックスの実現すべきカルチャーの土台を体現しているように読み取れます。そして、それだけでは不十分で、その下のリーダー陣へ徹底したインストールと強化をすることによって大きな組織末端レベルまでの浸透を実現させているのですね。
実際本書の中からもその片鱗を各所から垣間見ることができるのでいくつか抜粋していきます。
例えば、第二の土台である「率直なフィードバック」が常に正しく行われるようにするために次のような言及があります。
ネットフリックスの管理職は、フィードバックの正しいやり方と間違ったやり方を部下に教えるのに相当な時間をかける。効果的なフィードバックはどのようなものかを説明するための社内文書もある。研修プログラムにはフィードバックの与え方、返し方を練習するセクションもある。
という具合に。
今回の書籍の共同執筆者でネットフリックスのアウトサイダーであるエリンメイヤーはこう断言しています。
リード自身が範を示していることが、ネットフリックス全体で無制限休暇の仕組みがうまくいっている重要な要因だろう。CEOが率先垂範しなければ、この方法はうまくいかない。
これは休暇規定の撤廃のコンテキストのみならず、全ての人事施策に言えることですね。休暇規定ではこんな言及も。
リーダーとして何を言うかが全てではない。部下はリーダーの実際の行動を見ている。部下に「持続可能で健康的なワークライフバランスを見つけて欲しい」と言いつつ、自分が1日12時間働いていたら、部下は私の言葉ではなく行動を真似るだろう。
つまり、リーダーの行動の質を徹底的にネットフリックスカルチャー流に高め続けることが何よりも重要なファクターです。
また、この組織の率い方、リーダーシップスタイルがさらにリーダーの行動の質への依存を良くも悪くも高めていると言えます。それが
「コントロールではなくコンテキストのリーダーシップ」
です。
コントロールではなくコンテキストのリーダーシップ
ぐるっと回って、あらためてネットフリックスのカルチャー、人事施策においてもっと重要な運用ファクターがこちらなんですね。
「コントロールではなくコンテキストのリーダーシップ」
全リーダーが常に正しいコンテキストをメンバーに提示し続けられるかがこのネットフリックスカルチャーの鍵を握っていると思います(実際は、特定のカルチャーに寄らず文化の醸成や浸透にはここが最も重要)。
メンバーが自ら正しい判断ができるようにコンテキストを共有すること。AかBか、どちらが正か悪か、子供でも判断できるようなものであれば、コンテキストの設定と共有はイージーですが、ビジネスの現場で突きつけられる日々の難しい意思決定において、メンバーを信頼し、信頼できるだけの能力密度の高いメンバーだけを揃え続け、会社のビジョン・ミッションからブレずに適切なコンテキストをメンバーに与え続けることができる優秀なリーダー陣。
これを真の意味で実現しなければ、歯切れの良い表層的な人事施策だけを真似したところで、きっとうまくはいかないんでしょうね。
長くなりましたが、そんな読後感と学びのある香ばしいシリコンバレーの文献でした。
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【ネットフリックス人事戦略(改定版)】
— 冨田憲二 / Runtrip取締役 (@tommygfx90) May 11, 2021
3つのコアサイクルが軸の #HRを図解します
1. 能力密度の最大化
2. 率直なフィードバック
3. ルールの撤廃
▷ ポイント|"ハード面"だけを真似しても失敗する。3つのコアの"順番"と、組織上位レイヤーによる徹底した体現という"ソフト面"の実行が欠かせない pic.twitter.com/DuLNVv8eWo
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