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くじらの背中で見た夢③〔元民間人校長のひとりごと〕

逆向きの人生

高校の校長先生が定年後に大学の特任教授などに就任するケースは良くありますが、私のように大学教員から高校の校長に転身する逆パターンは珍しいかもしれません。

きっかけは、茨城県教育委員会が発表した校長公募です。ネットで偶然見つけた令和元年(2019年)10月23日付「県立高等学校等 校長選考試験 実施要項」には以下のようなことが書かれていました。

  • 県教育委員会は、社会の変化や生徒の多様化に対応するため、本年(令和元年)2月に県立高等学校改革プランを策定した。

  • 同改革プランの核として、令和2年度に併設型中高一貫教育校を5校開設する。

  • 中高一貫教育校の目標は、豊かな人間性と起業家精神を兼ね備えた地域のリーダーや世界へ飛び立つ人財の育成である。

  • 中高一貫教育校の校長には、過去の事例にとらわれない新たな発想に基づく、新しい時代の学校のマネジメントができる方に就任いただきたい。

民間人を校長に登用する動きはすでに全国の自治体に広がっていたので、最初は「茨城県もやるんだ~」くらいの感想程度でしたが、実施要項の中に起業家精神というワードを見つけた瞬間、心を掴まれました。

私は、大学で学生が総じて受け身だということが気になり、もしかしたらそれまでの教育に課題があるのではないかと考えていました。さらに言えば、バブル崩壊以降日本経済が低迷を続けているのも、受動的な学習を中心とした教育形態が創造的思考を阻害し、イノベーションが生まれにくくなっているという要因もあるのではと推測していました。

このような、学校教育に対する漠然とした問題意識が、起業家精神の育成を教育方針に謳う茨城県教育委員会への興味につながりました。

また、小児神経学の専門家と発達障害のメカニズムに関する研究を進める中で、教育に直結する分野であるにも関わらず、学校との連携がほとんどなされていないことを歯がゆく思っていました。校長であれば、つなぎ役になれるかも、という考えも芽生えました。

とはいうものの、大学での研究生活は順調でしたし、学外活動で携わっていた地域の演奏家支援企画も社会包括プロジェクトに採択されるなど軌道に乗り始めていたことから、校長に、しかも県外の学校に転職するのは心理的なハードルが高かったです。

茨城県の公募を見つけてからというもの、校長になって自分が理想とする教育を実現してみたいという思いと、大学人としての充実した日々を捨てたくないという思いの間で揺れ動きました。

しかし、合格するかどうか分からないうちに悩むのは無意味だと思うようになり、とりあえず公募にエントリーしてみることに決めたのです。そもそも、教育に対する自分の考えと茨城県が求める校長像が一致しなければ、それまでのことです。

そしてこの選択が、その後の人生を大きく変える転機となったのです。


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