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スパイシー兄さん

くたびれた鞄と 雨に濡れた革靴を

しんどそうに身に付けた ぼくは

まだ金曜日にならない憂鬱を

どこかにぶつけたくてジリジリしていた


店につくとすぐ

中国訛りのある店員さんが

サッとお絞りを置きながら

見慣れた奥の席に案内してくれる

『とりあえず…これとチンタオで』

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ぼくが席に着いて上着を脱ぎ

ため息をついておしぼりを広げたところで

 兄さんはやって来た

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『おう!ほんで今日はどないしたん?』

こんがり焼けた肌と派手目な服装


『えっと…』

ぼくが言い終わらないうちに兄さんは

『まぁ、ええやんええやん。

まずは乾杯してからや!』

兄さんは泡のことなど気にするなと

豪快にビールを注がせた


『さて、こんなもんかな。

んで?どうしたん?浮かん顔して。』

ニヤニヤともニコニコとも違う

兄さん独特の人懐っこい笑顔が

ぼくを覗き込んでいる


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『いや…、なんか、疲れたなぁって…。』

この期に及んで言いよどむ ぼくに

『よっしゃ!

ほんなら、もっかい乾杯やな!』

とニカニカ笑う

(あぁ、そうだ “ニカニカ” だと思った)


『まだ乾杯してませんよ。』

ぼくが言うと

『そうか。まぁゆっくり飲もうや。』

兄さんは串を差し出す

思わずヨダレが出てしまうくらい

香ばしくてとびきり食欲の湧くにおいだ


丁寧に串打ちされたラム肉が

端がカリっとするくらい こんがり焼かれて

香り高い香辛料を纏っている

ひとくちかじると

香辛料の効いた脂がジュワっと広がる


(旨すぎる…!!)


そんなぼくを横目に 一杯目を飲む兄さんは

本当に嬉しそうだ

『クセがあるからゆうて

俺を敬遠するヤツもおるけど

おまえはホンマに俺が好きなんやな。』

今の兄さんは

目尻を下げたような優しい笑顔だ


『だって、ピリッと辛口なこと言うけど

最後は元気くれるじゃん、兄さんて。』

ぼくは何となく 目を合わさないように言った

『そうか、そんなに俺が好きか!

参るで!わはははー!』

ビールひとくちなのに もう兄さんは赤ら顔だ



旨味のある話し方で

時にピリッと辛口な

青島ビールがよく似合う

そんなスパイシー兄さんが

ぼくは好き


よし、明日も頑張る!













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