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文芸グループ「ハッチポッチ」~ごった煮ミステリーの執筆

文芸グループ「ハッチポッチ」メンバー

駒形 宗次(こまがた そうじ)

得意ジャンル: 推理小説
年齢:30歳
職業:中小企業の総務担当(会社員)
性格:計画性があり、段取りを組むのが得意。合理主義的な面がある一方、推理小説の“鮮やかな謎解き”にロマンを感じる。リーダーシップをとるが、時に周囲に振り回されがち。
外見:身長175cm程度、やや細身。黒髪短髪で、いつも無地のシャツにカーディガンのような落ち着いた服装が多い。メガネは使わず、視力はわりと良い。
好きな作家・作品:横溝正史、アガサ・クリスティ、法月綸太郎などの本格推理。特に「そして誰もいなくなった」の密室・孤島設定に影響を受けている。
文学以外の好きなこと:麻雀やボードゲームなどの頭脳ゲーム。料理番組を見るのが密かな楽しみ。


御子柴 隆士(みこしば りゅうじ)

得意ジャンル:ハードSF
年齢:24歳
職業:大学院生(物理学専攻)
性格:とことん理系思考で、SF的アイデアや科学考証が大好き。話し始めると細かい専門用語で止まらなくなるタイプ。好奇心旺盛で、新技術やガジェットにも目がない。
外見:身長170cm程度、細身。やや猫背気味。乱雑に伸びた黒髪をそのままにしている。いつもリュックを背負い、大学の研究室や図書館にこもっているイメージ。
好きな作家・作品:アーサー・C・クラーク、グレッグ・イーガン、伊藤計劃などのハードSF。SF映画も網羅しており、『ブレードランナー』『インターステラー』などがお気に入り。
文学以外の好きなこと:ロボットコンテストやプログラミング。電子工作が趣味で、3Dプリンターでいろいろ作ることもある。


北園 七海(きたぞの ななみ)
得意ジャンル
:ラブコメ
年齢:19歳
職業:大学1年生(文系学部)
性格:明るく社交的で、人間関係の機微を描くのが好き。恋愛観察が趣味で、カップルのやり取りに興味津々。思いつきで行動することが多く、軽やかな雰囲気を持つ。
外見:身長160cmほど、ボブカット。カジュアルなファッションを好み、キャンパスでも目立つ存在。笑うと八重歯がちらっと見える。
好きな作家・作品:有川浩、羽海野チカなど、青春恋愛要素がある作品を好む。少女マンガやアニメのラブコメ作品にも精通。
文学以外の好きなこと:SNSでの情報発信。カフェ巡りやスイーツ食べ歩き。映画鑑賞(特に学園ラブコメもの)。


西園寺 凌介(さいおんじ りょうすけ)

得意ジャンル:論文執筆
年齢:35歳
職業:コンサル系シンクタンクの研究員
性格:常にロジックを重視し、情報整理力に長ける。感情表現は控えめで、どちらかというとドライ。完璧主義で、文章の誤字脱字や体裁にも厳しい。
外見:身長178cm程度、スーツ姿が基本。黒縁メガネをかけており、髪は短く整えている。表情があまり変わらないが、たまに微笑むと柔和な印象。
好きな作家・作品:ジャレド・ダイアモンド、ユヴァル・ノア・ハラリなど、学術系ノンフィクションが中心。小説としては山田風太郎の『明治断頭台』のような史実の考証が緻密な作品も好む。
文学以外の好きなこと:統計やデータ分析、経済ニュースのチェック。資料のデザインやPowerPoint作りが妙にうまい。


加賀 美里(かが みさと)

得意ジャンル:時代小説
年齢:28歳
職業:市立図書館の司書
性格:重厚な歴史ロマンに胸をときめかせるタイプ。丁寧で物腰が柔らかいが、歴史や時代考証に熱くなると止まらなくなる。周囲からは「知的で穏やか」と思われがちだが、内面は意外と情熱家。
外見:身長165cmほど。長めの髪を後ろで一つにまとめていることが多い。やや和風美人な雰囲気があるが、普段は地味めな私服。メガネはかけず、視力はそこそこ良い。
好きな作家・作品:司馬遼太郎、池波正太郎、宮部みゆき(時代小説)など。歴史関連のノンフィクション書籍や博物館巡りも好き。
文学以外の好きなこと:茶道、華道などの伝統文化に関心がある。旅行先でも古い街並みを巡るのが好き。


橘 貴子(たちばな たかこ)

得意ジャンル:官能小説
年齢:32歳
職業:出版社の事務職(校正部門に所属)
性格:感情表現が豊かで、情熱的。恋愛や人間の欲望にまつわるテーマに強い関心を持ち、タブーを恐れない。周囲の雰囲気を読むのが上手く、さりげなく場を盛り上げる。
外見:身長168cm程度、スタイルは女性らしくしなやか。髪はセミロング。職場ではシンプルなオフィスカジュアル。ソフトな口調だが、内面に芯の強さを感じさせる。
好きな作家・作品:谷崎潤一郎、三島由紀夫の官能的な文体や、海外のエロティシズム文学も幅広く好む。官能と文学性を両立している作品を探すのが趣味。
文学以外の好きなこと:アロマや香水など、香りにまつわるもの全般。ファッション誌やコスメ情報のチェック。ダンスやフィットネスで体を動かすのも好き。

序章「文芸グループの集合と分業決定」

ネット上で作られた文芸グループ「ハッチポッチ」のメンバーがWeb会議をしていた。
「一週間で書く推理小説なんて、正気の沙汰じゃないですよ」
通話アプリ越しに北園 七海がぷくっと頬をふくらませた。
駒形 宗次は慌てて両手を振りながら、「いや、そこをなんとか」と苦笑いで応じる。
「とにかくストーリーは単純明快にいきたいんだ。孤島の洋館で連続密室殺人、これをしっかりミステリーとしてまとめようと思ってる」

隣の画面でスーツ姿の西園寺 凌介が「しっかり、と言いますが」と静かに口を開いた。
「乱雑な要素を入れると混乱を招きます。ラブコメ作家とハードSF作家と時代小説作家と官能小説作家では文体が散逸する可能性が高い」
真っ当な意見だが、その瞬間、別の窓から聞こえた声が割り込んだ。
「SF的要素は絶対に入れたいですね。例えば遠隔操作式の鍵とか、生体センサーでドアが開閉するとか。そこらへんの仕組みをがっつり考証しませんか」
勢いよくしゃべり出したのは御子柴 隆士で、リュックを横に置いたまま、何やら回路図らしきメモを見せびらかしている。

「理詰めでいくのはいいんだけど、事件の雰囲気が大事でしょう。どこかドキドキするような恋の駆け引きも入れたいです」
七海が早口でまくしたてる。駒形は「うん」と曖昧に頷きながらペンを走らせた。
「駒形さん、仮にラブコメ要素が増えすぎたら、密室殺人というより恋愛群像劇になりかねません。大丈夫なんですか」
西園寺の厳しい突っ込みに、駒形は一瞬ペンを止めた。
「そこは僕が全体を整理するから大丈夫…なはず。どうしてもラブコメテイストになるなら、最終的にしっかり謎解きがまとまるように軌道修正するよ」

そこへ加賀 美里が穏やかそうな表情で口を挟む。
「私も、あまりにも世界観がバラバラになるのは望ましくないと思います。でも舞台となる洋館の歴史をじっくり描きたいんですよ。できればちょっと時代小説っぽく、古い書簡や武家屋敷の名残を感じさせるような…」
ミステリーのはずが武家屋敷とは、と駒形の頭をよぎるが、加賀は熱のこもった目で続けている。
「それだけでも読者を惹きつけられると思うんです。雰囲気って重要ですから」

「うちの会社の上司に見せたら一発で没になりそうだけど。まあ、面白ければいいのよ」
ひょいと手を挙げたのは橘 貴子。
出版社の校正部門に所属している。
しなやかな仕草で髪を後ろへ払ってから、気楽そうに笑った。
「私が解決編を書くなら、推理の真相と登場人物の深い欲望を絡めたいわ。混ぜたら危険って言うけど、逆にスリリングでしょう」

駒形は全員の表情をじっと見つめたあと、深い息をつく。
「とりあえず、各章の担当を確認しておこう。第一章は御子柴くんで、第二章は七海さん、第三章は西園寺さん…」
その一つひとつを読み上げている途中、御子柴が何やら機械音を鳴らしながら「量子鍵」とか「相転移」とか聞き慣れない言葉を口走り始める。
七海は七海で「いや、ここは三角関係にしたほうが盛り上がる」とテンション高めだ。
加賀は歴史年表のメモまで画面越しに示してみせている。貴子は「欲望と罪の融合がミステリーの醍醐味よ」などと言い出した。

駒形は胃のあたりを押さえながら、それでも苦笑いで持ちこたえる。
「いや、みんな。いいアイデアなんだけど、最終的にはちゃんと推理小説の体裁になるようにしようね。僕の理想は文体の統一感…なんだけど……」
言葉を濁す駒形を横目に見て、西園寺が淡々と告げる。
「このグループは各々の主張が強いので、どうやっても文体がバラつくでしょう。ですが、締切が迫っている以上、手段を選んでいる時間はありません」
駒形はうなずいたものの、「全章ミステリー」を成り立たせるのはかなりの試練だと内心で覚悟を決める。
いや、まとまらないかもしれない。けれど時間がないからこそ、突き進むしかないのだ。

こうして分業体制が決まったものの、誰も彼もが独自の世界観を押し通そうとしている。
駒形は一応まとめ役としてパソコンの画面にプロットを打ち込むが、各章の文体がガラリと変わる予感だけはひしひしと伝わってきた。
それでも、まるで合宿のようなわくわく感が全員の声から伝わってくるのは確かだ。
グループの闇鍋のような創作が、はたしてどこへ向かうのか。
駒形は一つ深呼吸をし、あえて誰にも聞こえない声で「なんとかなるさ」と小さくつぶやいた。

1章「ハードSF的・第1の殺人」

<作成中の推理小説パート>

波長の異なる太陽光を分解する計器が、船の甲板に固定されていた。
高精度分光器と超音波計を併用することで、海面下の流れまで正確に把握できるという代物だ。
その名も「クロマ・レゾリューション・モジュール」。
神木家からの招待状を手にした乗客たちは、異様なほど丁寧に書き込まれた設計図を見ながら、舟底に設置されたエンジンの鼓動を感じていた。

「ここまで大掛かりな科学設備が要るなんて、ただのクルーズじゃありませんね」
執事の三谷がぼそりとつぶやく。
船は、レーザー誘導による自動航行システムを実装しているらしい。
離島を取り囲む潮流は複雑であるにもかかわらず、甲板の端にあるスクリーンには緻密なリアルタイム航路が映し出されていた。

ほどなくして、洋館がそびえる孤島の桟橋へ接岸した。
木造かと思いきや、その内部にはゲル状の断熱材が注入されており、従来の三倍以上の保温効果を持つ。
かつては戦時中の実験場として利用されていたが、今や神木家が新たなテクノロジーを導入し、家屋の概念を超えた構造体へと変貌させている。
招待された客人たちは静かな驚きとともに桟橋を渡り、巨大な扉の前に立ち尽くした。

「ようこそ、我が神木家の洋館へ」
満面の笑みで迎えたのは次男の翔太。
だが、その背後には最先端の顔認証システムを搭載したセキュリティゲートが鎮座しており、建物へ侵入するすべての人間をスキャンしていた。
外壁に取り付けられた無数のセンサーが、リチウムイオン電池の発する熱量さえ検知するというから、もはや要塞に近い。

迷路のような廊下の先にある書斎は特に物々しく、三軸方向からのロック機構を組み込んだドアが採用されている。
分厚い金属板を複数枚重ね、その継ぎ目には単結晶シリコンを用いた認証パネルが組み込まれていた。
この扉が一度閉まると、外から一切の干渉を受けないはずである。
それゆえ、誰かを内部で殺害し、鍵をかけて逃げるなど不可能に思われた。

しかし、その夜。
長男・亮が、この防備を施した書斎の中で、何者かに殺害された。
ドアはきっちりと施錠され、警報装置も作動した形跡はない。
どうやって犯行をやり遂げたのかは皆目検討がつかない。
まるで周波数の波長を操作するかのように、ドアのロック機構が外部から干渉を受けたのか、それとも別の手段があったのか。

「ドアの内部構造を解析すれば、真実が見えるはずだ」
探偵として招かれた御堂 剛が低くつぶやき、壁に取り付けられたタブレット端末を見つめる。
センサーが記録しているログに、亮が書斎へ入室した時刻は21時10分。
その後、ドアの電子ロックが解除された記録はない。
にもかかわらず、翌朝に部屋を開けると彼は血だまりの中で絶命していた。
まさに科学の常識をもくつがえすかのような密室状況だ。

御堂は肩から下げた端末を操作し、無機質な文字列をスクロールさせる。
「トランスバースモードか…いや、そんな単純な電磁波操作では扉を外部から開けられない」
その声に、隣で看護師の遠藤が戸惑いの表情を浮かべた。
「すみませんが、私にはさっぱりわかりません。
そもそもトランス何とかって何のことですか」

御堂は答えず、静かに部屋の内壁を指先で叩いてみる。
正確には壁の反響音を計測しているようにも見える。
共振が起きていないか確認しているのだろうか。
神木家に残されているテクノロジーが、いかに最先端だろうと密室が破られた事実を説明できなければ、亮の死は謎のままだ。
金属的な光沢の扉と、そこに刻み込まれた謎。
これが単に人為的なトリックなのか、それとも…

廊下からは強い風の音が聞こえてくる。
洋館の最上階に取り付けられた風力タービンが夜間運転を始め、館内の電力をまかなっているのだ。
風の流れさえ管理する神木家の技術力が、この殺人の背後にどんな影を落とすのだろう。
朝日が差し込む窓の外で、波が青白く乱反射していた。

<文芸グループパート>

「いや、ちょっと待ってくださいよ」
ハッチポッチのオンライン会議で、駒形 宗次が頭を抱えていた。
「SF要素が多すぎるって。
ここまで事細かに書く必要ありますか」
「え、まだまだ足りないと思ってましたけど」
ハードSF好きの御子柴 隆士が、いかにも納得いかなそうな口調で抗議する。

北園 七海は目をぱちくりさせながら、「そもそも人が死んだっていう事件性が全然前面に出てないんですけど」と言いづらそうに指摘した。
「本来は大財閥の長男が殺された大問題なんですよね。
でも扉の素材とか電磁波とかばっかりじゃないですか」

「鍵の構造に一章分割くほど必要あるのか、というところだな」
西園寺 凌介がメガネを押し上げながらさらりと意見を述べる。
「正確な数字や論理展開が欠けているので、論文としては甘い気がしますが、推理小説の導入としてはむしろ情報過多になっているでしょう」

駒形はペンを持つ手を緩めて、画面越しに御子柴の表情をうかがった。
「いや、御子柴くんのSFが悪いわけじゃないんだけど、もうちょっと事件のインパクトを描いてほしいんだ。
書斎がどうして密室になったか、どう鍵が開かないはずだったのに開いたか、要点だけでいいから」

「うーん、だけど密室は今どき珍しくもないトリックなので、やっぱりSFガジェットを全力で投入したいんですよ」
御子柴はリュックを背中で抱え直し、プログラムのウィンドウらしき画面をチラつかせている。
「次は船のエンジン構造をもっと詳しく書きたいんですけど。
航行途中で発生した量子揺らぎが何か関係してくるかもしれないし」

「ダメですよ。
そっちばっかりやってると推理小説にならない」
七海がわずかに困惑の表情を浮かべ、唇をとがらせる。
「第二章は私が担当なんですから、もっと事件の人物相関とか、動機とか残してくれないと恋愛要素絡めづらいですよ」

「まあまあ」
駒形がみんなを宥めるように声を上げた。
「御子柴くんにはちょっとだけ訂正してもらいながら、長男が殺された謎をもう少しシンプルに整理してもらおう。
せめて死体の状況とか、書斎内の様子も書いてほしい」
「うーん、了解です」
御子柴は渋々といった様子だが、了承の言葉を口にした。

「よし、じゃあ第二章は七海さんにバトンタッチ。
次はどんな話になるのか楽しみだけど、とにかく僕は推理として形になるように頑張るよ」
駒形はなんとか議論をまとめつつ、次なる原稿の到着を待つことにする。
彼の表情には不安が色濃いが、ここまで来たら前に進むしかないと思っているようだった。

2章「ラブコメ的・第2の殺人」

<作成中の推理小説パート>

神木家の洋館は、暗い雲が垂れこめる空気を忘れさせるほど、やけに華やかな気配に包まれていた。
長男・亮が密室殺人の被害者として発見されてまだ数日しか経っていないというのに、妹の麻里江は二階の大広間で優雅にお茶を楽しんでいる。
その隣では探偵・御堂 剛が微妙に照れくさそうな顔をしていた。

「探偵さんは本当に甘いものは苦手ですか。
こんなにおいしいスコーンを前にして、手をつけないなんてもったいない」
麻里江はくすくすと笑いながら、クリームを塗ったスコーンを彼の口もとへ差し出した。
御堂は視線をそらしつつ、かすかにため息をつく。
「事件の捜査をしている最中なんですが。
その、甘いものはあまり得意じゃないんですよ」

窓の向こうでは、神木家の執事・三谷が静かに庭を掃いていたが、二人のやり取りを気にする様子はない。
次男の翔太は、そんな様子に苦笑いしながら「姉さん、ちょっと浮かれすぎじゃないか」と呟いている。
しかし麻里江は気にも留めず、探偵の表情をじっと見つめた。
「ねえ、探偵さん。
あの書斎の密室トリックって、もうわかったのかしら」
「正直、手がかりが少なくて難航しています。
それより、あなたがたご家族の事情をもう少し聞かせていただきたい」

「うちの事情ならつまんないわよ。
みんな財産に興味があるとか言われてるけど、実際のところはそんな単純じゃないの。
ただ…」
言いかけた麻里江の言葉が濁った瞬間、探偵のスマートフォンが振動した。
彼はちらりと画面を確認して眉をひそめる。
「看護師の遠藤さんが呼んでいます。
何か急ぎの連絡があるようです」
そう告げると、御堂は立ち上がり、そそくさと部屋を出て行った。

麻里江はしばらく視線を追いかけたあと、そっと唇を尖らせてスコーンをかじる。
「探偵さんって、真面目そうに見えて意外と不器用ね。
少し構ってあげたら、すぐ困った顔になるんだから」
彼女の言葉を耳にした翔太が肩をすくめた。
「姉さんも大概だけどな。
兄貴が殺されて、まだ安心できない状況だよ」

ところが麻里江は軽やかに髪を払っただけで、あまり深刻そうな様子を見せなかった。
「こんなときだからこそ、笑うのが大事なんじゃない。
それに父の財産がどうとか、もう聞き飽きてるもの」

探偵が戻ってきたのは、それから数時間後だった。
麻里江は長い廊下を歩きながら、薄暗いランプの灯りに顔を照らされる御堂と目が合う。
「どう?
早く解決してくれないと、私だって不安になるわ」
「安心してください。
必ず真相を突き止めます」
御堂は投げやりではないが、どこか麻里江を意識しているようにも見える。
その微妙な距離感は、すれ違うたびに際立っていた。

不穏な空気が一挙に高まったのは夜半過ぎだった。
廊下を見回りしていた三谷の声が響き渡ったのである。
「お、お嬢様!
神木 麻里江様が…」
駆けつけた御堂と翔太、そして看護師の遠藤が見たものは、施錠された寝室の中で倒れている麻里江の姿だった。
鍵は内側から閉められており、窓も固くロックされた状態。
どこからどう見ても、完全なる密室にしか思えない。

麻里江は血の気を失い、冷たい床の上で動かない。
扉をこじ開けた翔太が「そんな…」と言葉をつまらせる横で、御堂は激しく動揺しながらも室内を見回した。
「なぜだ。
ほんのさっきまで、彼女は僕と会話をしていたのに」
探偵としての冷静さが一瞬失われるほど、麻里江の死は衝撃的だった。

ベッドのそばに落ちていたスカーフに、血がにじんでいる。
遠藤が脈を確認しようとするが、すでに手遅れのようだ。
「施錠された部屋、手を出す余地のない窓。
一体どうやって…」
御堂は必死に扉の内側を調べ始めたが、妙な痕跡は見当たらない。
電子錠の類いはなく、古い金属製の鍵で施錠するタイプのようだ。
廊下には悲鳴を聞いて駆けつけた執事の三谷と看護師の遠藤、呆然と立ち尽くす翔太。
そこへ一拍遅れて、大財閥の当主である神木 昭三の容体を見舞うはずだった医師も現れる。
しかし、その医師ができることは、もう何もなかった。

「兄さんの後は、姉さんまで…」
翔太はあふれそうな涙をこらえつつ、壁に手をついてうなだれる。
まるで恋の駆け引きに浮かれていた時間が嘘のように、洋館を深い闇が覆いはじめていた。

<文芸グループパート>

「ちょっと、七海さん!」
駒形 宗次がオンラインミーティングの画面越しに声を上げる。
「これ、推理より恋愛感情の描写がずっと長いし、事件の緊迫感がやたら少ないんじゃないか」
「うーん、そうですかね」
北園 七海が首をかしげる。
「せっかく密室殺人なのに、探偵と被害者(麻里江)との軽妙な恋のフラグを立てるのが楽しくて。
でも最後にちゃんと殺されちゃったじゃないですか」

御子柴 隆士が横から口を挟んだ。
「いや、殺されちゃったって…密室トリックの詳細がぼんやりしすぎるでしょう。
どうしてドアが閉まってるのに、誰も出入りできないとか、もっとその辺のプロセスを書かないと」

西園寺 凌介が淡々とPC画面の資料を見ながら言葉を続けた。
「第二の殺人を扱う章としては、殺人現場の描写が弱いと思います。
しかも恋愛パートにほとんどのページを割いているので、事件の要点が不明瞭になっている」
「えー、でも張り切ってラブコメ風に書いてみたんですよ」
七海は悪びれずに笑みを浮かべる。

加賀 美里がそっと口を開く。
「麻里江と探偵が微妙な距離感だったのは面白かったですが、殺人をあまりにさらっと進めると読者が混乱するかもしれませんね」
「まあ、次の章で西園寺さんが補足してくれればいいかもしれない。
でも、もう少し事件を重視してほしいな」
駒形は急ぎメモを取りながら、なんとかフォローを試みている。

「お兄さんが亡くなった後に姉が殺されるって、衝撃の展開でしょう。
それならもうちょっと真面目に追いかけてくださいよ」
御子柴が真顔で訴えるものの、七海は肩をすくめるだけだ。
「恋愛の空気も大事じゃないですか。
謎ばっかりだと重苦しいから、探偵と被害者の恋の芽生えを描きたかったんです」

駒形は口元を押さえて、次にどんな対応をするか頭を回転させる。
「まあ、仕方ない。
これで第二章が完成したんだね。
じゃあ、第三章は西園寺さんにまとめてもらおうか」
「了解です。
僕は情報を整理しながら、この殺人事件の可能性を検証してみます」
西園寺は書類を見直しつつ、妙にやる気を感じさせる口調だった。
実際、このラブコメ色の濃いテキストを、どう次に繋げるのかは謎だが、彼には彼の流儀があるのだろう。

北園 七海は終始満足そうにうなずいている。
「ちょっとくらい恋があったほうが、読者のハートを掴めると思います。
ほら、殺人事件ってだけだと暗いじゃないですか」
御子柴と駒形は同時に顔を見合わせたが、どちらも言葉が出てこなかった。
そうしてハッチポッチの原稿は、予想以上に恋愛色を帯びながら、次の章へバトンタッチされることになった。
論理的な文章が得意な西園寺は第三章をどのように仕上げるのだろうか。

3章「論文調・第3の殺人」

<作成中の推理小説パート>

本項では、神木家洋館内で生じた連続殺人事件の第三の事例について検証を行う。

まず、確認すべきは第1の殺人(長男・亮の死)および第2の殺人(長女・麻里江の死)において見られた共通点と相違点である。

  • 書斎ならびに寝室が密室状態であった点は共通しており、それぞれの犯行時刻に直接的な目撃者が存在しなかったことも共通している。

  • 一方、異なる点としては被害者が殺害される直前の行動(亮は書斎へ入り音声記録をつけていた可能性、麻里江は大広間にて探偵と会話していた直後など)があげられる。

上記状況を踏まえ、第三の殺人が発生した時系列を整理する。

次男・翔太が被害に遭ったのは、父・昭三の容体を見守るため医師が頻繁に出入りしていた頃と推定される。

当該時刻に限って、屋敷内の人間はそれぞれ以下の行動をとっていた。

  • 探偵・御堂 剛は地下室にて電源設備と警備装置のログを再確認しており、看護師・遠藤は昭三の病室に常駐していた。

  • 執事・三谷は玄関付近で宿泊客の対応をしていたと証言しており、医師は当主の診察記録に集中していたという。

現場状況は、以下の通りである。

  • 翔太が発見されたのは、自室のベッド横で倒れていた状態である。

  • ドアは完全に施錠されていたが、鍵は内部のテーブル上に放置されていたことが確認されている。

  • 一方、窓には開放や破損などの形跡はなく、廊下の監視システムの映像には外部への出入りが見られなかった。

以上の事実から、翔太の死もやはり密室状態で発生したと推測できる。

遺体の状況は以下の通りである。

  • 頭部には鈍器の一撃らしき外傷があり、周囲に争った痕跡はない。

  • 付着していた血痕は一点に集中しており、大きな移動は認められない。

よって、室内で短時間かつ制限された動きの中で殺害に至った可能性が高い。

動機に関しては、第1および第2の殺人と同様に遺産相続や家族内の確執が浮上する。
しかしながら、当主・昭三が危篤状態であることや、兄妹間の遺産分配をめぐる争いは想像にとどまるため、現時点で真相を特定することは難しい。
また、一部の現代的なテクノロジー(外部からの鍵開閉システムなど)も導入されているが、翔太の部屋のドアに関しては特殊な電子ロックは使用されていない。
したがって、犯人が外部から遠隔的にドアを解錠した可能性は低いと考えられる。

総合的に判断すると、三兄妹が同様の「密室」で殺害されている事案から、屋敷内部での犯行である蓋然性が高い。
ただし、犯人の行動可能性は限定的な要素が多く、洋館内に滞在している人物のうち誰が、どのタイミングで、どのように翔太の部屋に侵入したかについては追加の検証が必要である。
以上の観点から、第3の殺人における最大の問題は「ドアが内側から施錠されていたにもかかわらず、被害者以外の介在が疑われる点」である。
これが人為的トリックであるか、あるいは何らかの錯誤や偶然が重なったのかは断定できない。

結論として、長男・亮、長女・麻里江に続き、次男・翔太までが密室状態で殺害されたことは、連続殺人であるとほぼ確定視される。
屋敷外からの犯行に関しては監視システムの記録に矛盾が見当たらず、内部の人物が関与していると推測できるが、犯人特定には至らない。
いずれにせよ、当主・昭三が意識を取り戻さない限り、真実を聞き出すことは困難と考えられる。
今後も追加調査を継続する必要がある。

<文芸グループパート>

「西園寺さん、すごい…」
オンライン会議でファイルを開いた駒形 宗次が、ゆっくりと息を吐いた。
「いや、これ小説っていうより完全にレポートじゃないですか」

北園 七海は目を丸くしながら、画面に表示されたテキストを眺めている。
「文章が固いっていうか、実験データみたいな書きぶりなんですけど。
これ、物語の盛り上がりとか感じませんよ」

「感情を挟まずに事実を整理するなら、この形式が最適なんです」
西園寺 凌介がむしろ誇らしげにうなずいてみせる。
「殺害時刻や室内の状況を論理的に分析するのが、犯人像を絞り込むための近道ですから」

御子柴 隆士は苦い顔でそのファイルをスクロールしながら、「それはわかりますけど、読者が寝ちゃいますよ」と思わず言葉をこぼす。
「しかも第三の殺人があっさり報告されただけって、いくらなんでもインパクト薄すぎませんか」

加賀 美里は少し考え込むように眉を寄せた。
「確かに、翔太が殺されるシーンも簡単に述べられていて、まるで検死報告書みたいですね。
でもいずれにせよ、これが西園寺さんの書き方なんでしょう」

橘 貴子が苦笑してから、優しい口調で言う。
「私は雰囲気のある描写が好きだけど、こういう淡々とした書き方も逆に衝撃的というか。
ただ、お話として面白いかは別かもしれないわね」

駒形は額に手を当てて、なんとかまとめようと努めている。
「西園寺さんの論文調、情報量は多いから参考にはなるんだけど、読者が置いてけぼりになる恐れがあるなあ。」

北園 七海が口をはさむ。
「第三の殺人まで起きちゃったし、推理が進展してるんだかどうなんだか…
西園寺さんとしては犯行可能性を分析してるつもりでしょうけど、読者には殺人が淡々と列挙されてるだけに見えるかも」

すると西園寺は小さくうなずいてから資料を閉じる。
「想定通りです。
僕はあくまで論理で事件を解明しようとしただけで、娯楽性は追求していません。
次の章で他のメンバーが補足表現を加えれば、作品としては成立するでしょう」

駒形は若干疲れた顔で、画面越しに微笑みかける。
「わかりました。
じゃあ第四章は加賀さんが書くんですよね。
密室殺人の謎が少しでも解きほぐされるといいんだけど」

こうして論文調であまりにも事務的に報告されてしまった第三の殺人も、次の章へ持ち越しとなる。
西園寺による緻密すぎるデータ整理は、果たして推理小説として役に立つのかどうか。
第四章において、時代小説好きの加賀はどんな描写をするのか。
他のメンバーはなんとも言い難い表情を浮かべながら、それぞれの担当作業へと戻っていった。

4章「時代小説風・探偵の推理進展」

<作成中の推理小説パート>

洋館に立ちこめる霧は、まるで戦国乱世の烟のごとく、あたりを白灰色に塗りつぶしていた。
その気配の中、探偵・御堂 剛は廊下をゆっくりと歩み、三度の殺人が揺るがせぬ事実として迫る現状を静かに見据えている。
耳を澄ませば、古木が軋むような音が廊下を這いまわり、まるで忍びの足音を思わせる。
先の出来事により神木家の三兄妹がすでにこの世を去ったのは、屋敷にとって大きな痛手であろうが、それよりもなお深い闇が巣くう気配がある。

「かの執事・三谷殿が、つねづね要職を務めながらも、一体どのように各部屋の動きを把握していたのか」
御堂はそうつぶやくと、まるで合戦における軍略図でも広げるかのように、屋敷の見取り図を床に置いて見つめこんだ。
「看護師・遠藤殿は、当主・昭三の体調を最優先にしていると申すが、あの者が持つ鍵や注射器、そして薬瓶の数々が、密室の謎と無縁と断じてよいのか。
いや、むしろその背後には、古き武家のような利害が絡んでいるかもしれぬ」

そう言い終えると、御堂は廊下の片隅にある古めかしい甲冑に目をやった。
戦国の武者が身にまとった鎧のごとく、洋館に不釣り合いなほど重厚なそれは、神木家の歴史を象徴する品なのだという。
しかし、いかなる由緒があろうとも、ここで重要なのは、その甲冑に隠された細工や暗号めいた印がないか、である。
御堂は膝をつき、甲冑の継ぎ目を丹念に調べ始めた。
「まるで討ち入りの秘道を探るかのように、細部を検分せねばならぬな」

物音を聞きつけた執事・三谷が、いつもの静かな態度で近づいてくる。
「探偵様、甲冑などをご覧になっていかがなさいます。
それは神木家の宝物ではありますが、真相解明に寄与するとは思えませぬ」
御堂は面を上げ、三谷の顔を見据えた。
「何事も可能性の一端として否定はせぬほうがよい。
ときに、そなたがこの屋敷の見取り図を把握しておるのは当然として、兄妹たちの動向についてもすべてご存知か。
もしや、狭間の時間に異なる行動があったやもしれぬ」

三谷はそれ以上を語らず、平伏こそしないまでも、丁寧に頭を下げてみせるだけであった。
「はて、拙者に隠すことなどございませぬ。
ただ、かように連続した不幸が重なり、私も苦慮しているのです」
その言葉が真実かどうかを図る術はないが、御堂にはどうにも腑に落ちぬ気配が拭えない。

看護師・遠藤もまた、当主の寝室近くで手持ちぶさたに佇んでいた。
「探偵様、われらはただ医療のために尽くすのみ。
それでも密室の謎を解きほぐせるなら、お力添えしましょう」
だが、その声音にあるわずかな震えは、まるで武士の誓いを破った後ろめたさにも似ていると、御堂は密かに思う。

御堂は一度、洋館の大廊下に戻り、壁に飾られた古文書に目を通した。
神木家がこの孤島に屋敷を構えた経緯や、戦禍を免れるための地下通路の伝説など、どれも信ぴょう性に欠ける伝承の類が記されている。
しかし、その中には妙に生々しい記述も混ざっていた。
「呪詛の儀式を行い、己の欲望を満たすために血を捧げた」など、禍々しい言葉が走り書きされているのだ。
これが三兄妹の連続死と関わりを持つかは定かではない。
ただ、御堂の心中には、さながら敵陣深くに忍び込む兵士のような警戒心が芽生えていた。

その夜、御堂は書斎の資料棚にある古い帳面を取り出し、ひとりでページをめくり始める。
「こうして屋敷に連なる暗闇を探るうち、何者かの巧妙な企みに行き着くはずだ。
いずれにせよ、執事か看護師か、あるいは別の者か。
この密室の術を操るのは、まるで戦国の忍者のごとき者に違いない」
帳面には日々の来客記録が淡々と記されており、三谷や遠藤の名もたびたび登場している。
しかし決定的な証拠というには弱い。
それでも御堂は、ここに深い企みに似た匂いを嗅ぎとり、不穏な足跡を感じていた。

勝機を得るべく、御堂はあえて部屋に飾られた甲冑の脇差を手に取り、その重さを確かめた。
「この刀こそ、実際に使われたのかは分からぬが、何らかのヒントが刻まれておるかもしれん」
まるで真相を斬り裂こうとする戦国の将のように、御堂の視線は鋭く輝いた。

<文芸グループパート>

「え…探偵がなんで甲冑を調べてるんですか」
オンライン会議で原稿を読み終えた御子柴 隆士が、呆れた声を上げる。
「いや、これもう戦国ドラマじゃないですか。
洋館に甲冑があってもいいけど、そんなに尺をとる必要あるんですか」

北園 七海もちらちらと文章を読み返して、「私が描いた探偵ってこんな重厚な言い回しでしたっけ…」と首をかしげている。
「本当に推理を進めてるのか、ひたすら古文書を読んだり甲冑を触ったりしてるだけみたいに見えちゃいますよ」

西園寺 凌介は画面越しに淡々と意見を述べる。
「加賀さんの時代小説調は一貫していて面白いと思いますが、事件の情報が新たに得られたわけではないですね。
執事と看護師への疑いを示唆しているだけで、具体的な根拠は示されていない」

「いや、でも雰囲気は好きなんですよ」
橘 貴子がソフトな口調でフォローを入れる。
「甲冑とか古文書とか、神木家のダークな歴史の匂いがプンプンしていいじゃない。
ただ、時代劇口調がやたら続いてるから、本筋の殺人事件が霞んでる感じもするわ」

駒形 宗次は大きく息を吐きながら、「加賀さん、もう少し現代的な推理っぽい要素が欲しかったかも…」とPCの画面を見つめる。
「探偵がいきなり刀を握ってもなあ。
読者は困惑するでしょう」

その指摘に、加賀 美里本人が画面の向こうで神妙な表情を浮かべる。
「すみません。
つい、神木家の歴史にひと味加えようと思ったら、筆がどんどん時代小説に寄ってしまいまして…」

御子柴は苦笑してから、「これもう時代考証も何もないですよね。
現代の孤島にあり得ないレベルの古風な描写が混在してるし、戦国時代と絡めすぎると読者が混乱しますよ」と口をとがらせている。

駒形はメモ書きをぱらぱらめくりながら、「でも、これで第四章は完成ってことでいいんですよね。
いちおう探偵が執事や看護師を怪しんでるくだりはあるし」とまとめにかかろうとする。
「最後のほうで書斎の資料や甲冑を調べてるあたりは、謎解きに繋がるのかもしれません。」

北園 七海が思わずぷっと吹き出して、「ここまで来たら、もう何でもアリですね」と冗談めかして笑う。
「確かに、章ごとに作風がバラバラすぎて大丈夫なんですかね」

駒形は返す言葉に詰まりながら、頭をかきむしっている。
「大丈夫かどうか、もう僕にもわからないけど、締め切りは待ってくれない。
とにかく次の橘さんに期待するしかないな」

こうして、戦国テイストな重厚描写の第四章が完成し、一同は次なる展開にむけて動き出す。
官能小説好きの橘は渡されたバトンをどのように料理するのか。
探偵が甲冑を手にした理由が真っ当に説明されるかどうかは、まだ不透明なままだった。

5章「官能小説風・解決編」


<作成中の推理小説パート>

燭台の揺らめきが、洋館の廊下にしなやかな影を落とす。
その薄闇を切り裂くように、探偵・御堂 剛はゆっくりと歩を進めていた。
床板に残る足音は、まるで誰かの鼓動に重なるかのように熱をはらんでいる。
この夜は湿度までが官能を誘うかのようで、壁際のランプが艶めく微光を放っていた。

ほど近い部屋の扉がわずかに開いており、そこから甘い香りに似たものが漂ってきた。
そして、その奥に立っていたのは看護師・遠藤。
仄暗い灯りを背にした遠藤の白い腕は、まるで誘うようにそっと扉を支えている。
「探偵さん、今宵はいろいろとお疲れでしょう。
当主のお部屋は私が見ていますから、よろしければ少し休まれては…」

遠藤の声は、唇から零れ落ちる蜜のように艶めかしい響きを帯びていた。
御堂はその言葉を受けながらも、かすかな違和感を拭えない。
まるで彼女が、己の欲望と罪を隠そうとする薄絹のように優美な仕草で近づいてきたからだ。
「お気遣いありがとう。
だが、今はこの事件の結末を見届けなければならない」
御堂は目を伏せたまま、小さく首を横に振る。
すると、遠藤は唇をかすかに歪め、しなやかな手つきで扉を閉めた。

まるで媚薬のように濃厚な空気が廊下を覆う中、奥の部屋から執事・三谷が静かに現れた。
彼のまなざしはひどく落ち着いているようでありながら、その奥に際立つ暗い欲望が、御堂の目にはありありと映っているように思えた。
「探偵様、こんな夜更けまでお疲れのことかと。
もしお休みになるなら、私がご案内いたしましょう」
まるで巧みな誘惑を織り交ぜるように、三谷の声は低く、絡みつくように部屋の空気を震わせた。

それでも御堂は、まるで炎の奥に隠された秘密を暴くかのように薄目を開いて微笑む。
「その必要はない。
密室殺人の謎は、今こそ解かねばならぬ時を迎えたのだ。
お前たちの企みと、互いを支える激情を洗いざらい暴くためにな」
その言葉に、三谷の瞳がわずかに揺らぐ。
遠藤の唇から、ささやかな息が漏れたようにも見えた。

一室に集められた少数の者たち。
残された登場人物は探偵・御堂、そして執事・三谷と看護師・遠藤、それに医師が一人。
当主・昭三は危篤状態で寝たきり、外部からの来訪者はおらず、三兄妹はすべて殺害されている。
こうして、三谷と遠藤が対峙する形となった室内には、甘くも重たい張り詰めた空気が漂っていた。
遠藤はまるで獲物を見据える獣のように、三谷の傍らへ寄り添っている。

御堂は静かに口を開き、囁くような低音で二人の視線を捕らえた。
「まず、施錠された部屋の鍵を外から開けるなどという不可思議が、実際にどのように可能となったかを語ろう。
三谷、お前は当初よりこの洋館のセキュリティシステムを熟知していたはずだ。
書斎は電子ロック、寝室は古い金属鍵。
だが、いずれも外部から干渉できるように微細な細工が施されていた」

御堂の指が、まるで官能的なダンスを踊るかのごとく、そっと机上の鍵を持ち上げてみせる。
淡いランプの光に照らされた金属が、妖しい輝きを放つ。
「あらかじめ鍵穴に仕込んでおいた極小のフックを遠隔操作して、鍵を回す。
外からは到底見破れない微細な構造を、お前たちは共同で作り上げていた」
探偵の声は絡みつく甘い香りのように低く、三谷の奥底に眠る欲望を炙り出すかのようだった。

その言葉に、三谷の頬がかすかに震える。
遠藤は鍵をじっと見つめ、唾を飲み込むように喉を鳴らす。
まるで二人が共有する禁断の秘密に触れられ、甘美と恐怖が混じり合った官能を味わっているかのようだった。
医師は壁際で気まずそうに視線を落とし、何も言わないまま固まっている。

やがて御堂は、じりじりと二人へ近寄る。
「さらに、お前たちが狙ったのは財産だ。
当主・昭三を毒殺しようと画策したが、彼の子ら――長男、長女、次男がそれぞれ手出しをしようとした。
それが邪魔であったゆえに、先に三兄妹を密室で仕留める必要があった。
甘く淫らな唆し合いの末に、お前たちは共犯へと堕ちたのだ」

遠藤の目に、しとどな光が宿る。
まるで偽りの仮面が剥がれ落ち、官能的な隠微さがむき出しになるかのように、彼女は三谷と視線を交わす。
微かな身じろぎが、その艶やかな白衣の布を揺らすたび、血の匂いとは別種の生々しい匂いを立ち上らせていた。
「御堂さん…あなた、どこまでご存知で」
潤む瞳を向けながら、遠藤は言いかけて言葉を切る。
三谷は黙したまま、彼女の肩に手を添えた。
その仕草がどこか甘美な連帯感を示唆し、犯人同士の絆を象徴しているかのように見える。

御堂は机の上に鍵を音を立てて置き、ゆっくりと二人を指し示した。
「真実は、すでにここにある。
三人の死をもたらした密室殺人のトリックも、財産を狙う動機も、すべてはお前たちが仕組んだ狂宴だったのだ」
三谷が微かにかしずくように頭を垂れ、遠藤はそれを静かに見守っている。
その様は、耽美な破滅を分かち合う恋人同士にも似ていた。

御堂は苦い息を飲み込むように言葉を継ぐ。
「それが欲望の果てなら、もう隠し通すことはできないだろう。
さあ、真犯人はあなただ――執事・三谷、そして遠藤。
あなた方の愛欲が絡み合い、神木家の財産という誘惑に溺れ、血と罪の結末を招いた」

部屋の隅で息をのむ医師。
廊下の奥からかすかに聞こえる風の音が、その官能的な緊張感を囁くように高めている。
三谷と遠藤は互いの指を絡めるようにして握り合った。
まるで、捕縛される瞬間にもなお甘美を感じ取ろうとしているようだった。

そして、あくる朝。
執事・三谷と看護師・遠藤は御堂の推理を前にして、その背徳の共犯を認めた。
幼子のように震える指先と、唇を噛みしめる横顔が、むしろ扇情的な輪郭をかたどる。
彼らは財産を求め、そのために当主を毒殺しようと画策し、それを阻む三兄妹を排除したのだ。
この欲望の劇場は、溶け合うような淫らさと共に、ひっそりと幕を閉じた。

<文芸グループパート>

「…え、ちょっと待って」
オンライン会議でテキストを読み終えた駒形 宗次が、あっけにとられた顔を画面に映している。
「これ、解決編ですよね。
でも官能描写ばっかり目立って、肝心のトリックや動機の説明が薄いような…」

「私、書きたかったのはこういうエロティックな絡み合いと、罪の匂いが漂う感じなんですよ」
笑みを含んだ口調で橘 貴子がさらりと答える。
「推理部分はしれっと盛り込みましたけど、ほら、ちゃんと真犯人が執事と看護師ってことは説明しましたし」

北園 七海は口をぽかんと開いたまま、「確かに共犯関係は分かったけど…やたらと濃厚すぎませんか。
読者がどこに注目すればいいのか困惑しそうですよ」と、小さく肩をすくめている。

御子柴 隆士は「SF的ガジェットはもう死んだのか…」とぼやくようにうなだれる。
「電子ロックの細工とか、量子どうこうって話はどこ行ったんですか。
結局、淫靡な表現が多すぎて執事と看護師の愛人関係が主軸になってるんですけど…」

加賀 美里はむしろ感心した様子で、「なるほど、濃密な愛憎劇として読むなら面白いわね。
でもこれ、推理小説としてどうなのかしら…」と首をかしげている。

西園寺 凌介が画面越しに淡々と言葉を投げた。
「論理展開よりも関係性に重きを置いていますね。
ただし事件の全貌は掴めたようで掴めない印象を受けます。
読者には真犯人が分かっただけで充分なのかどうか…」

駒形は苦笑を浮かべながら、「でもまあ、官能パートが強烈なのは予想してたけど、ここまでとは。
これじゃ本当にR指定の推理になりそうだ」とメモ書きを閉じる。
「一応、これで解決編ってことなんですよね。
長男、長女、次男を密室で殺した犯人が執事と看護師で、動機は財産狙い。
方法は鍵穴への細工で遠隔操作していた、と…」

橘 貴子が満足そうに頷いて、「そういうことですね。
あとは最終章のエピローグでどうまとめるか、楽しみにしてます」と軽やかに付け加える。

北園 七海は「ここまで来たら最後もどうなるか分からないですね」と笑い、御子柴 隆士は「僕のSF要素はどこに行ったんだ」と愚痴をこぼし続ける。
加賀 美里は「時代小説調も薄れちゃったわね」と残念そうだ。
西園寺 凌介は「まあ、締切に間に合うなら何でもいいですが」と静かに文書を閉じた。

駒形 宗次は頭をかかえつつ、「これで一応、解決編は完成…したのかな。
次はエピローグをどうするか考えないと。締め切りまで時間ないから皆で分担して書いていこうか」と、とりあえず次のステップに移るしかないと覚悟を決めている。

こうして、罪と欲望の官能的解決編は、濃厚な余韻をまといながら第五章として仕上がった。
メンバーたちは各々の思いを抱えたまま、最後の章に向けたエピローグ作りへと歩みを進めていく。
全員で分担するエピローグは、果たしてどのような出来になるのか。

最終章「混在エピローグ&審査結果」

<作成中の推理小説パート>

第一段落(ミステリー調)
探偵・御堂 剛は、洋館の玄関先で警察の到着を待っていた。
深い静寂のなか、三人の兄妹を殺めた犯人が執事・三谷と看護師・遠藤であったことを、彼はすでに証明している。
重苦しい空気が張りつめているが、事件は一応の決着をみたはずだった。
だが、まだ何か見落としてはいないか――その疑念が御堂の胸をかすかに締めつける。

第二段落(ハードSF調)
しかし、この洋館にはなお解明されていないハイテク要素が山積している。
屋根に据え付けられた風力タービンは、量子インバータによって高効率エネルギー変換を行い、宅内のセキュリティ端末を稼働させていた。
施錠機構に仕込まれていた極小フックの素材が、未来的な複合材料である可能性も否定できない。
御堂は端末を片手に、ログ解析の最後の一手を打つべきかどうか、迷いを抱いていた。

第三段落(ラブコメ調)
それでも、洋館に残された複雑な空気の中には、儚くも軽やかな恋のきらめきが混じっている。
麻里江を失った悲しみに暮れる探偵の心には、小さな後悔が宿っていた。
もし、あのときもう少しだけ彼女との会話を楽しんでいれば、こんな結末にはならなかったかもしれない。
翔太が抱いていた自由奔放な恋の夢も、今はもう二度と帰ってはこない。
複雑に絡み合う思いの残滓が、廊下を吹きぬける風とともにすり抜けていく。

第四段落(論文調)
次に示す論点は、犯人逮捕の現場における物理的および心理的状況についてである。
第一に、執事・三谷と看護師・遠藤は犯行に使用した鍵の遠隔操作トリックを認めているが、その細部仕様は未だ不明瞭である。
第二に、二人は屋敷の立地条件と警備ログの隙間を利用し、連続密室殺人を実行したことを供述している。
第三に、相続問題をめぐる家族間の争いをいち早く封じ込めようとした結果、殺人に及んだとして動機を説明している。
なお、これらの供述が法的にどこまで有効かどうかは、今後の捜査次第と言えよう。

第五段落(官能小説調)
されど、薄衣の下には、まだ妖艶な秘密が息づいているのかもしれない。
遠藤がどのように三谷と契りを交わし、いかなる甘美な企てのなかでこの罪深い密室殺人を生み出したのか。
闇に溶けるような廊下の隅に、揺らぐ燭火が映し出すのは、互いの熱を感じ合った痕跡――そういった欲望の名残に違いなかった。
探偵・御堂の視線は、その隠されし情事の舞台をまるで覗き見るかのように彷徨するが、今やそれが解かれることはなかった。

第六段落(時代小説調)
かくて時は移ろい、風に吹かれる廊下に静けさが戻る。
朽ちぬかに見えた洋館の秘め事も、今はただ、笹の葉に触れる秋のような儚さを帯びるばかり。
執事と看護師は、さながら下剋上を企む忍びのごとく、神木家に大いなる爪痕を残した。
探偵・御堂は、まるで疲れた武将のように息をつき、遠ざかる足音を見送っている。
ここにおいて、血塗られた密室劇の幕がひとまず降りた。

第七段落(複数スタイル)

しかし、量子揺らぎの残滓に震える扉へ伸ばした御堂の手は、まるで甘酸っぱい青春ドラマのように一瞬ためらい、次の瞬間には戦国の合戦図を映す古文書のページをめくっている。
あふれる欲望を隠しきれない遠藤の白衣は、もはや機能性を逸脱した官能の象徴となり、その脇で論理的に検証を進める資料が床に散乱していた。
「ここには愛も憎悪も罪も、そして科学さえ揃っている。
あとは俺が、どう締めくくるかだけだ」
御堂はそう呟きながら、キーボードのような端末を握りしめ、恋もSF考証も同時に解き明かすかのように微笑んだ。

<文芸グループパート>

「何とか完成して良かったです。ですが…」
オンライン会議の画面に映る駒形 宗次の表情は、やや憔悴気味だ。
「一応、エピローグとしていろんな文体を詰めこんだけど、正直めちゃくちゃカオスじゃないですか」

「まさに闇鍋。なんでも盛り込んでありますね」
北園 七海が面白がるように肩をすくめる。
「でも読者さん、読むの大変そう」

「僕のSF考証は、ほとんど断片的なままで終わってますが」
御子柴 隆士が恨めしそうにリュックを抱え直す。
「量子揺らぎの話とかも描写が弱すぎるし」

「ラブコメパートだって麻里江さん、あっさり退場しちゃいましたし」
七海は口をとがらせたが、すぐに明るい声で続ける。
「まぁ、私としては楽しんで書けましたけど」

「私の時代劇設定も、なんとも中途半端な印象です」
加賀 美里が残念そうに呟きながら、メモを閉じる。
「甲冑の出番とか、結局あんまり説明してないですし」

「官能パートはいいとして、推理部分がおざなりになっている感は否めませんね」
西園寺 凌介が淡々と総評を述べる。
「論理的整合性に欠ける部分が多々あるかと」

そこへ、駒形が厳かな声で発表する。
「えー、雑誌の編集部から結果が届いたんですけど…」
彼はスマホの画面を確認し、そっと眉をしかめる。
「…うわ、ボロクソだ。
『文体が統一されておらず、読者を混乱させるだけ』『推理部分が弱く、SFか恋愛か時代劇か官能か何をしたいのか分からない』って」

「しょうがないよ。普通に考えたら散々な評価になるに決まってます」
御子柴は悲しそうにため息をつく。
七海は「まぁ、逆にすごいって褒めてくれる人もいるかも?」とフォローするが、西園寺は無言で首を振るだけだった。

「私は面白いと思うんだけどね。こういう節操ないコラボも」
加賀 美里が肩をすくめて微笑む。
橘 貴子は「やりきった感があるからいいんじゃない?」と明るい声で賛同する。

駒形はスマホをぽんと机に置き、肩をすくめて笑ってみせる。
「じゃあ…次、どうします?」
すると、六人のうち誰が言い出すより先に、七海がわくわくした声を上げた。
「ホラー大賞、いきましょうよ! どうせなら、今度はホラー小説で応募してみませんか」

「ホラーか…SFやラブコメや時代劇、官能表現も入れられるし、何気に相性いいかもしれない」
御子柴が呟くと、加賀は「戦国怪談みたいなのも書けそう」と目を輝かせる。
貴子は「なら血みどろの愛憎劇もいいかも」と笑みを深めている。

西園寺は小さく頭をかきながらも、「まぁ、また締切に追われるんですか」と半ば呆れ顔だが、どこか楽しげでもあった。
最後に駒形が「うん、それじゃ決まり!」と大きくうなずき、画面越しにガッツポーズを取る。
「次はホラー大賞! 今度こそ、僕たちのコラボで…やれるところまでやってみよう!」

そうして、まったく懲りない文芸グループ「ハッチポッチ」は、新たな地獄のスケジュールを抱えながらも、再び動き出そうとしていた。


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