兵庫県立美術館へ
兵庫県立美術館へ行きました。
実は今日から「描く人、安彦良和」が始まっているのですが、今日私が見るのはそっちではなくて、ギャラリー棟でやっている「キース・へリング展 アートをストリートへ」の方です。前にギャラリー棟でやっている展覧会を見た時には歩道橋から直接3階に入って見た記憶があるので、きっと今回もそうだろうと思って歩道橋から入ったら違いました。入口が1階にあり、3階へ階段で上っていかなければダメでした。
さて、そうやって階段を上って入った「キース・へリング展」です。会場は撮影が可能で、意外にもお若い方が多く来場されていました。
キース・へリング(1958-1990)が活動を始めたのが1980年代初頭、ニューヨークの地下鉄駅構内の空いた広告板に貼られた黒い紙にチョークで描く「サブウェイ・ドローイング」でした。約5年間続いたそうです。有名になると、剝がされて売買されるようになり、それで中止したのだそうです。
私はこの作品が印象に残りました。自分の写真を白黒反転させて拡大し、そこにペインティングをしています。ドラゴンみたいな顔にも見えます。
キース・へリングは、メッセージを強く打ち出した作品を数多く作りました。上の写真は、キースの残した言葉です。よく、○○に政治を持ち込むなとか、思想が強すぎとか言い出す人がいるのですが、アートとはそういうものではなく、世界のありようを映しているため、そこに思想や政治は欠かせないものと思います。
題材は反アパルトヘイト、「エイズ」予防、性的マイノリティの人々のカミングアウトを祝福する記念日「ナショナル・カミングアウト・デー」、反核デモでポスターを無料配布するといったアクションも起こしました。こういったアクションを、アート・アクティビズムといいます。
彼は何度か日本を訪れており、1988年には広島にも来ています。上の作品は1988年に行われた広島平和コンサートのポスターです。メインイメージを彼が手がけました。
今回の展示の一番最後のコーナーでは、彼が原宿を訪れた時の動画が流れていました。ヒップホップの音楽に合わせてパフォーマンスをするダンサーの横で、道路にチョークでドローイングを行っている姿が映っていました。
《沈黙は死》は、社会の無関心に対して警鐘を鳴らす作品です。ピンクの三角形は、ナチスの強制収容所で同性愛者の男性につけられたマーク(下向きの三角形)がもとになっており、これを逆の上向きにすることで性的少数者への祝福と、偏見によって命を落とした人々への追悼を表したそうです。
(キース・へリングはカミングアウトして活動をしていました)
この絵をよく見ると、見ざる言わざる聞かざるのポーズをした人たちがたくさん描かれていることが分かります。見ないフリ、聴こえないフリ、そして見たものに関して何も言わない、関心を持たないことにする仕草。
私たちは、私たちの暮らすこの社会のありように関心を持ち、もっとアクションを起こすことで今よりも暮らしやすい社会を作っていけるのかもしれません。
キース・へリングを見た後はJICA関西食堂でランチをして、午後からはコレクションルームをゆっくり鑑賞しました。
白髪一雄生誕百年ということで、美術館のコレクションの中から彼の作品をピックアップして2室使って展示をしています。今年は県美の友の会に入り、コレクション展をどんどん見ようと思っています。
白髪一雄は兵庫県尼崎市を拠点にして活動した画家で、アクションペインティングと呼ばれるロープにつかまりながら足で描く、というような手法で制作したことが有名です。
今回の展示で心に残ったのは3点でした。上の《地傑星醜郡馬》は、これはかっこいいなあと感じたものです。
黄帝とは神話伝説上の太古中国の帝王のことだそうです。これは、色彩も絵の具の質感も胸に迫るような迫力で、とても心に残りました。
これはどうやって描いたんだろう、というのが最初の感想です。画面の右側に細く黒い線で書かれたものが、お経っぽいなと感じました。「あびらうんけん」は大日如来の真言です。白髪一雄本人は比叡山延暦寺で得度していますから、こういったテーマで描くというのは納得できます。
先日国の重要文化財に指定されることが決まった「羽衣天女」は、8月20日からのコレクション展で見られるようです。楽しみです。
家に帰ってきてから夕刊を見ると、1面に中村キース・へリング美術館の記事が掲載されていて、びっくりしました。キースの広島での足跡を調査し、「Keith Haring:Into 2025 誰がそれをのぞむのか」という展覧会が開かれるという記事です。見に行きたいけど、行けるかな。