南半球の夏を告げる花:ジャカランダ
初夏のシドニー。
我が家の屋上から見下ろすと、住宅地のあちこちに紫色のかたまりが、ぼわっ、ぼわっ、と目に浮かび上がってくる。
ジャカランダの花が咲き始めた。
どこにでも植わっているし、ぐんぐん育っているのでオーストラリア原産かと思ってしまうが、もともとは南米産らしい。「ブエノスアイレスのジャカランダは素敵よ!」とアルゼンチン人の友だちが言っていたっけ…いつか行ってみたいなあ。
ただただ単純に美しいといえばそれまでだが、この花には何か心を打たれるものがある。
…なんだろう?
「あ、そうか、桜の花みたい!」
もちろん、桜とは種類が違うし、花の色も全く違う。
でも、このジャカランダの人格…じゃないな、たたずまいというかが桜と似ていると私は思う。
まず、咲く季節。桜と違って、春を告げるというよりは夏を告げる花だ。これが咲き出すと、日没時間がだんだん遅くなるのを実感し、シドニーのビーチには水着を着た人がじわじわと増えてくる。
シドニーのベストシーズンといえばやはり夏!なので、ひとびとのウキウキする気持ちを盛り上げる花となる。
そして咲きざま。小さな花がたくさん固まって大きな木に咲く様子は、桜を連想させなくもない。
そして、桜と同じようによく散る。じっと木を見ていると、かなり頻繁に花が落ちてくる。
薄紫色の花が風に揺らされ、ひらりひらりと木から落ちてきて、ぽとりと地面にとどまる。
しばらくすると地面は紫色の絨毯になる。
アスファルトの黒い色に映える落花もいいし、緑の芝生とのコントラストも目に鮮やかだ。
ジャカランダの花吹雪を見るたびに何かもの哀しさを感じるのは、やはり日本人のDNAなのだろうか。
ジャカランダの花は、青い空にも映えるし、どんよりとした曇り空との対比もそれはそれでよい。
それほど強い香りを放つ花ではないが、ほわりとした芳香があたりに漂う。
桜と違ってかなり長い期間咲く花だ。散って咲いてを繰り返し、シドニーではクリスマス前まで咲いているだろうか。
ジャカランダの花が咲き終わると、本格的な夏に入り、じりじりとした日差し、くっきりとした空と雲のシーズンが始まる。
ところで、ジャカランダといえば薄紫色の花だが、白い花をつける種類もある。この記事の冒頭に載せた写真だが、シドニーでは私の知る限り王立植物園にある一本しか見たことがない。
紫色の花よりインパクトはすくないけれども、清楚な感じがしてこれも素敵だ。
今年もあともう少しこの花に囲まれて日々を送ることになるだろう。足早に通り過ぎるのではなくて、立ち止まって見上げて
「ああ~、キレイだな…」
という言葉を何回でもつぶやきたい。