AOTY 年間ベストアルバム2024
こんにちは、菫です。
今回は2024年にリリースされたアルバムの中から、私のお気に入りを20枚に絞ってランキング形式で紹介します。
はじめに
早くも年の瀬ですね。
2024年は皆さんにとってどんな1年でしたか?
私にとっての2024年は、人生で最も音楽にのめり込んだ年になったかもしれません。いわゆる音楽ファンの方たちと交流が増えたことで、新旧ジャンル問わず様々な音楽に触れる機会を得られました。今年仲良くしてくださった方、ありがとうございました!
本記事では、厳選した20枚のアルバムについて私の所感を綴ります。早速、以下に20位から1位の順に紹介していきますので是非ご覧ください。
第20位 This Could Be Texas - English Teacher
英リーズ出身の4人組インディーポストパンクバンド、English Teacherからのデビューアルバムです。安定と不安定を行き来する音色、シュールなユーモアと知性が溢れる歌詞が印象的な本作。全体的にダンサブルでキャッチーな仕上がりですが、Lily Fontaineのスポークンワード的なボーカルスタイルは一癖あり、全編に鋭いアクセントを与えることに寄与しています。歌い上げずに語るタイプの歌唱シーンでは凄まじい気迫と緊迫感を感じ、他とは異なる彼ら独自の音楽性を体感することができると思います。
第19位 Wild God - Nick Cave & The Bad Seeds
真っ白な背景にエンボスでタイトルが浮き上がったデザインのジャケットも印象的な、Nick Cave & The Bad Seedsによる通算18枚目のスタジオアルバムです。1983年にオーストラリア出身のメンバーで結成されて以来、ゴシックロックやポストパンク、ブルース、フォークなど様々なジャンルを融合させて独自の音楽性を拡張させてきた彼らが、今年5年ぶりに帰ってきました。本作は宗教や信仰、愛や生死など、きわめて普遍的なテーマを取り入れており、Nick Caveの崇高で壮大なソングライティングがこれでもかと光ります。
第18位 eternal sunshine ‐ Ariana Grande
米フロリダ出身の歌姫Ariana Grandeの7枚目のアルバムです。数年間の音楽活動休止を経て、今年ニューアルバムを引っ提げ音楽界へと舞い戻りました。R&Bにポップのキャッチーさを融合させた彼女の得意とするスタイルを貫き、親しみやすくも深みのあるサウンドを実現しています。前作『Positions』(2020)の時代は新婚だった彼女。それから数年後に離婚し、失意の渦中に書かれたのが今作です。introやinterludeの存在から、アルバム単位での質を重視していることが分かります。ゆえにアルバムを通して体験した時の充足感は、彼女のディスコグラフィー随一。各楽曲が相互に作用し合い、心地よい統一感が生まれています。本作品はSFラブロマンス映画『Eternal Sunshine of the Spotless Mind』(2004)から着想を得て制作されました。この映画こそが、失恋と心の痛みにまつわるインスピレーションを彼女に与え、傷ついた心を癒しケアするプロセスを示し、前向きな道へと導いたのです。
第17位 This Is How Tomorrow Moves - beabadoobee
フィリピン生まれ英ロンドン育ちのSSW、beabadoobeeから3枚目のアルバムです。前作『Beatopia』(2022)の実験的でエネルギッシュなサウンドから一転、今作ではミニマルなフォークポップのスタイルが採用されています。浮き足立つようなハジける楽曲が目立った前作からは見違えるほど、内省的で成熟したテーマ性。控えめでアコースティックなアプローチが中心でありながらも、パンク/グランジ系の楽曲、ワルツ調のバレエコア的楽曲、ボサノバ風の楽曲、ピアノと歌唱オンリーの楽曲など… 多くの引き出しによりリスナーを飽きさせない工夫が為されています。多種多様なオルタナサウンドが縦横無尽に駆け回る作品ですが、それらを一束のキュートなカオスにまとめあげるbeabadoobeeの魔法のような歌声。やはり唯一無二です。
第16位 Lighthouse ‐ Francis of Delirium
欧州の小国ルクセンブルクを拠点とするインディーロックプロジェクト、Francis of Deliriumの記念すべきデビューアルバムです。当プロジェクトを率いるJana Bahrichは、Sufjan StevensやPearl Jamから影響を受けながら音楽活動を進めており、その片鱗は本作からもしかと窺えます。繊細で深みのあるリリックと、90sロックやグランジの要素を取り入れた鮮烈なギターサウンドとの対比には唸らされます。希望に満ちているものの、ちょっぴりビターで切ないテイスト。ふらふらと迷い悩める若者の心を掴んで離さない、そんなポテンシャルを秘めたチャーミングなアルバムです。
第15位 MADRA - NewDad
アイルランドはゴールウェイ出身の男女4人組インディーロックバンドNewDadによるデビューアルバムです。The CureやSlowdiveなどといったアーティストから影響を受け、シューゲイズやドリームポップの要素を取り入れた楽曲を展開。人間の脆弱性を主題とし、浮遊感のあるボーカルで不安定な感情を演出しています。本作はまさしくアルバムカバーの雰囲気のような、冷たく無機質で妖しげなムードが漂います。タイトルの"MADRA"はアイルランド語で"犬"という意味。メンバーの一人がEPのデモテープに適当につけたフォルダ名が、最終的にアルバムタイトルとして採用されました。『MADRA』は犬のように人の心と強く結びつき、リスナーをどこまでも追いかけてくるようなヘビーな作品だと彼らは語ります。
第14位 Willson - Ashe
米カリフォルニア出身のSSW、Asheの3枚目のスタジオアルバムです。これまで『Ashlyn』(2021)、『Rae』(2022)のように、アルバム名に自身の名を冠してきた彼女が今年『Willson』をリリースし、ついにトリロジーが完成しました。Asheの魅力はズバリ、詞の美しさと力強さです。まるで彼女の日記をこっそり見ているかのような、パーソナルで率直な言葉が並べられています。ディスコグラフィーは彼女の人生の反映。若くして結婚と離婚を経験し、恋愛のインスピレーションは誰よりもパワフルなものになっています。そして彼女は今年、新しいパートナーとの婚約を発表しました。過去の恋愛に関する恨みつらみと後悔は完全に捨てきれない一方で、前向きに人生をリスタートしようという想いが今作から感じ取れます。
第13位 The Death Of Summer & Other Promises ‐ Etta Marcus
英ロンドン出身のSSW、Etta Marcusのデビューアルバムです。8曲/27分とミニマルな作品ではありますが、ダイナミックでドリーミーなインディーロックサウンドが大きな満足感をもらたしてくれます。ジャケットの雰囲気から、Lana Del Reyのようなカルト的なおどろおどろしさを伴う音楽なのかと想像できますが、実際はそんなことはありませんでした。ストレートで癖がなく聴きやすい、しかし確実に独自の世界観を作り上げている、そんな音楽性がひたすらに好感触でした。
第12位 Big Ideas ‐ Remi Wolf
米カリフォルニア出身のポップシンガーRemi Wolfの2枚目のアルバムです。彼女の音楽を強いて一言で形容するなれば、「ファンキー・ソウル・ポップ」といったところでしょうか? キャッチーなメロディー、ユーモアと遊び心満載のリリック、カラフルなアレンジが特徴。細かい音の粒、それら一つ一つが個性をもって煌めきます。前作『Juno』(2021)からの進化は目覚ましく、ソングライティング、プロダクション、ボーカルの質、どれをとっても洗練されています。他の誰にも似つかないユニークさと、ポップスターとしてのカリスマ性を駆使し、ステージではエネルギッシュなパフォーマンスを見せるRemi Wolf。来年2月の来日公演が楽しみ!
第11位 BRAT - Charli xcx
英ケンブリッジ出身のポップシンガーCharli xcxの6枚目のアルバムです。説明不要、2024年の音楽業界およびポップカルチャーを席巻した人物ですよね。エレクトロポップ、クラブポップ、ハイパーポップなど、様々な表現でカテゴリ分けが可能なこの作品ですが、一言でいうなれば "今年最もパワフルで挑発的なアルバムの一つ" ではないでしょうか? 歌い踊れる、文句無しにエキサイティングな音楽です。
Charli自身、本作を「最も対決的かつ最も脆弱なレコード」と説明しています。彼女は女性同士の複雑な関係性や自己探求に焦点を当て、ありのままの姿を包み隠さず表現します。"brat"は元々「子供っぽい」という意味をもつ言葉ですが、この言葉は本作リリースに伴い、「飾らない自分」や「好きを諦めない」といったポジティブな価値観の象徴として再定義されることとなりました。単に音楽という域を超えて、社会現象まで巻き起こしたアルバムですから、これだけ尊ばれるのも納得です。
第10位 Submarine ‐ The Marías
プエルトリコ出身のリードシンガーMaría Zardoyaをフロントウーマンにもつ、インディーポップロックバンドThe Maríasのセカンドアルバムです。英語とスペイン語が織り交ざるベルベットボイス、甘美なギターとベース、ジャジーなパーカッションの融合は陶酔感そのもの。
深い水底を想起させる群青色(ウルトラマリンブルー)をキービジュアルとし、孤独を選択することに伴う痛みと心の解放を、サイケデリックで夢見心地なサウンドを用いて表現しています。まるで水の中で聴いているような没入感たっぷりの見事なサウンドスケープ。内なる世界で独り思考を巡らせる自分に、静かに寄り添ってくれる。そんな慈悲と優しさが、クールな音像の中核として存在している気がします。
第9位 A Dream Is All We Know - The Lemon Twigs
米ニューヨーク出身の兄弟デュオから、5枚目となるスタジオアルバムです。彼らは60年代から70年代のバロックポップやクラシックロックから強く影響を受け、模倣とオリジナリティーの均衡を絶妙に保った音楽性を確立しています。
本作のコンセプトは「マージー・ビーチ(Mersey Beach)」という架空の世界観。リヴァプールのマージー・ビートとカリフォルニアのビーチ文化の融合、いわば「The Beatles × The Beach Boys」です。幼気でエネルギッシュな初期のThe Beatlesの雰囲気と、The Beach Boysさながらの分厚いコーラスや多彩なパーカッションが、美しく組み合わさっています。ノスタルジックでありながらもどこか新鮮。80sリバイバリズムには目もくれず、自身の敬愛する60s/70sミュージックの世界でアンダーグラウンドに活動する彼らからは、今後も目を離せません。
第8位 Only God Was Above Us - Vampire Weekend
米ニューヨークで結成されたインディーバンドVampire Weekendの、5年ぶり5枚目となる新作です。独創的なサウンドと知性に富んだ歌詞で知られる当バンドですが、今作は特に「戦争」や「人種間/階級間の闘争」にフォーカスして制作されました。たとえば、ハイライト的楽曲の一つ"Classical"では、武力を行使し命を奪い合ってきた残酷な人類の歩みも、時が経てば「クラシカルな歴史」として美化され、当然の如く受け入れられるのだという問題提起がなされています。
音楽的特徴としては、金属的なギターサウンドやリバーブの効いたスネアドラムが挙げられるでしょう。単なるポストパンク的要素のみならず、ジャジーなサウンドの追求やエスニックな香り、エレクトロニックなアレンジなど、多彩な音作りがされています。社会問題や国際問題を、愉しげで希望的なリズムとメロディーに乗せて歌うとは、なんという皮肉でしょうか。複雑で奇天烈なVampire Weekendサウンドは、一筋縄ではいかない社会の不条理を暗に示しているものなのかもしれません。
第7位 Dunya - Mustafa
スーダンの血筋を引くカナダ人SSW、Mustafaによるデビューアルバムです。フォーク、電子音楽、民族音楽など多様なジャンルを融合させたサウンドが新鮮で魅力的な作品。彼は10代の頃から詩人としてキャリアを積み、2019年には自身の生まれ育った町トロントにおける銃暴力と殺人に関するショートフィルムを監督・プロデュースするなど、マルチな才能で社会に影響を与えてきました。ソングライターとしての彼は、The WeekndやJustin Bieberの楽曲に共同制作者として名を挙げます。
本作『Dunya』では愛、信仰、アイデンティティーの探求、そして故郷の追憶というテーマを、Mustafaの柔らかく感情豊かなボーカルで語ります。銃撃により命を落とした彼の兄や、友人Smoke Dawgの死に対する悲しみといったパーソナルな詩。加えてパレスチナ問題やディアスポラに関する政治的な楽曲は、聴く者に世界で巻き起こる事態への問題意識と深い洞察を促します。Mustafaの音楽キャリアにおける重要なマイルストーンである『Dunya』、傑作という他なりません。
第6位 Kansas Anymore - ROLE MODEL
米メイン出身のSSW、ROLE MODELことTucker Pillsburyの2ndアルバムです。テーマはホームシック、失恋、自分探しといった普遍的なもの。アルバムタイトルはご存知『オズの魔法使い』に登場する名台詞、"We're not in Kansas anymore!"のリファレンスです。思い悩んだ時は故郷に想いを馳せるという彼の習慣が本作の主題に反映されているのです。
時折エレガントなバラードを挟みながら、ポップで疾走感あふれる楽曲がアルバム全体を彩ります。オーバーダブされた厚みのあるボーカル、それを引き立たせるような慎ましやかなプロダクション。前作『Rx』(2022)の重苦しく鬱屈とした雰囲気とは打って変わって、肩の荷がおりたような爽やかな仕上がりです。
人気インフルエンサーEmma Chamberleinとの破局に対する未練と葛藤がストレートに綴られる本作。「まだ彼女のことを愛している」と文字通り詞に起こし歌う、あまりにも率直な彼の態度には驚かされました。情けないと思われようとも正直な気持ちを打ち明けるという選択と、人生の新たなチャプターに向けたポジティブな心持ちに天晴れ。
第5位 HIT ME HARD AND SOFT - Billie Eilish
米カリフォルニア出身の若き天才SSW、Billie Eilishから待望の3rdアルバムです。同じく天性のソングライティングスキルとプロデュース力を持ち合わせる兄FINNEASと共に、今年も世界のポップシーンに大旋風を巻き起こしてくれました。今年イチのキラーチューンといっても差し支えない"BIRDS OF A FEATHER"を筆頭に、全曲ホームラン級のハイクオリティーな楽曲が目白押し。
電子音が多用された圧倒的なダイナミズムと、ソフトで時々ハードなBillieの歌声との融合が、脳に響くような熾烈極まりない音像を作り上げています。ドリームポップ、エレクトロニカ、レゲエやハウスなど、様々なジャンルへの挑戦が含まれますが、それらが一切散らかることなく整然と収束しているのも『HIT ME HARD AND SOFT』の凄みだと思います。
筆者個人的に、過去の2作品では今作ほどの精神性の統一は感じられませんでした。リリックは例のごとく内省的でパーソナルですが、今作では彼女の洞察がより自然発生的に、思いのままに表現されているようです。このアルバムは暫定で彼女の最高傑作でしょう。そして次回もこれを超えたものを生み出してくれると期待することができます。
第4位 CHROMAKOPIA - Tyler, The Creator
米カリフォルニア出身のラッパーTyler, The Creatorから7枚目(8枚目)のアルバムです。作曲・プロデュース共に自身で行うその手腕たるや。最早ヒップホップの域から大きく外れたコンテンポラリーな音楽を生み出し、誰にも取って代わられない不動のアーティストとして堂々君臨するTyler。ジャズやソウルなどのジャンルをブレンドし、過去作『Flower Boy』(2017)や『IGOR』(2019)を連想させながらも今作はよりいっそう前衛的に、攻め込んだ姿勢が受け取れる作品となっています。
初期のダークなサウンドと比べると、驚くほどにメロディアスでメロウなサウンドに。リリックに関しても成熟と洗練が見られます。失恋がテーマの前作『IGOR』(2019)に対し、本作『CHROMAKOPIA』では自己探求に際して生まれる疑問や焦燥感などが語られ、テーマ性の著しい拡張が存在するのです。たとえばシングルカットされた楽曲"Noid"ではセレブリティーであることへの苦悩、"Darling, I"では一般的な恋愛観に適応できないことへの嘆きが歌われます。
オープニングトラック含め複数の楽曲に彼の母親のナレーションが入りますが、それらは全て息子Tylerを教え諭す内容のものです。自身と向き合うプロセスにおいて、彼は頭の中で常に母親の言葉を反芻していたのかもしれません。
第3位 Imaginal Disk ‐ Magdalena Bay
LAを拠点に活動するポップデュオからの新作。メンバーはボーカリストのMica Tenenbaum、そしてマルチインストゥルメンタリストMatthew Lewinです。本作『Imaginal Disk』は、シンセポップやダンスポップを基調に、70年代のディスコ、80年代のシンセポップ、00年代初頭のY2Kスタイルなど、過去のトレンドを少しずつ掻い摘み、独創的な「Magdalena Bayサウンド」を生み出します。
コンセプトアルバム的側面も有する本作。MVにおいてMica演じるTrueという架空のキャラクターは、理想の自分に変身するため、額に“Imaginal Disk"と呼ばれるCD型のオブジェクトを埋め込まれます。しかし身体がそれを拒絶し、Trueは人間であることの意味を再発見する旅に出るのです。ちなみに"Imaginal Disk"(成虫原基)とは、昆虫の幼虫の体内に存在し、変態(メタモルフォーシス)後に成虫の体の一部になる器官のこと。意識、記憶、自己の再認識という本作全体のテーマとリンクします。
『Imaginal Disk』はMagdalena Bayの実験的アプローチを示し、ポップミュージックの枠を超えた多層的な作品として評価されています。ムーディーで魅惑的な彼らの異世界には何度も繰り返し飛び込みたくなります。
第2位 Where we've been, Where we go from here ‐ Friko
米シカゴから超新星インディーロックデュオFrikoのデビューアルバムです。これは凄かった。詩的で爆発的、ビビッドな感情表現が売りのFriko。粗削りかと思えば繊細に、弾けたかと思えば物悲しげに。轟音ギター、ピアノ、ストリングス、そしてまた轟音ギター。静と動のコントラストと音楽的二面性がどこまでも美しい作品となっています。
メインボーカルのNicoは本作のテーマ性について「ここ4, 5年間の自分を記録したスナップ写真のようなもの」と語っており、大学を中退し、音楽活動とアルバイトを両立させていた自身の経験とそれに付随する感情が生々しく反映されています。青春時代の輝きと憂い。多感な時期に吸収したポジティブな感情とネガティブな感情の混合体が、本傑作のインスピレーションです。
Nicoの「泣きボーカル」。今年単独来日公演にて生パフォーマンスを見た時、「彼は命を削りながら音楽を奏でている」と、私は大袈裟でなくそう感じました。そんな熱苦しくもカリズマティックな気概にリスナーの心は自ずと揺れ動かされるのです。USインディーの良質な遺伝子を受け継ぎ、時代とジャンルを無造作に旅するドラマチックな作品。まだ始まったばかりのFrikoの歴史に、今後どんな音楽が刻まれてゆくのか楽しみで仕方ありません。
第1位 Charm ‐ Clairo
米ジョージア出身のSSW、Clairoの3rdアルバム。今年のベストアルバムです。音楽性を変幻自在に変えながら傑作を放ってきた彼女は、今年期待を遥かに超える作品をリリースしました。簡素でキュートなベッドルームポップから始まったキャリアは、今やフォーク、ソウル、ソフトロック、サイケデリアなど、様々なスタイルに影響を受けて華やかに彩られています。しかし、親密さや日常的な雰囲気は健在。柔らかく囁くような歌声で独自の世界と美学を演出します。
前作『Sling』(2021)では初めてフォークの要素を大幅に取り入れ、プロデューサーJack Antonoffと共にオーガニックな音作りを実現しました。今作『Charm』では、前作で確立したフォーキーなサウンドに複層的なエッセンスを加え、よりリッチなプロダクションが施されます。ウーリッツァーやメロトロンなど、ヴィンテージ楽器の使用により表現されるノスタルジア。そしてアナログのようなくぐもった質感のボーカルは、聴けば聴くほど癖になります。
テーマは変わらず内省的なもの。しかしながら、「迷い」や「自分探し」といったキーワードが思い浮かぶ前作に対して、『Charm』ではついに感情に整理がつき、自身の望みやアイデンティティーが少々大胆に表現されているような気がします。
Slingリリースからの数年間は彼女にとって、迷路のような人生のレールから少しだけ外れ、自分自身と素直に向き合う期間だったのかもしれません。欲求を露わにすることを恥じる必要はない。自己探求の旅路の中で、そんな気付きを得てちょっぴりフランクになったClairoの煌めく傑作『Charm』、これからも愛聴し続けます。
以上、私のAOTY 20作品でした!
いかがだったでしょうか?
ぜひ皆さんのお気に入りも教えてください(*'▽'*)♪
来年もどうぞよろしくお願いいたします。
よいお年を!
参考: Pitchfork, NME, Rolling Stone(何れもウェブサイト版)