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都は草木に覆われたのだ
男は考える。ボイスアクター、つまり女性声優、具体的には内田彩と結婚するには如何にすればいいのかと。
男は考える。自身には何もない、なにもないがゆえに何か栄光を掴み目立たければ、かのステージに立つ女性が靡いてくれるどころか、認知すらしてくれないだろう。したらば、目立つにはどうすればいいのか。
男は考える。目立ち達者な存在になるにはどうすればいいのかと。北村太郎は港の人で言ふ「港はすべての海の名を知っている」と。したらば、男は港の如く、女性声優すべての名を知ればいいのだろうか。しかしながら、それを達成したとて、一部の界隈から受けを貰うだけで、大局的に目立つことはできないであろう。
男は考える。隙間を埋めるのではなく、大局的、つまり世間的な評価を得るにはどうすればいいのかと。目立つようなシステムを考えた際に、現代のシステムを考える。男は気がついた。現代のシステムを破壊することが、現社会において世間的に目立つ近道になることを。しかしながら。男には何もない。資格や経験、スキルや殺人衝動すらも。
男は考える。窃盗・強姦・殺人などの他人を不幸にする方法つまり他人に危害を与える犯罪以外でシステムを破壊する方法を。しかし、男は馬鹿であった。阿呆であった。間抜けであった。どうしてもその方法が思い浮かばず、自身のことが嫌いになり、己の拳で顔面を殴ってみた。ゴツン。乾いた音が部屋に響く。味気ない音に反して、男の顔はみるみると腫れ上がり、そこを起点とした血液の潮流が温度を上げ、顔面の表面温度をみるみると上げていく。我慢できぬ痛さに悲哀が溢れ、腫れ上がった丘を涙が潤すのを感じた。
男は考える。自身の犠牲をなくして目立つ方法を。本当に、自身の痛さを無くすことは可能なのだろうか。身体的な痛みは自身を甚振ることを辞めれば解決するであろう。しかしながら、思想ではどうだろうか。社会システムを破壊するということは、自身の思想を社会にぶつけることになる。社会が強大な壁だとすると、自身の思想は鶏卵みたいなものだ。それを壁にぶつけるとどうなる。潰れて1つの染みになることだろう。傍から見れば、砂漠に落とした一粒の粒に思えるだろう。しかし、染みはいつしか一人の人間に広がり、人と人とに伝聞し、大きな染みへと変貌するだろうと。
男は考える。ならば、思想を更に強硬にし、卵の大きさを拡大すればいいのではと。しかしながら、思想というのは毒としての作用を持つこともある。一歩間違えれば、本人の意図せぬ方向に広がり、他人に迷惑をかけるものへと変貌するかもしれない。したらば、どうするべきか。
男は考える。男は考える。男は考える。男は考える。男は考える。男は考える。男は考える。男は考える。男は考える。男は考える。男は考える。男は考える。男は考える。男は考える。
気がつけば、都に草木が生い茂るほどの時間が経過していた。男を二対のビルディングが見下ろしている。男はなんとか皮と骨だけになった手足を動かし、一言だけ枯れ尾花のようにつぶやいた。「内田彩と結婚してぇ…」と。
ということを考えたけど、どう?と聞かれて、僕は自身の勘定だけ置いて風のように店を去った。
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