ジェンダーギャップと、わたしの職種
最近の日本では、さる偉い方の失言(?)を機に、ジェンダーギャップ問題が取り上げられている。
いろいろな意見が出ているが、こういうディスカッション自体が活発にされるようになったのはいくらなんでも遅すぎたとはいえ、いいことだと思う。
さて私自身はどうだろうとか自問自答すると、フェミニストだと思う。
政治的志向もリベラルだし、実生活でも、例えば職場の上司が女性でも全然問題ないし、かえって働きやすいケースが多かった。
なので、「日本はまだまだだなあ…」とやや上から目線を送っていたのだが、どうも何か引っかかる。なぜだ…。
いや待てよ、オレの職種、全然駄目じゃん!ということに気づいたのだ。
私の職種は、めちゃくちゃジェンダーギャップが激しい
ここでいう職種というのは、ホテルコンシェルジュのことである。それも、オーストラリアの、だ。
コンシェルジュ協会であるレ・クレドールのメンバーは、現在オーストラリアでは50余名。
そのうちの女性メンバーは…、
え~、あまり言いたくない。
でも言わなくては。
一名…である。
ひとりだけ!
2%、1割以下(2分というのかな?)。
これは、恥ずかしい。
恥をさらに忍び、証拠写真を貼っておこう。これは、2019年のレ・クレドールオーストラリアの年次総会の集合写真。当時のメンバーはほぼ出席している。女性、見つけられます?
断っておくと、この写真ではオブザーバーの女性も2名入っているので、3名の女性を見つけることができます…もしあなたの目が良ければ、ですが。
これは今に始まったことではなく、レ・クレドールがオーストラリアで結成されてからずっとこのような感じだ。女性コンシェルジュは今までもいたのだが、常に1名、多くても2名、という割合。あとが続かないのだ。
これは世界現象かというとそんなことはない。レ・クレドールのメンバーは世界各国にいるが、これだけ男女比が不均衡なのはオーストラリアくらいだ。
あ、あのアーダーン首相で有名になったニュージーランドも、実は女性コンシェルジュがとても少ない。もしかしたらこれは、雇用体系といった地域的な問題なのだろうか?
ヨーロッパ、アメリカなどはだいたい同比率だし、アジアの他の国でも女性のコンシェルジュは多い。日本も、男性のメンバーが徐々に増えてきているものの女性のメンバーが圧倒的に多い。その理由などを考えてみるのもなかなか興味深い。
コンシェルジュも他の多くの職業と同じく、昔は男性の職業だったのだが、1970年あたりから女性コンシェルジュが増えてきて現在に至っている。
では、なぜオーストラリアでは女性コンシェルジュが生まれないのだろうか?
国のせい?
最近良く取り上げられているジェンダーギャップ指数によると、オーストラリアは44位。北欧やお隣のニュージーランドほどではなく、アメリカの少し上、といったところ。もちろん日本よりははるかに上位である。
オーストラリアも、ひと昔はかなり保守的で男系優位な社会だったと思うのだが(一次産業が主流だったからかな?)、最近はかなり変わってきている。
政治、経済でも女性は活躍しているし、産休、育児休暇なども制度化されているので、育児をしながら仕事を続けている女性も多い。
とはいっても女性はまだまだチャレンジに直面しているようだが、実際に生活しているものとしては、女性がどこでも活躍している印象がある。改善の余地はまだあるが、健闘はしている、と言えるのではないだろうか。
なので、国のせいでジェンダーギャップがある、とは言えない。
業界のせい?
男性、女性のどちらかがドミナントな職種というのは実際に存在している。例えば建設業は男性のドメインだったし、看護は女性とか。
でもそのような構図は変わってきているし、そもそもホテルはかなり男女平等な業界だ。ホテルの中でも、例えばシェフや、メインテナンスの仕事は男性、ハウスキーピングは女性、という偏りはあるが、それは歴史的背景もあるし、徐々に変わりつつある。
ホテル業界では、女性の管理職も多い。実際私が勤務しているホテルの総支配人だって女性だし。だから、ホテルが保守的ということはまったくない。
仕事内容のせい?
上記でホテルでも、部署によっては男女比の偏りがあると書いたが、それなりの理由がある(あった)事が多い。コンシェルジュの場合はどうだろう?
オーストラリアの場合、コンシェルジュの大多数は、ポーター、ベルアテンダントといったポジションを経由して来たという傾向がある。
ほとんどのホテルではこの2つは同じ部署になっているので、まずはポーターとして採用され、何年かの経験を経てホテルのこや自分の街についての知識を得たら、コンシェルジュになるという流れが多い(私もこのような流れでコンシェルジュになった)。
ポーターというのは結構な力仕事で、2-30キロもあるスーツケースを何十個も運ばないといけないことが多い。そのため男性スタッフが圧倒的に多くなり、自然とコンシェルジュになるのも男性が多くなる傾向はある。
しかし、一旦コンシェルジュになればそんな肉体的なハンディも少なくるので(まあそれでも体力仕事だけど)、他の部署からコンシェルジュに異動してもいいはずなのだけど。
他にも、不規則な勤務時間、低収入、コンシェルジュの場合仕事外の活動が多い…という理由もあるかな、と思ったが、それらはホテル業界では一般的な問題なので、コンシェルジュに限った話ではない。
で、結論は?
結論からいうと、昔からの慣習を変えられないでいる、に尽きるのだろうか。
今まで男性ばかりでやっていけたんだし、どうせ女性は来たがらないから、まあいいじゃん、みたいな。
うわ、それって日本の現状と同じ!
でも、我々男性コンシェルジュの全員が、女性コンシェルジュ、増えてほしいなあ…と(漠然とではあるが)思っているのである。
われわれが差別的だということはまったくないと思う(思いたい)。普段から様々な人と接客しているのだから、そういった偏見のある人はこの仕事をしてはいけないと思うし、素晴らしいコンシェルジュにはなれない。
また、女性コンシェルジュがいたほうが、総合的に絶対にいい接客ができるはずだ。
あまり男の仕事、女の仕事という線引きはしたくないが、女性には女性にしか分からないこともあると思う。それに対応するにはやはり同性のコンシェルジュが必要とされる。
例えば、私にハンドバッグとか、ハイヒールとか、化粧品のことなんか聞かれてもあまり役に立てませんよ。
そりゃ、プロのコンシェルジュだからそのブランドの場所や営業時間、なんてのは知ってるけど、実際のユーザーではないからやはり踏み込んだ情報を持つには至っていない。
政治でも会社でもそうだけど、男性女性が同じくらいの比率でやっていくほうが絶対いい仕事ができると思う。
では、どうしたらいいのだろう?
それこそクォータ制でも導入して女性コンシェルジュを半ば強制的に採用するのが一番いいのだろうが、これはオーストラリアの場合不可能。
この国では性別や年齢、宗教などで採用基準を定めるのは違法なので、それが出来ない。なので普通にコンシェルジュを募集すると、応募者の大多数が男性になってしまうという、皮肉な現象。
コンシェルジュ自体はホテルから雇われている身なので、自分たちで採用基準を決めたりといったアクションを起こすわけにはいかないし。
結局、考えられるのは、普段から女性も含めた多くの人に働きかけ、「コンシェルジュってやりがいがある仕事なんだよ!」というアピールをし、女性を含めた様々なバックグラウンドの人が応募しやすい環境を作る…これしかないような。
これは認めたくないのだが、心のどこかで、「どうせ女性は来てくれないよなあ…」と諦めてしまっているところがあるので、そういう態度も捨てなくては。
日本とオーストラリアでコンシェルジュの大量トレードをするとか?
これは冗談だけど、なんとかしたい。
最後に、私がフォローしているnoteクリエーターのサザヱさんが書いていたこの文を思い出した。
何とか頑張って比率を3割までこぎつけないと、なかなか先に進まないのだそう。これ、まさにオーストラリアのコンシェルジュに当てはまっている。ごく少数の女性が参加するものの、それが力を蓄える前にポシャってしまい、またゼロからスタートしなくてはいけない…。
なんとかしたいものだ。