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咲かない桜を待つ気持ち

“この桜は咲かない”

わかっているのに

ぼくの心の中は

勝手に花を咲かせてしまう


“君とは見られない春の景色”

わかっているのに

ぼくはまた

咲いてもいない桜を見つめて

満開になったそれに

やさしくシャッターを切る

君の横顔を 想像してしまう


まだ咲いてもいないのに

もう薄淡いその花びらは

ぼくの声にもならない泣き顔を写している

揺らぐ川面に溶けてしまった



この日ぼくは

何千回も乗り降りした電車の降り口を

すっかり間違えてしまった

まるで初めて降りる駅だったみたいに

見たこともないような感覚で

知り尽くしている改札を出て

君のこれからを想像して

そこにぼくは居ないことを改めて認識して

心が迷子になってしまった


そうだった

ファインダーの向こうにあるのは

桜でもなく ぼくでもなく

あの光だけだったね


それでも咲かない桜を待っていた












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