春、朝を想う
止まないで欲しいくらい やさしい雨音
寂しさが募る窓辺で
静かにぼくを包んでくれるのは
くすんだ色の どこか懐かしい雨空
夜中にふと襲ってきた不安を
陸橋の上のぼくの知らない笑顔たちを
その朝が見えないように隠してくれた
痛みを知っている朝だった
たわいもない夜だった
要らぬ事を考えすぎて 溺れるところだった
ぼくは想い出すことにした
靴が泥だらけになったまま
誰からも何からも邪魔されずに
“今朝”という瞬間を感じた春の始まりの日を
ガラス細工のような 冷たくて柔らかい朝を
キラキラ光っていたあの朝露は
見つめるだけで 感触がわかってしまった
滲まない朝の色が とびきりやさしくて
出来損ないなのに 感じてしまうぼくの心は
キラキラに震わされてばかりいた
ルビーほどに赤く静かな 心の燃え方だった
恋だった
とてつもなく やさしくて切なくなるような
出来損ないの 恋だった
触れるか触れないかくらいの世界で
ほんとうは君を抱きたい