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【思うこと】差し色をひとつ
大学の帰りのバスにひとり、ガタガタ揺られながら家へ向かっていた。ほかの大学生が元気におしゃべりしている声が幾重にも重なって、少し息苦しい。
そんな中で目に入ったのは、隣に座っていた人の白いTシャツ。
一瞬、そこに私の口紅がべったりついたらどうなるのか、なんて考えが浮かんだ。
バスが揺れた拍子に、隣の人がバランスを崩してこちらへ上半身を倒し、先ほど塗り直した私の口紅が不幸にもついてしまう。
私は、それって何だかきれいだと思った。白に鮮やかな赤、とてもすてきな差し色じゃないか。もちろん相手方からしたら嫌な事だというのは分かっているが、そうして怒るところも想像してみるとなんだか面白おかしいと思えてしまった。私は少々性格が悪いのかもしれない。
きれいかもしれないと思ったのも、怒ったらなんか笑ってしまいそうというのも事実、しかし不本意でもつけてしまったら申し訳ないかもってあとから思ったのも事実だ。それでも、最初に思ったのはきれいという感情だった。
時にはこんなふうに人間の感情をさっぱり無視して自然できれいなものに陶酔していたいし、不意に人を刺して傷つけてみたいなんて思う。将来絶対ばちあたるね。