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旅のお供に「コスモポリタンズ」

 旅には必ず本を一冊持って行く。できれば荷物にならない文庫本が良い。ということでそろそろ旅だなという時にちょうどいい本を持ってなかったので検索してみた。「旅のお供にオススメの本」と検索するとよき記事が出てきて、そこの二冊目に出てきた文庫本がこれだった。サマセットモームは「月と六ペンス」「人間の絆」などを読み、痛く気に入っていたところだったので即ポチる。

 この本はその推薦文通り、ちょうど良い短編集だった。なにせ、このタイトル由来である雑誌「コスモポリタン」に寄稿された、雑誌の2ページに収まるようにという制約のある中書かれたものだったのでどれも短いというのが一つ。そして内容は実際に著者が世界を旅してメモしていた「おもしろい人たち」を題材に書かれているからだ。実際欧米だけでなく、東南アジアから中国から日本(神戸や横浜)まで出てくる。そして船旅がほとんどなのも20世紀初頭ということを感じさせて、よかった。この本を6月の四国の一人旅でほとんど読了した。船旅に始まり、あとは電車旅だったから短編それぞれのサイズ感も移動中に読むのにちょうどよかった。

 普通に自分の居住地で過ごしていると、時に人間関係なりニュースやSNSに飛び交うネガティブな言葉に感染してバッドな気分になりがちだ。もちろん普段はそれを誰かと飲みに行ったり、一人でバーに行って初対面な人と酒や音楽を軸に語り合ったりすることである程度は解消させてるんだが、そんなネガな気分な時に更にいいのが読書であり映画だったりする。その、「自分と接点のない人間の物語」に没入することで自分のスケールの小ささ、言い換えれば「ネガな気分になってしまったことの馬鹿馬鹿しさ」に気づかせてくれるからよい。

 この本「コスモポリタンズ」はそんな、「(時代も国も違う)ある人間のちょっとした物語」で構成されている。例えば

◾️4人の仲良し船乗りオランダ人がどのように仲間割れをしたか?
◾️物知りを自負し、自慢している少しウザい人がどのように間違いを犯して笑われたか?
◾️面倒な彼女と彼はどのようにうまく別れたか?
◾️韓国で見つけた、イギリス人が著書のトランプにまつわる本に驚嘆する話
◾️スペインに移住した医者と偶然再開した話
◾️有名人に会うことに積極的でない著者が、仕方なく大御所詩人に会いにいくが、、、

、、、そんな感じでどれも魅力的な話ばかり。雑誌の読者が一気に、それも「面白い」と思って読み進められるように書かれている、翻訳とはいえ流石のサマセットモーム!と思わずにはいられない文体だ。

 そんな中、個人的に特に印象に残った話が「弁護士メイヒュー」。彼メイヒューはデトロイトで弁護士をしている35歳だったが、ある時イタリアのカプリ島がいかに面白いか?そして魅力的な建物が売り物になっていたという話を飲みの席で聞く。そして勢い電報を打って、なんとそのままカプリ島に移住してしまう。普段冷静なメイヒューが、翌日酔いが覚めてからも移住の決意は変わらず移住してしまった。そして生来真面目な彼はその島に残るローマ帝国の痕跡に痛く感動し、あまり歴史書で触れられていない二世紀時代のローマを調べて書籍にしようと決意する。膨大な資料を集めて14年かけて調べて、いよいよ執筆にかかろう!という時に彼は亡くなってしまった、、、と。

 著者が言う、

「せっせと蓄積されたその膨大な知識は、永遠に失われてしまった。世間に対しては全く無名な人間として生涯を終えた。にもかかわらず、私の目から見ると、彼の生涯は成功だった。彼の生き方は、文句なしに完璧な姿なのである。彼は自分のしたいことをして、決勝点を目の前に望みながら死んだ。そして、目的が達成された時の幻滅の悲哀など味わわずに済んだからだ。」

 なんなら100年近くも経っているのに、サマセットモームの紡ぐ物語はなぜこうも心地よいのだろう。どんな乗り物社会になろうとも、コンピューター制御な社会になろうとも、人間が喜怒哀楽を感じること自体は変わらない。人と人の関係が何かを生み出し、何かを破壊することも変わらない。そんな根元をしっかり踏まえた観察視点だからだろうな。生鮮食品・POPSとしての文学ではない。雑誌というPOPな場所で発表されたものなのにも関わらず、この、時代を越える作品たちに仕上がっていることが改めて素晴らしいなと思う。


"コスモポリタンズ" サマセットモーム著(1924-29年著)

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