「塔」2020年3月号(月詠)

深海のやうな部屋にて目覚めればいつからつけつぱなしのラジオ

頻繁に猫に会ふから猫道と名づけて今日も抜ける猫道

派手に音はづして笑ひ合ひながら室内楽になりゆく四人

どうせ全部自分で食べる大根に隠し包丁隠さず入れる

古本で買つた文庫の初版から蚯蚓のごとくこぼれるスピン

狂乱のコロラトゥーラに拍手するこの手で殺したのだ、私も

眠るたび心の奥に市が立ちぬくいぬくいと手招いてゐる

(p.95)

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