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ChatGPTで始める小説作成

第1部「ChatGPTとの出会い」

石嶺総一は、遅い午後のカフェでパソコンを開いていた。
テーブルには小さなコーヒーカップが乗り、彼は深く息をついて液晶画面を見つめる。
25歳という年齢にしては少し疲れた表情だが、それは新人文学賞の締切が迫っているせいだった。
黒髪の短髪にステンレスフレームのメガネをかけ、背筋を伸ばしてもどこか肩が張っているのは、神経質な性格が表に出ているのかもしれない。

「また行き詰まっちゃったなあ。」
声に出しても、解決策は浮かばない。
それでも書き進めなければならないのだと覚悟を決め、ノートパソコンのキーボードに指を伸ばす。
ところが、何度か入力しては消し、また頭を抱える動作を繰り返す。

そんな姿を見ていたのだろうか。
カウンターで接客をしていた有馬真理恵が、スッと彼の隣にやってきた。
ロングヘアを一つに結んで、カジュアルなエプロン姿がよく似合っている。

「総一さん、なんだか疲れてませんか。
コーヒーのおかわりいかがです。」

「助かる。
いや、どうにもストーリーがまとまらなくてさ。
新人賞向けに長編を書いてるんだけど、プロットを組んでからの細かい描写が全然進まないんだ。」

有馬は少し首をかしげながら、「ChatGPTって使ったことありますか」と尋ねた。
どこか楽しそうな笑顔で、彼女は聞きなれない単語を口にしている。

「ChatGPT。
聞いたことはあるけど詳しくは知らないんだよな。
AIで文章を作ってくれるみたいだ、くらいにしか。」

「簡単に説明すると、ネットに接続されたAIチャットサービスですね。
私が今オススメなのはChatGPT 4oってバージョンです。
速く文章を出してくれるから、アイデアに困ってる人にはちょうどいいんですよ。
一気にストーリーや設定を提案してくれるんです。」

言いながら有馬は、カフェの隅にある自分のノートパソコンを手に取った。
「こんな感じで私もミニ小説とか書かせてみてるんです。
試しに見ます?」

促されるままに画面を覗くと、そこにはタイトルがいくつも並んでいた。
「学園ラブファンタジー編」「近未来ロボット冒険譚」「純文学風片思いストーリー」など、ほんの数行の指示で生成したという短い作品だという。

「たとえばラノベ風に、と指定するとこうなります。」
有馬がサンプルを開く。
そこにはライトノベル調の地の文と、主人公の独白がややオーバーに書かれた短い一節があった。

――作中作(ラノベ風)――
「俺の名前はクロガネ・イズミ。
王立アカデミアでごく普通の学生をしていたはずなのに、なぜか美少女騎士と一緒に世界を救うことになった。
それも魔王に呪われた右腕のせいで、強力な闇の力を扱えるようになってしまったからに違いない。
まったく、こんなのゲームかアニメの展開だっていうのに……。
けど、自分にしかできないなら、やるしかない。」

明るくテンポのいい語り口が特徴的な文面で、総一は一気に読み終える。
「なるほど、かなりラノベ調だ。
ただ、確かに勢いはあるけど、ちょっと定型的というか。」

「そうなんです。
めっちゃ書くのは早いんですけど、アイデアとか表現がかぶりやすいですよね。
でも、ほら、スピード重視なら便利ですよ。
思考の整理にもなるし、面白い展開を次々考えてくれますから。」

総一は興味を引かれつつも、どこか半信半疑だった。
しかし新しい刺激になりそうだと思い、有馬の案内でChatGPT 4oのページにアクセスする。
画面に向かい、試しに「ミステリ風の短編を作ってください」と入力してみた。

すると数秒のうちに、簡潔なプロットと探偵のセリフが生成される。

――作中作(ミステリ風)――
「寒々しい洋館に集められた六人の客人は、まさか誰かが殺されるとは夢にも思わなかった。
一人目の悲鳴が廊下を震わせたとき、探偵役のイザワ・レイコはすぐに現場へ走った。
犯人はきっとこの中にいる。
しかし、足跡は一つしかない。
密室トリックか、はたまた仕掛けられた幻惑か。
イザワは震える指先をこらえながら、次々と仲間の目を見つめた。」

「速いなあ。
でも、なんだろう、どこかで読んだことがあるような定番の感じがする。」
総一はそう率直に漏らす。

有馬は笑って肩をすくめる。
「当たり障りなくまとまった文章が出てくるところが、ChatGPT 4oらしいかもしれません。
そのぶんスピードと取り回しのしやすさが魅力なんですよ。
一つの案がふるわなくても、すぐ次の案を出してもらえますし。」

「じゃあ、ついでにホラーを……。」
総一がさらに指示を与える。
画面にはこれまた短い怪奇風の文章が生み出された。

――作中作(ホラー風)――
「夜の森を抜けた先に、朽ちた洋館がひっそりと佇んでいる。
そこに灯りがあるとは思えないのに、窓からぼんやり光が漏れていた。
それを確認した瞬間、背筋に嫌な汗が流れる。
扉を開けると、生臭い風が頬を撫でた。
誰もいないはずの廊下に、足音だけが響いている。
何もいない。
それなのに、確かに聞こえる足音。
その先にある扉が、ゆっくり軋んだ音を立てた。」

「おお、これは……。
雰囲気は出てるけど、やっぱり決まり文句っぽいところが多いな。
あと、もうちょっと独自の描写が欲しいところか。」

総一の顔には、少しだけ笑みが浮かんでいる。
大量に書籍を読み込んで文体分析を得意としている彼にとって、こうした定番表現の集合体は逆に参考資料になるかもしれない。
ただ、このまま自分の新人賞用の原稿に使うのはどうかと考え、目を細めながら画面を閉じる。

「これをどう料理するかは、自分次第ってことかな。
有馬さん、ありがとう。
ちょっとこれでしばらくアイデア練り直してみるよ。」

少し満足そうにうなずく有馬を見送って、総一は席に戻る。
視界の端にはまだバイト中の有馬の姿があり、彼女は笑顔で客の接客に応じていた。
彼女には新しいものをどんどん試す行動力がある。
自分には足りない要素だと感じた。

翌日、総一は友人の佐久間海里にもChatGPT 4oの話を持ちかけた。
茶髪の短髪にスーツをきっちり着こなす彼は、出版関係にも少し顔が利く。
いつも笑顔で温厚な性格だが、文章のチェックには厳しく、誤字脱字を見逃さない。

「面白そうだね。
じゃあ試しにそのホラー風のやつ、読ませてもらってもいい?」

佐久間がノートパソコンの前で読み始めると、あっという間に目を通し、軽く首をかしげた。
「アイデアとしては悪くないんだけど、どこか型にはまってるっていうか。
これをそのまま使うと平均的になっちゃうかも。
もうちょっと総一のクセとか感情を入れるといいんじゃないか。」

「だよな。
でも、アイデアの広がり方は見事だと思うんだ。
なんせ指示を出すだけで、すぐに文章を作ってくれるからさ。
自分一人で考えるより倍速って感じだ。」

佐久間は少し興味を示したように画面を覗き込む。
「そっか。
スピード重視には向いてるのかもしれないね。
新人賞の原稿を書くなら早めにプロット固められるし、ネタ出しにはいいかも。
ただ、深みが足りないってことなら、あとから自分で書き足す必要があるかな。」

総一はうなずきながら、椅子をギシリと鳴らして背を伸ばす。
このままChatGPT 4oに頼りきるわけにはいかないだろう。
それでも、まったく行き詰まっていた自分にとって、このAIは思わぬ突破口になるかもしれないと思い始める。

「うん。
まずは自分が書こうとしてる世界観やテーマをはっきりさせて、あいつにアイデアを出してもらう感じかな。
ラノベのノリが欲しければラノベっぽく。
ミステリならもう少し丁寧に仕掛けを考えさせる。
これで少しは光が見えそうだよ。」

そう結論づけた総一の視線は、窓の外の青空を追う。
限られた時間内に作品を完成させるには、雑念を振り払って前に進むしかないのだと自分を鼓舞するようにキーボードに向かう。
今はまだ始まったばかりに過ぎないが、思いつく限りの方法で戦ってみようという気持ちがわいていた。

――その思考の中で、彼はふと別の可能性を想像する。
もしAIがもっと文学的な表現にも対応できたら、あるいは自分が踏み込めない領域まで誘導してくれるのではないか。
だが、それにはまだ経験が浅い。
次へ進むためのヒントは、思いがけない出会いからもたらされるのかもしれないと予感しながら、総一は画面を閉じて一度息をつく。

第2部「手探りの執筆とChatGPT編集者モードの洗礼」

石嶺総一は、自宅の狭い部屋でパソコンを開きながら、小説の第一章をなんとか形にしようと奮闘していた。
ノートにはざっくりとしたプロットが走り書きされているが、なかなか場面ごとの肉付けが進まない。
昨夜からChatGPT 4oの力を借りて、章ごとに物語を組み立てようとしている。
しかし、出力された文章を読んでいると、終わりのフレーズが「物語はここで幕を上げる」「この章で幕が閉じる」といった形式的な表現ばかりだった。

「いや、これだと毎回同じ締めくくりになっちゃうんだよな。
せっかくアイデアは出してくれるのに、なんだか単調だ。」

彼はメガネのブリッジに指をかけて、小さくため息をつく。
黒髪の短髪が少し乱れているのは、何度も頭をかきむしったからだろう。
それでも文章を仕上げたい一心で、チャット画面に向かい合った。

「章の終わりに無難なフレーズをつけないでください。
もっと自由な展開で書いてください。」
そう入力すると、今度は違う言葉遣いで区切りを作ってくれたものの、どこか堅苦しい。
彼は「次の章へつながるワクワク感を出してください」と追加で指示を入れる。

すると、少し間をおいてから新しい文章が生成された。

――作中作(ラブコメの第二章)――
「朝のホームルームが終わるやいなや、真琴は慌ただしく教室を飛び出した。
胸の奥が妙にそわそわして、つい購買のパン売り場へ走ってしまう。
今日こそ、隣のクラスの綾人に会うためだ。
そして彼女は無意識のうちに、上履きのまま学校の廊下を駆け抜ける。
気づいたときには、彼と鉢合わせしてしまい、勢い余ってパンを落としてしまった。
まわりからは小さな笑い声が聞こえる。
恥ずかしくて仕方がないが、綾人はやんわり手を差し伸べてくれた。
真琴は頬を染めながら、その手を握る。
駆け抜けたあとの息が上がったまま、何を言うべきか分からない。」

「お、いい感じになった。
でもまだちょっと物足りないな。
ラノベっぽいといえばそうだけど、いまいち主人公の気持ちが伝わりにくいかな……。」

総一は首をかしげつつ、もう一つ別ジャンルの作中作を試しに作らせる。
今度はファンタジー寄りの冒険ものだ。

――作中作(ファンタジーの第二章)――
「暗い洞窟の奥から吹き荒れる冷たい風が、ラナの長い髪を乱す。
その手には古びた地図が握られている。
伝説の宝珠が眠るとされる遺跡は、この先にあるらしい。
剣を構えた仲間のフロウは、ラナを振り返りながら慎重に足を進める。
次の瞬間、足元から小さな魔物が飛び出した。
小石ほどの大きさしかないが、鋭い牙と血走った目が恐ろしい。
ラナはひるみかけたが、フロウが素早く剣を振り下ろし、魔物は一瞬でかき消えた。
二人は視線を交わし、さらに奥へと進む決意を固める。
地図に記された謎の文字が淡く光を帯び始めたような気がした。」

彼は眉を上げて、画面に表示された文章を一通り読む。
「さっきよりずっといいかも。
ただ、まだどこか表面的な感じがするな。
洞窟の臭いや、魔物の不気味さとか、そういう要素をもっと掘り下げたいかな。」

とはいえ、ChatGPT 4oがさまざまな場面を手早く提案してくれるおかげで、次々とストーリーの種が浮かぶのは事実だった。
総一はそれらをメモにまとめておいて、後から自分で加筆するつもりでいる。
そうした作業を続けているうちに、あっという間に時間が過ぎた。

気づけば夕方になり、肩こりをほぐそうと立ち上がったところで、ChatGPTに自分の小説をレビューさせたらどうなるだろうという発想が思いついた。
「編集者として、私の小説をレビューしてください」と入力してみると、さっそく真面目そうな口調で文章が返ってくる。

「あなたの書いたキャラクターはまだ動機が弱いように感じられます。
ストーリーの転が唐突で、読者がついていけない恐れがあります。
さらに心理描写が浅いため、登場人物の内面に深みを感じません。
全体として、もっと緊迫感を出したほうが良いでしょう。
ラブコメにおいてはキャラクター間の掛け合いが肝心ですが、会話が盛り上がりに欠けています。」

総一は思わず画面を凝視する。
「おい……これ、ほとんどお前が書いたやつじゃん。
ラブコメパートもファンタジーも、ベースは君が生成したでしょ。」

口には出さないまでも、心の中で思わずツッコミを入れたくなる。
しかし、指摘されている点が的外れではないのがまた悔しい。
もともとのプロンプトが曖昧だったせいかもしれないし、自分が加筆せずにそのまま表示させているのも原因かもしれない。

「でもChatGPTに編集者をさせるのは面白いな。
セルフ批評になってるわけだし、意外と客観的に見れるかもしれない。」

そう思い直して、総一はもう少し具体的な質問を投げてみる。
「それじゃあ、主人公がどんな動機を持てば自然に話が進むでしょうか。
あと、ラブコメの会話をもっとテンポよくするにはどうすればいいですか。」

返ってきたアドバイスは思ったより丁寧だった。
「主人公は、なんらかの目標や夢を抱え、それを達成するために行動を起こす設定が自然です。
ラブコメの場合、キャラ同士の掛け合いにユーモアやすれ違いを入れると盛り上がるでしょう。
会話の中に小さな誤解やドキッとする仕草を混ぜると、読者の興味を引きやすいです。」

総一はメモ帳に書き写しながら、素直に参考にしてみようと考える。
ただ、しばらく書き進めてからもう一度レビューを頼んでみたら、今度は「心理描写がくどくなっている」「ストーリー展開のテンポが悪い」といった正反対のコメントが表示された。

「それはちょっと勘弁してくれよ。
さっき深みが足りないって言ったばかりなのに、今度はくどいって……。
どっちが正解なんだよ。」

画面には淡々と文章が並んでいるだけで、当然答えなどない。
それでも客観的なチェックが必要だと感じている彼にとって、このChatGPTによる編集者チェックは使いどころ次第だと思えてきた。
自分の執筆に足りないところを突かれるのは厳しいが、それだけ学べることが多いのかもしれない。

とはいえ、総一の心には小さな苛立ちが残る。
「いや、ほんとに。
お前が書いた話だろ……」
つぶやいて、改めてパソコンの電源を落とす。
今日はここまでにして、頭を冷やそうと考えながら、彼は窓の外のオレンジ色の空を眺める。
その先には何か手がかりがあるのだろうかと思いつつ、背伸びをしてひと息ついた。

第3部「ChatGPT小説ノウハウの模索」

石嶺総一は、少し遅めの朝に駅前の喫茶店へ向かった。
黒髪の短髪とメガネの奥にある眠たげな目をこすりながら、入口を押し開ける。
そこには茶髪の短髪でスーツをきっちり着こなした佐久間海里の姿があった。
そして隣の席には、がっしりした体格と口ヒゲが印象的な大神祐二がどっしり構えている。

「総一、やっと来たな。
実は大神さんが色々とノウハウを教えてくれるって言うから呼んだんだよ。」
佐久間が笑顔で席を勧める。
「ChatGPTの使いこなしについて、専門家みたいな人なんだ。」

大神は腕組みをしながら低い声を響かせる。
「専門家ってほどじゃねえけど、編集プロダクションやってて、こっち方面の案件も多いんだよ。
それでお前さんがChatGPT 4oを使って長編を書いてるって聞いた。
なら、その長編に合った手順をちゃんと踏んだほうがいい。」

総一は椅子に腰を下ろし、姿勢を正す。
前のめりになって話を聞くのは、大神が頼もしいオーラを放っているからだ。
彼はすぐにノートを広げ、メモの準備をする。

「プロットと登場人物の設定、章構成は固めてるか?」
大神はストレートに問いかける。
総一は少し言葉を濁した。

「ざっくりは作ったつもりだけど、途中で変わりそうだし……と思ってあんまり細かくは書いてないですね。」

「そりゃ甘いな。
ChatGPTってのは、前回のやり取りや設定を忘れがちだ。
だから毎回プロンプトに前章のあらすじとキャラ設定を入れてやらねえと、すぐ矛盾だらけの文章が出てくる。
“頼むから前章までの整合性をとってくれ”とか“このキャラはこういう性格だ”って、いちいち伝える必要があるんだよ。」

大神の言葉に、佐久間もうなずく。
「以前、僕も試しに短編を書かせたとき、最初は主人公が普通の高校生だったのに、後半でなぜか女王様みたいな口調に変わってたことがあった。
プロンプトをちゃんと書かないと、ああいう謎の変化が起きるんだね。」

総一はペンを走らせながら、なるほどと頷く。
「あらすじを毎回再掲、キャラの個性を毎回書き込む……。
たしかに手間はかかりそうだけど、そうしないと混乱を防げないわけか。
じゃあ、文体とかトーンの指定も一緒に入れるべきなのかな。
たとえば“ラノベ風だけどギャグ寄り”とか?」

「もちろんだ。
ジャンルや文体の指示が曖昧だと、AIは自分なりに解釈して返してくる。
ラノベ風にしたいなら、ラノベ風と明記する。
伏線が欲しいなら“ここで伏線を貼りたい”ってハッキリ伝える。」
大神は強面ながら、話し方には一種の説得力がある。

「伏線まで具体的に書くんですか?」
総一は思わず聞き返す。

「そうだ。
曖昧に“後で驚きの展開を考えておいて”って言っても、盛り上がりが弱い場合がある。
どんな伏線をどう回収する予定かを事前に伝えておけば、最初から丁寧に書いてくれることもある。
まあ、そこまでAIに任せるのがいいかどうかは、お前さんの好み次第だが。」

「確かに……。
今まで適当に“推理パートを膨らませて”とか言っただけで、いまいち深みが出なかった。
そうか、こっちが緻密に指示しないと、ただの思いつきで文章を展開しちゃうんだな。」

佐久間は笑みを浮かべて口を挟む。
「じゃあ、実際に今の総一の作品で、プロット整理をChatGPTにさせてみたらどうだろう。
全体の章構成も先に作ってから細部を埋めるのが効率的だよね。」

「やってみます。
とりあえずまとめ直しますね。
第一章で主人公が謎の遺物を手に入れて、第二章でその力に気づく。
第三章は異世界での修行……って流れなんだけど……。」

総一はノートに下書きしていた小説の骨格をチャット画面に入力し、続けてキャラの性格や目的を書き込む。
そして「章数は全十章にしたい。
文体はライトノベル風で、ときどきシリアスな展開を混ぜて」と加える。

するとChatGPT 4oは、スラスラと全体の章タイトルや大まかな展開を提示する。

――作中作(プロット提案)――
「第一章:出会いの遺物
主人公が遺物を拾い、その不思議な力の片鱗を見る。
第二章:力の目覚め
遺物が引き寄せる事件に巻き込まれ、主人公は力の存在を知る。
第三章:試練の門
主人公は異世界の門をくぐり、修行の道へ進む……」

「すごいな。
簡単に章題まで作ってくれるんだな。
ただ、これもあくまでたたき台にすぎないわけか。
実際に書くときは、より細かい描写をこっちで指定してやる必要があるんだろうね。」

大神は腕を組んだまま、口ヒゲを指でつまむ。
「そうだ。
最終的には自分で肉づけして推敲しないと、型通りの展開にしかならない。
人間が書き込む部分こそがオリジナリティになるんだ。」

「プロットがある程度固まったら、毎章の冒頭で『前の章の要約とキャラの動機』を貼り付けてから執筆に入る……と。
そのあと、書き上がったら編集者モードでレビュー。
さらに自分で推敲。
なるほど、これを繰り返せば混乱は減りそうだ。」

佐久間もメモを取りながら微笑む。
「これなら僕も校閲を手伝いやすい。
誤字脱字を見つけたときに、すぐChatGPTに訂正してもらうのもいいかもしれないよ。
“ここで表現をもう少しロマンチックに”とか、ピンポイントで指示もできるし。」

総一は大きくうなずいてノートを閉じる。
「よし、やってみる価値はありそう。
プロット作成に手間をかけてから章ごとに執筆。
そのたびに前章のあらすじを添える。
文体をラノベ風に指定して、伏線が必要な場面ははっきり伝える。
レビューのときも設定を再掲してカテゴリエラーを防ぐ……。」

大神は満足そうに唇をゆがめる。
「まあ、俺は“面白ければOK”派なんだがな。
お前さんは神経質なとこがあるから、かえってこの方法が合ってるかもしれねえ。
失敗してもいいから、いろいろ試してみろ。」

重々しい声なのに、不思議と頼もしさを感じさせる。
総一は少し笑ってうなずく。
「わかりました。
実際にやってみます。
この方法で一気に章構成を固めてみますよ。
あとは自分のやる気と、締切との戦いですね。」

「締切ギリギリが一番怖いぞ。
早めに進めとけよ。」
大神が軽く笑うと、佐久間もつられるように笑顔を浮かべる。

総一は胸ポケットのペンを握りしめて、次の行動をイメージする。
ラノベ風の冒険活劇、そして自分が欲しいシリアスな要素。
様々なジャンルを扱うためには、この綿密な手順が必ず役立つはずだと思いながら、ノートの次のページに新たなメモを走り書きする。

ときどきガリガリとうるさい音をたてるエアコンの下で、三人はまだしばらく ChatGPTのノウハウについて語り合っていた。

第4部「ChatGPT o1 proへの挑戦と作中作ラッシュ」

「ところで大神さん、ChatGPT o1 proって4oより高性能なモデルがあるらしいですね。月額が高いって聞いたんですけど、本当なんですか。」
石嶺総一は最近仕入れた情報を、電話で大神祐二にぶつけてみた。
黒髪の短髪をかきながら、パソコン画面に表示されたチャット欄を見つめていた。
がっしりした体格の大神は、電話越しに低い声で答える。

「そこはネックだな。
4oよりも深みのある表現ができる代わりに、月額利用料がかなり上乗せされる。
そのぶん文章のクオリティは確かに上がるが、ライトノベルっぽく書きたいときにはあんまり向かないこともあるらしい。」

「なるほど。
でも、せっかくなら試してみたくなりますね。
ラノベ風を目指してるのに、やたら文学的になったら困るけど……」

「ハハ、そりゃお前さんのプロンプトの腕次第だよ。
丁寧に指示しないと、ずいぶん硬い文体になるからな。
あと何度も言うが、処理に時間がかかるのは覚悟したほうがいい。
数分待たされるなんてザラだぞ。
月額もかかるんだし、有効に使えよ。」

ChatGPT o1 proは、ChatGPT 4oよりもさらに深みのある文章表現が可能なAIチャットサービスだ。
高精度な応答を得られる反面、1回の処理に数分かかることが多く、ライトノベル風の執筆には細かいプロンプト指示が必要になる場合がある。
また、月額利用料は一般的なプランより高めで、費用負担が大きいのが特徴だ。
それでも、より文学的な表現や繊細な描写にこだわりたい人には魅力的なオプションといえる。

石嶺総一は、夜更けの書斎でパソコンの前に座り込んでいた。
黒髪の短髪からのぞく汗をハンカチで拭いながら、モニターに映るチャット画面に視線を注ぐ。
隣には買ったばかりのコーヒーが冷えたまま放置されていた。

「大神さん、これがChatGPT o1 proですか。
確かに、いつもの4oとは違う画面構成ですね。」

彼は通話越しに声をかける。
電話の向こうからは、がっしりした体格を感じさせる低い声が聞こえた。

「そうだ。
処理が重いぶんだけ、表現に深みが出るって評判だ。
まあ、本当に使いこなすには手間もかかるがな。」

「手間って……どのくらいですか?」
総一は興味半分、不安半分で問いかける。

「場合によっちゃ数分待たされることもある。
文章のクオリティは確かに高いが、ライトノベル向きの文体にするにはプロンプトで細かく指定しないと、妙に難解な文になることもあるらしい。
お前さんの作業スピードを落とす可能性だってあるんだぞ。」

総一はメガネのブリッジを持ち上げ、眺めるように画面を見つめる。
神経質な彼にとって、時間のロスは痛いが、より文学的な表現ができるという魅力には抗いがたい。

「最初だけだと思って、試しにやってみます。
文学的といっても、僕はラノベっぽさが欲しいんですけど、そこは頑張って調整してみますよ。」

そうつぶやいて、彼は“ラノベ風の冒険シーンを、華やかでテンポよく書いてください。
会話は軽快に。
だけど心理描写もそこそこ深めに”とプロンプトを入力する。
送信ボタンを押すと、画面にくるくると読み込みのマークが浮かぶ。
コーヒーを一口含みながら待っていると、予想以上に長い時間がかかった。

「ほんとに3分くらい経ちましたね。
あ、出ました。
えーっと……」

――作中作(o1 pro版・冒険ファンタジー)――
「エルスフィードの大地は、夕刻になると淡い黄金色に包まれる。
その光の中を駆けるミルダは、風のように細くしなやかな刃を抱いていた。
草原の彼方で、雷鳴にも似たドラゴンの咆哮が轟く。
仲間のレナトは、ミルダの瞳が何を見据えているのかを知りたいように、その横顔をじっと見つめた。
二人の間には、長年の旅路で培われた結束がある。
しかし、その絆の奥底には、互いに言葉にできない秘密が眠っているのだ。
ミルダはそっと唇をかんだ。
刃の冷たさと同じくらい、自分の中の迷いが疼く。
“今は行くしかない。
この世界を救う力は、私たちの手にあるはずだから。”
そう心の中で言い聞かせ、ミルダは一歩前へ踏み出した。」

総一は一通り読んでみて、唇をかすかにゆがめる。
「すっごい丁寧に書かれてるけど……ラノベというより、かなりしっとり系の文体だな。
あと、心理描写がこんなに重厚になるとは思わなかった。」

そこへ通話相手の大神が鼻で笑うように言う。
「だろう。
o1 proはときに文学寄りになりすぎる。
どうしてもラノベ風にしたいなら、“軽快な口調で”とか“キャラがカジュアルに喋る”とか、もっと細かく指示したほうがいい。」

「わかりました。
じゃあ次はミステリ風の短編を作ってみます。
キャラクター同士の会話は現代っぽく簡潔に、文体もライトにしてほしい、って念押しします。」

彼はそう言いながら、チャットに指示を打ち込む。
再び長い読み込みに入ったので、その間に冷えきったコーヒーを一気に飲み干す。

数分後、画面に新たな文章が現れた。

――作中作(o1 pro版・ライトミステリ)――
「クリアな夜空に浮かぶ月を背に、探偵のクロエは古いビルの屋上に立っていた。
その足元には、謎のメモが散乱している。
遠く下から警官隊の叫びが聞こえるが、クロエは動じない。
頬にかかる髪を指先で払い、元相棒のハルに向かって小さく声をかけた。
“ハル、あんたはこのメモを見て、何か気づいたことはない?
たぶん被害者は――”
ハルはすぐには答えない。
その沈黙の奥には、どうしようもない過去がよみがえっているかのように見えた。
クロエは息をのんだ。
この重い空気を断ち切りたいのに、言葉が出てこない。
廃墟のような街のざわめきと、自分たちが抱える傷跡が、どこかで重なり合っていた。」

総一は思わず手を止める。
「んー、確かにライトにはなってるけど、ここまで暗めの雰囲気にするつもりはなかった。
しかも会話があまり出てこない。
読みやすいっちゃ読みやすいけど……微妙にミステリじゃなくてハードボイルド寄りになっちゃった感じですね。」

大神の声が電話のスピーカーから低く響く。
「これがo1 proのクセだ。
表現に味が出るのはいいが、要望と外れた方向に走ることがある。
しつこいようだが、もっと具体的に指定したほうがいいぜ。」

総一は苦笑いをしながら、今度はSF風の短編を頼んでみる。
「テンポ重視。
セリフ多め。
映像的な演出をしてほしい。
…」
細かく要望を入れるうちに、自然とチャット欄が長くなる。
送信を押したあと、また数分の待機。

ようやく出てきた文章を流し読みすると、キャラクターがやたらと礼儀正しい口調で会話していた。

――作中作(o1 pro版・SF)――
「『ああ、クローヴァ様。まことに恐悦至極にございます。
大公閣下の玉座ホールへご案内する前に、こちらの宇宙港の広大さをご覧いただきたく。』

銀色の礼服をまとった執事ロボット、アルドランがそう告げると、クローヴァと副官のエイダは深々と礼を返した。
『有り難きお迎えですが、急用にて参上仕りましたゆえ、早速ご案内をお願いできませんか。』

エイダも続けて上品な声を添える。
『大公閣下からのご命令で、この任務を円滑に進めませぬと地球への報告が遅れてしまいますわ。』

アルドランは丁寧に頭を下げ、三人を先導し始める。
『恐縮ではございますが、大公閣下は一切の儀式を簡略化なさらぬお方。ご無理を申し上げますが、どうかご容赦を。』

クローヴァは苦笑しながらも、静かに歩みを進めた。
『もし必要とあらば、得意の交渉術を使うほかありませんな。さあ、急ぎましょう。』

厳かな礼儀作法に満ちた道のりは、まるで王宮への参内のよう。
二人は内心で思いどおりにならぬ儀式を案じながらも、アルドランに従い、荘厳な玉座ホールへと向かっていく。

「いや、これもなんだろうな。
ちょっと貴族的な会話回しになってる。
“拙者はこれより惑星間航路を検分する”とか言ってますよ。
SFなのに時代劇っぽいんですけど。」

彼は頭をかきむしり、肩を落とす。
「もうちょっとこう、フランクな会話をしてほしかったんですがね……。」

「お前さん、ラノベ的に“俺たちが最強の宇宙旅団だぜ”みたいなノリを期待してたんだろうけど、AIはお堅い表現も好むからな。
調整していくしかないさ。」

そこで総一は一旦チャットを区切り、また違う要素を思いつく。
「じゃあ逆に、文学性を爆発させてみたらどうなるのか。
ちょっと純文学っぽい恋愛小説を頼んでみましょうか。
多分すごい表現になるはず。」

興味本位で“静かな海辺の町を舞台にした、センチメンタルな恋の物語を、詩的なタッチで”と指示を打ち込む。
再び数分が経過し、ようやく生成されたテキストを開く。

――作中作(o1 pro版・純文学風恋愛)――
「白い砂が波に溶けるように、彼女の記憶は遠く霞んでいた。
かつてあの桟橋の先で、真昼の月を仰ぎ見たことがある。
その月は、まるで胸の奥を映し出す鏡のようだった。
失くしたものばかり数えていた少年は、彼女のささやきに答えられずにいたのかもしれない。
海鳴りが鼓膜を揺らすたび、少年の視界は滲んでいく。
けれども、その震えた指先は、いつか寄せては返す波のリズムを知っていた。
二人が見つめ合った瞬間、言葉にはできない花が咲いたようで……」

総一は数行読んだところで、思わず唸る。
「なるほど、これはガッツリ純文学だ。
イメージは美しいけど、ラノベとは完全に方向が違う。
表現が重めで正直読み疲れそうですね。
でも、これはこれで面白いかも。」

彼はそう言いつつ、急に思い出したように編集者モードを起動してみる。
「これをラノベとしてレビューしてもらったらどういう批評をするんだろう?」

「やめとけ。
また訳のわからんこと言い出すぞ。」
大神の声に苦笑が混じる。
しかし、総一はもう興味を抑えきれず、純文学風の恋愛物語をそのまま投げてみた。

数秒後、Reviewコメントが返ってきた。
「キャラクターに動機が薄く、感情表現も曖昧です。
世界観は説明不足で、読者が入り込みにくいでしょう。
また、人物の深みが無く、場面の展開が単調に感じられます。
ラノベとしては、よりキャッチーな台詞やわかりやすい設定が必要で
す。」

総一は額に手を当てて小さく嘆く。
「うーん、それはラノベに求める要素だから……。
純文学風で書いたのに、そりゃ深みがないとか言われてもなあ。
それをラノベとして評価されても困るよ。」

彼は電話越しの大神に軽く愚痴をこぼす。
「カテゴリエラーってやつですよね。
これはこれで雰囲気を重視した作品なのに、ラノベのテンプレに当てはめて批評されるのは正直キツいです。」

「気にしすぎるな。
AIってやつは言われたとおりに答えてるだけなんだ。
ジャンルの違いを理解してくれないのは、まあご愛嬌だな。」

総一は肩をすくめ、チャット画面を見つめる。
深みのある表現が欲しいと思って導入したo1 proだが、ラノベらしい軽快さを保とうとするとどうしても指示が複雑になる。
そしてレビューモードでは、ジャンルを取り違えた指摘が飛んできて思わず頭を抱える。

それでも、たまに見せる独特の文学表現や言葉選びの妙には惹かれる部分もあった。
真剣に活かす道を探る価値はあるだろうと感じながら、総一はチャット欄をスクロールする。

重々しい静寂とともに、冷めきったコーヒーを捨てに立ち上がる。
今のところメリットとデメリットの両方がはっきりしているo1 proの可能性を、どう取り込むかは自分次第だと理解し始めていた。
彼は不意に振り返って画面を見つめる。
そのまま次のプロンプトを打ち込む手が止まらない。
新しい挑戦は、まだまだ続きそうだった。

第5章「プロット管理と再び襲い来る厳しいレビュー」

石嶺総一は、執筆ソフトを立ち上げる前に、まずChatGPT o1 proを使って新作のプロットを固めることにした。
神経質な彼は、どうしても全体構成がブレると落ち着かない。
だから最初に“深みのあるストーリープラン”をo1 proで作り、その後の実際の執筆は実行時間が早いChatGPT o1に任せる。
そうすれば矛盾を減らしつつ、スピーディに書き進められるかもしれないと考えた。

その日の午前、パソコンの前に腰を下ろすと、総一はo1 proに指示を打ち込む。
「主人公が謎の遺物を手に入れ、その力をめぐって異世界へ渡る長編のプロットを組んでください。
章数は十。
第二章で力を自覚し、第五章あたりで苦境に立たされる展開を入れてほしい。
終盤には予想外の裏切りを用意して、伏線が回収されるように。」

画面にくるくると読み込みマークが表示され、三分後、o1 proの丁寧な構成案が並んだ。
伏線の貼り方、キャラの動機づけ、クライマックスの山場などが理路整然と書かれている。
「おお、すごいな。
なるほど、こうすれば物語が一本筋で通るのか。」
総一は思わずうなずいた。

ただ、文体を要約する部分などは文学調の文章に寄りすぎている印象があった。
そこで総一は「プロットだけありがとう。実際の文章はChatGPT o1で書いてみるよ」とつぶやきながら、o1 proの出力をコピーペーストして別ファイルに保存する。
そして今度はChatGPT o1を起動し、先ほどのプロットと人物設定を再掲してから執筆に入った。

「よし、まずは第一章と第二章を書き直そう。
前の章で大まかな場面はできてるけど、整合性が怪しいし、キャラの口調がブレてる箇所も多い。」
彼はパソコンのキーボードを叩く。
今回はプロットという地図があるので迷いが少ない。
しかもo1のレスポンスは数秒で返ってくるので作業がスイスイ進む。

ただ、スピード重視で書かせているうちに、ちょっとした問題が起きた。
例えば、第一章で“主人公の服がボロボロのフード付きコート”と書いたのに、第二章冒頭で“颯爽としたスーツ姿で登場”していたり、名前の表記ゆれが発生したり。
「やっぱり毎回あらすじと設定を貼り付けないとダメか。
忘れないうちに、こまめにプロンプトへ前章の要点を入れておかないとな。」

そう呟いたところで、スマホが鳴る。
画面には「佐久間海里」の名前。
「総一、執筆どう?
またチェックしてもいい?」
電話越しの声は相変わらず穏やかだが、細かい指摘を容赦なく投げてくる佐久間の姿が思い浮かぶ。

「ありがたい。
じゃあ第一章と第二章を読んでみてくれない?
キャラ設定がブレてないか、あと伏線をきちんと入れてるか確認したい。
あ、文体はラノベ寄りにしてあるから、変な箇条書きにはなってないと思う……たぶん。」

数十分後、データを受け取った佐久間からビデオ通話がかかってきた。
画面にはスーツ姿で少し首を傾げる彼の姿が映る。
「うん、面白いよ。
でも、第一章で謎の遺物を拾った理由が弱いかな。
もう少し、主人公がその場にいた必然性を書き込んでもいいんじゃないかなって思った。」

「なるほど。
さすが佐久間、的確すぎて助かる。
じゃあそこはo1に追記してもらう。」
総一はすぐさまChatGPT o1を呼び出し、プロンプトにこう入れた。
「第一章で主人公が遺物を拾う理由を強化してください。
例えば幼少期から冒険好きで、伝承に惹かれていたという描写を入れたり、偶然ではなく必然性があるように表現を付け加えて。」

すぐに返ってきた文章は、まだ粗削りながらも筋が通っており、総一はメモを取りながらそれを自分の文体に加筆修正していく。
しかし、その手間を惜しまないあたりが、彼の“校正や推敲に時間をかけすぎる”性格をよく表している。

翌日、進捗のチェックを兼ねて、総一は再びChatGPT o1に“編集者モード”でレビューをお願いした。
すると、「主人公の動機づけはよくなったが、今度はテンポが遅くなりすぎている」という新たなダメ出しが飛んできた。
「お前が書いたもんだろ……。
深みを出せって言うから出したのに、急にテンポとか言われても。」

頭をかかえつつも、彼はそれでもレビューの指摘を無視できない。
「読者が飽きる要素があるなら、そこは修正しなきゃ。
ただ、どこまで合わせるかは最終的に俺が決めないとな。」

そこで総一は、新たに「伏線を整理したノート」を開いてチェックする。
o1 proで作ったプロットには、五章目で大きな苦境が待ち受けると書かれていた。
しかし今の状態だと、その苦境への布石があまりに少ない。
「ここで初登場の敵キャラがいるなら、第二章か第三章あたりで名前だけでも出しておくべきかな。
ああ、あと主人公のトラウマをもう少し匂わせないと、五章で突然出てこられても困るだろうし。」

彼はo1 proから得た詳細プロットと、ChatGPT o1で書かせた本文を照らし合わせて、薄い伏線を随所に挿入する。
例えば第三章の冒頭で、“主人公が以前から感じていた不安”を一文加えておくとか、敵組織の噂を町の人が噂する場面を挟むとか。
その都度、佐久間にも確認をとって「これなら自然かな」と意見を交わす。

しかし、伏線を貼れば貼るほど、レビュー時に「回収が大変になる」と指摘されることもある。
編集者ChatGPTが容赦なく「ここに出てきたアイテムを忘れている」「敵の目的がまだ曖昧」と責め立てるのだ。
総一は深夜のパソコンに向かって「うるさい、そこはこれから書くんだよ」と心の中で突っ込みつつ、それでも指摘された箇所をメモする。

このプロット管理の煩雑さに、総一は思わず愚痴をこぼす。
「まあ、使いこなせてるとは言えないかもしれないけど、やっぱり人間が最終調整しないと無理だな。
一度で完璧に仕上がるなんて思わないほうがいいか。」

数日後、書き上げた第三章と第四章をまとめて“編集者モード”にレビューさせると、またしても“内面が浅い”と“展開がクドい”の相反するコメントが並んだ。
総一は苦笑してパソコンを閉じる。
「結局、最後は自分の目と感覚で調整するしかないってわけか。
でも、それが作家の仕事なんだろうな。」

そう言いながら彼は机に置いたコーヒーをすすり、すでに冷めきった苦味を味わう。
まだ書きかけの長編原稿がモニターに広がっているが、o1 proで生まれた骨格と、o1で執筆している本文をうまく噛み合わせれば、新人賞へ向けた作品に仕上げられると信じ始めていた。

伏線だらけで収拾がつかなくなるリスクはあるし、レビューに振り回されることも多い。
それでも、彼の表情には微かなやる気が宿っている。
次の章こそ、ストーリーの山場をうまく作り込もうという想いが、メガネの奥で灯った瞳に見えていた。

第6章「完成原稿と新人文学賞への道」

石嶺総一は、自宅の机に向かってパソコンを開いていた。
ディスプレイには「最終稿」と名づけられた原稿ファイルが表示されている。
部屋は夜になっても熱気がこもり、冷めたコーヒーの苦い香りだけが広がっていた。

彼は深呼吸して、いつものラノベ風文体を維持しつつも要所で厚みを持たせる書き方を意識する。
ここまで、プロットはChatGPT o1 proで厳密に組み立て、実際の文章は手軽なo1で執筆してきた。
伏線やキャラの口調ブレを修正するたび、AIのレビューが矛盾を指摘したり的外れなアドバイスを出してきたりと、散々振り回された記憶がよぎる。

「よし、今日こそ全部書き上げよう。
あとは人間の手で仕上げるだけだ。」
小さくつぶやき、メガネのブリッジを直す。

ノートパソコンの隣には、佐久間海里から送られた赤ペンコメント入りのファイルも置いてある。
茶髪の短髪にスーツ姿が目に浮かぶ彼は、いつもの穏やかな言葉遣いで「ここは地の文を増やして場面を濃くしてほしい」と書き込んでいた。
「なるほど、ここはバトルシーンなのに描写があっさりしすぎたかな。
じゃあChatGPT o1に“この戦闘シーンをもう少し臨場感ある文章に”と頼んでみよう。」

さっそく総一は、プロンプトを組み立てる。
「さっきのバトル描写を強化したい。
主人公が敵の攻撃を切り抜けつつ、伏線で触れてきた力を解放する流れを入れて。
ラノベ風でテンポよく、地の文を増やして迫力を出してください。」

数秒の待ち時間の後、ChatGPT o1が章の一部を書き直してくれた。
文章は速いし、AIにしては悪くない。
けれども、そのまま使うとまたレビューで「内面が浅い」「文体が単調」と言われるかもしれない。

「仕上げは自分の手でやらないとね。」
そう言って総一は、新しい文面に自分なりの表現を加えていく。
キャラクターの動機をもう一段掘り下げ、過去の伏線をちらりと回想させ、緊張感を高める。
「これはなかなかいいかもしれない。」

やがて徹夜の末、最終稿がほぼ完成した頃、スマホに有馬真理恵からの着信が入る。
「総一さん、どうですか。
ついに仕上がりそうな予感?」
カフェでアルバイトを終えたらしい彼女の声はいつもどおり元気だ。

「もう少し。
でもやっと新人文学賞に出せるものになりそうだよ。
o1 proとo1を使い分けたおかげで、プロットと本文に矛盾が減ったのは大きいかも。」

「あ、大神さんが言ってましたよ。
最後のチェックは“編集者モード”にしつつ、絶対に自分の感覚を信じろって。
あの人らしいけど、私も同感です。
総一さんの味があれば、きっと大丈夫ですよ。」

「ありがとう、有馬さん。
じゃあ、最後にもう一回レビュー通してみるか。
AIがまた“文体がライトすぎる”とか“もっと深みを”とか矛盾を言うかもしれないけど、そこは自分で折り合いつけるよ。」

通話を切った総一は、画面に表示された最終稿をまるごとコピーし、ChatGPT o1の“編集者モード”へ貼り付ける。
すると、予想どおり辛口の指摘が並ぶ。
「クライマックスのセリフが平凡」「敵キャラの目的が伝わりにくい」など、どれも一理はある。

「わかったよ……でも全部には合わせないからな。」
苦笑いしつつも、いくつかは修正を加える。
例えばクライマックスのセリフを少し工夫し、敵キャラが抱える過去の因縁をさりげなく回想で補足。

再度文章を読み返すと、主人公の動機とクライマックスの熱さが少し増したように感じる。
何度も書き直した伏線も、無理なく回収できる手応えがあった。
「これならいける。」

明け方が近づくと、外は薄い青い光に包まれ始める。
総一は作品のファイルをまとめ、新人文学賞の応募フォームへアクセスする。
締切時間を思い出し、少し焦りながらも最終チェックを行い、提出ボタンを押す。

その瞬間、ほっとした表情が顔に浮かんだ。
これまでChatGPT o1 proとo1の両方で作り上げた物語だが、最後に判断したのは自分自身。
「これでようやく応募できた。
AIに助けられた部分は大きいけど、やっぱり人間だからこそ書けるものがある……か。」

そう口にして、彼は椅子を大きく軋ませながら伸びをする。
試行錯誤の連続だったが、今は達成感が体にじんわり広がっている。
そしていつものように、メガネの奥で光る目を細めた。

朝の日差しがカーテンの隙間から差し込み、部屋の埃が少し舞い上がる。
パソコンの画面には“送信完了”の文字。
ラノベ風で書きながらも、深みを求めて模索した作品は、果たしてどんな評価を得るのだろうか。

佐久間や有馬、そして大神たちに支えられながら投じた一稿。
総一は机に散らばるメモ用紙をそっと重ね合わせ、胸ポケットのペンをしまう。
コーヒーの残り香だけが立ち込める部屋に、ほんの少しだけ晴れやかな空気が広がっていた。


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