
なぜ利用者と呼ばれるのか
介護サービスを受けている方は利用者と呼ばれます。こう呼ばれるようになった歴史的経緯があります。
第二次大戦後、住むところがなく、食べるものがなくて浮浪する人々。家族をなくし、家や財産をなくした孤児や浮浪者は、行政によって強制的に施設に収容されました。仕方のない措置だったのかもしれません。私などは、当時の社会を知るためには文献を読み、想像することしかできません。
実際にあった措置
1945年12月、東京都は2500人の浮浪者を狩り込みしています。狩り込みとは、トラックなどで収容施設へ無理矢理に連れて行くことです。
狩り込みされた人のその後は?
病人・子どもは専用の施設へ送られました。労働能力のある男性は、飯場型(はんばがた)の施設へ送られ、そこで日雇い労働を探したり、住み込みで働ける場所である新聞勧誘員やパチンコ店の店員となりました。
女性は、風俗産業の店員や旅館・ホテルの授業員となって寮に入りました。
参考文献: 西澤晃彦, 貧困と社会, 放送大学教育振興会, 2015.
1945年に20歳だった方なら、現在(2020年)は95歳。戦争に翻弄され、その後の人生も一筋縄ではいかず、難しい人生だったかもしれません。そんな世界を生き抜いた強い姿を想像すると、尊敬の念が込み上げます。
福祉の世界に市場原理が導入された
狩り込みをするなど公的権力の強かった日本社会も、文明が成熟するにつれ、人権尊重の意識が高まってきました。
施設は、措置によって強制収容される場所ではなく、個人がお客さんとしてお金を払い利用する場所である。その考え方から、施設利用者は利用者と呼ばれるようになりました。
行政の措置の受け皿として運営されていた福祉業界に、このとき市場原理が導入されました。今までは、何もしなくても行政からあてがわれていたお客さんを、自分たちで獲得することが必要になりました。
各施設はお客さんを獲得するためにサービスの向上、コンプライアンスの遵守をすすめ、どんどん質が上がってきました。そして介護職員の質の向上も必要であるとされました。その結果1987年に介護福祉士という国家資格が生まれました。
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