「アーティストが売れ続けるために」SNS活用術、モチベーションのケアはどうしてる?【アーティストプロデュースにまつわる100のギモンぶつけてみた】|03
こんにちは、ライターのやまはたです。前回「「成長する子」と「伸び悩む子」の違いは?」に引き続き、今回もS×Sの"中の人"に聞きたいこと、気になることをぶつけていきます。
03のギモン|
アーティストのSNS活用術、モチベーションのケアはどうしてる?活用術と、モチベーションケアについて。
アーティストにとって、SNS発信は今の時代ひとつの武器です。だからこそ多くの人が利用しているわけで、その中から見つけてもらうのは簡単なことではありません。
そもそもS×Sではアーティストに「あれして、これして」と強制しないスタンスだからこそ、SNS発信を活用したとしても、それを続けるためのモチベーションを維持してもらうのは難しいもの。
そこで今回は、S×Sプロジェクトを支えるソニー・ミュージックレーベルズの長谷川洋輔プロデューサーに、アーティストのSNS活用術について、また実践しているモチベーションケアについてお聞きしました。
表向きはアーティストプロデュースにまつわるお話ですが、企業の広報さんや、個人でブランディングをしたいと考えている方にも役立つ内容だと思うので、ぜひ最後までお読みいただけると嬉しいです。
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長谷川 洋輔氏
ソニー・ミュージックレーベルズでLiSA、Crossfaith、初音ミクなど国内外、幅広く活動するアーティストやプロジェクトに関わってきた音楽プロデューサー。業界歴は20年以上。S×Sでも的確なアドバイスで9人の女の子を育成・支援。
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SNSで長距離走ランナーになるには
目的をはっきりもつこと
ーーそもそもアーティスト/クリエーター活動をするうえで、SNS発信は絶対に必要でしょうか?
長谷川P:時代含め、ファンとの接点を考えるとスピード感をもってつくりやすいツールではあるので、SNS発信をやることのメリットは非常に大きいと思っていますが、アーティストの世界観やブランディングを考えると、必ずしも絶対じゃないよね? とも思います。
ーーたとえばS×Sメンバーの中だと、SNS発信に向いている子は誰ですか?
長谷川P:SNSといっても、TikTokやTwitter、instagramなど色々ありますよね。今だとyoutubeショートもあるし、noteもその一つになるのかもしれないし。どれに向いているかもあると思うんですけど、その人の魅力が正しく伝わるツールを選択さえすれば、全員向いていると思っています。SNS発信向いてないからやめた方がいいよ、と思うことはないです。
ーー確かに、rrrushhourrrちゃんはラジオ配信にすごく向いているなと思いました。RunaarちゃんはTikTokに#歌ってみた を毎日投稿していますが、つい次から次へと聞いちゃうし。これらは彼女たちが自ら選択しておこなっていることなんですか?
長谷川P:アドバイスすることはありますが、本人が「やりたい」と思わないと物事は前に進まないので、最終的には「本人がやると決めておこなっていること」です。彼女たちも「自分らしさとはなんだろう?」って考えながらやっている途中なんじゃないでしょうか。
Runaar (@runaar_1226) TikTok | RunaarさんのTikTok最新動画をチェックしよう
長谷川P:Runaarに関して言えば、彼女は元々Showroomで音楽配信をやっていて、1400日間毎日やり続けていたんです。彼女の一番の凄さって、歌唱力の高さや、歌を発信するということ以上に、1400日間やり続ける根性なんですよ。長距離走者としての才能がある。
ーー1400日っていうと、5年間以上! 小1で始めたことを小5まで毎日やっているってことか。
長谷川P:1400日、毎日配信したことあります? 何かを毎日やり続けられるって強みなんです。
ーーRunaarちゃんが本来もっている根気の強さ、それとSNS配信を続けることがリンクするんですね。
長谷川P:そうです。だからその配信と、彼女の曲の歌詞と、MVをひと繋ぎにしていくことでRunaarの世界観ができ上がる。人となりがわかると、やっていることの味わいが深まりますから。
ーーでも、夢を実現するためにSNS発信をやった方がいい、続けた方がいいことを頭では分かっていても、人によっては面倒臭くて続けられなかったり、気持ちが追いついてこないこともあると思います。そんなときはどうやって打破したらいいですか?
長谷川P:それは、“SNSを続けることの目的が何か”をきちんと理解すること。部活とか塾といった習い事もそうだけど、大人に言われて始めたとしても、自分自身の中で目的や目標が実感できているとモチベーションは加速していくじゃないですか。僕は中3でピアノを辞めちゃったんですけど、今となっては「やっときゃよかった」と思うのって、大人になって目的を感じられるようになったから。
ーー私にも身に覚えが…。
長谷川P:ちなみにやまはたさんはSNSやってます?
ーー昔はアメブロをやっていたんですけど、書くことを仕事にしてからは気軽に書けなくなっちゃいましたね…。言われてみれば、ブログを続けるための目的はもっていなかったなぁ。
長谷川P:結局SNSはひとつのツール。自分の現在地と目的地までの移動手段のひとつに、各種SNSが有効であればそれは積極的に使えばいいし、そうじゃない方法があるのであれば、使わなくてもいいと思っています。
ーーフォロワーの数が多かれ少なかれ、SNSを続けるモチベーションをキープするには、自分の目的をきちんと分かっていることが重要だと。
長谷川P:そうです。もし目的を分かっていても続けられなかったとしたら、そこで戦わない。戦わなくていいんですけど、「じゃあ自分はどこで戦うのか?」を見出すことが大切です。
今すぐ誰でもできる
自分を知るための〈3つの方法〉
ーー「敏腕音楽Pがやってる「育成」を簡単にする考え方。」でもお聞きしましたけど、長谷川さんは目的地を知るための手段として〈現在地を知ろう*1〉〈小5理論*2〉〈4象限マップ*3〉を取り入れていますよね。これらを取り入れて期待できることは? おこなう順番はありますか?
長谷川P:最初に〈現在地を知ろう〉をやって、そこを深掘りしていくときに〈小5理論〉でWho I amをやってみつつ、目的地の設定が〈4象限マップ〉になります。僕も自分自身にやってみたんですよ。この3つを完成させたときから仕事で重宝されるようになった。これは実体験としてあります。
*1〈現在地を知ろう〉…自分がどんなスキルを持っているのか、目標に向かう前に確認する作業のこと
*2〈小5理論〉…小学5年生の頃のクラスの立ち位置で本来の人間性が分かるという仮説
*3〈4象限マップ〉…縦軸と横軸を設定し、4つのエリアに分けてポジショニングを明確化すること
ーー個人的には「〈現在地を知ろう〉と〈小5理論〉を耳にしたことがなかったんですけど、これは長谷川さんが生み出した方法ですか?
長谷川P:〈小5理論〉に関しては、最初は思いつきでした。そういえば僕、小5のとき楽しかったなぁって思って。あの楽しい感じのまま社会に出て仕事できないかなって考えたときに、でもクラスには一番足速いヤツいたな、一番歌上手いヤツいたな、一番おもしろいヤツいたな、僕はどこにいたっけ?って。
でも当時は狙ってクラスのそのポジションにいたわけではなくて無意識にいたわけだから、あれが自分が元々もっていた素質というかピュアな自分なんだな、と気がついたんです。それがきっかけで、自分なりの理論の確信を得るために教育系の論文を読み、確信を得ていきました。
【仮説】小学5年生でその人のキャラクターは決まる?【育成メソッド】
ーーS×Sで〈4象限マップ〉はどんな風に使われたんですか?
長谷川P:それぞれのキャラクターが進むべき道を設定するときに使いました。ちなみに僕の〈4象限マップ〉の元ネタは『ボキャブラ天国*4』のボキャブラマトリックスです。僕これが好きで、少年の頃にいたく感動して。新しいアーティストと取り組むときは必ずやっています。
*4『ボキャブラ天国』…1990年代にフジテレビ系列局で放送されていたお笑いバラエティ番組。タモリさんが司会を務め、視聴者から寄せられた駄洒落作品(=ボキャぶった作品)をパネラーと一緒に品評し人気を博した。ボキャブラマトリックスについてはググってみてください!
※ボキャ天に出てきていた4象限マップはこんな感じ
ーーボキャ天、懐かしい!
長谷川P:ギャグを〈シブい〉〈知的〉〈バカ〉〈インパクト〉の4つに分けて品評するんです。バカパクの7・5とか、シブ知の10・10とか。
たとえばライターさんなら、〈インパクトのある原稿を書くタイプ〉、〈シブくて読ませる原稿を書くタイプ〉、〈知的な原稿を書くタイプ〉、〈分かりやすい原稿を書くタイプ〉の4つのマスに分ける。同じライブレポートでも、どんなタイプの人が書くかで変わるじゃないですか。売れるのは、この四隅にいる人たちなんです。バカパクな感じで書いて欲しければ、やっぱりそこにいる人に頼むし。
ーーこの図表、商品開発や販売戦略などを考えるときにも役立ちそうですね。どこのポジションを狙いたいのか、そのポジションに行くには何が足りていないのかが明確になる。
長谷川P:そうなんですよ。この世のすべてはボキャブラマトリックスに当てはめられると思ってます。
ーー4つのキーワードは状況に応じて何を当ててもいいわけですよね?
長谷川P:キーワードはなんでもいいんですけど、タテヨコの軸に関しては〈人間性(キャラクター性)〉と〈作品性(商品性)〉だと思ってます。
ーー最近のS×Sの配信を見ると、iLYちゃんの自己分析の解像度が高いなーと思ったんですけど、彼女の場合はどんな〈4象限マップ〉を作ったのでしょうか?
長谷川P:iLYの場合は「世界で通用するトラックメーカーになりたい」という気持ちがあるので、まずその世界で“四隅にいる人”を本人と一緒に書き出しました。〈人間性〉はクールなのか、またはアイドル的なポップさなのか。一方で〈作品性〉は楽曲として大衆性があるか、芸術的な方向なのか。
そのマップを見ながら、「今君はどこにいるの?」と。これが〈現在地の把握〉。その上で「どこに行きたい?」と聞いたときの回答が、彼女の〈目的地〉になる。
当初iLYは、トラックメーカーとしてかっこいいものを作ればそれで通じるはずだと感じていたけれど、〈4象限マップ〉にして俯瞰したことで、「人間性も重要」だと気が付いたんです。商品でいうとパッケージですよね。
ーーなるほどなぁ。こうやって頭の中を整理すると自分がやるべきことが見えてくるし、戦略が立てやすくなりますね。
長谷川P:例えばコンビニでチョコレートを買うとき、パッケージから伝わってくる商品の世界観で手に取るかどうかってあるじゃないですか。だからアーティストやクリエーターの人間性も重要な要素だと思っています。
売れたければ
〈村長〉になれ
ーー長谷川さんは数多くのアーティストをプロデュースされていますが、ヒットする人とヒットしない人の違いはなんだと思いますか?
長谷川P:人であれ、作品であれ、商品であれ、どこで誰にヒットしているかが本質的に重要だと僕は思っています。
たとえば、自分の気持ちをうまく言えない、コミュニケーションがうまく取れない、けれど内面で思っていることはたくさんある…という世界観を描く映画や小説、歌詞があるとすると、共感できる人たちにヒットしていくじゃないですか。
「誰の代弁者になるのか」は、さっきの〈4象限マップ〉で明確化していけばいいし、じゃあ〈4象限マップ〉のどこにいけるかは、小5のときのクラスの立ち位置、そこを代表できる能力をそもそも持っているじゃないのか、ってことです。
ーーここで〈小5理論〉が効いてくるのか。ヒットっていうのは数字ではなくて、その世界の中でトップに立つことなんですね。
長谷川P:その村の〈村長〉になるということですね。僕は〈池の主〉とか〈川の主〉ってよく言ってます。
ーーヒットしている人=みんなが知っていて、みんなが好きで…と思いがちですけど、実際にはそうじゃなくて、その村の村長になれれば、もうそれはヒットだと。
長谷川P:僕はそうだと思いますよ。たとえばTVで活躍されている方、その時代のトップを走っている方は、そもそも大衆的な場所を代表しているということ。
ーー池であれ川であれ、その場所で〈主〉になるには目的を達成しようという強い気持ちが大切で、その目的を見つけるためには、自分の現在地、自分が本来持っている特性を知ることが本当に大事なんですね。
長谷川P:大事ですし、そもそも“自分のことを知っている”って素敵なことだと思いませんか? 若者っていつの時代もそうだと思うけど、「やりたいことがない。夢も目標もない」って嘆くけれど、現在地に気付くだけでも十分に素敵なことなんですよね。
今回のまとめ
最後に、改めて長谷川さんが実践している「アーティストのSNS活用術」と「モチベーションケア」のポイントをまとめておくと、
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・アーティストのSNS発信は必ずしも必要ではない
・SNSを続けるためには、自分の方向性を把握しておく
・〈現在地を知ろう〉〈小5理論〉〈4象限マップ〉を活用すれば、自分の目的地が見えてくる
・売れたければ、その村の村長になれ
・自分の現在地を知ることだけでも、十分素敵なこと
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今回紹介した〈現在地を知ろう〉と〈小5理論〉のやり方や効果については、以下の動画で詳しく紹介しています。
【Story by Story SHIBUYA #3 】誰でも出来る「自分成長法❶」
【仮説】小学5年生でその人のキャラクターは決まる?【育成メソッド】
次回は「アーティストがいいものを生み出し続けるためのマネジメントとは?」について、根掘り葉掘り聞いていきます!
【Story by Story SHIBUYA youtube公式チャンネル】
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