法然と極楽浄土
京都国立博物館で開催されている特別展「法然と極楽浄土」を見に行きました。今年の4月から6月にかけて東京国立博物館で開催されていたものの巡回展で、京都の次は九博へ巡回するそうです。地域により、地元ゆかりのものなどを入れたりして少しずつ内容が異なっているようです。
法然は平安時代末期に生まれ、比叡山で天台僧として修業を積みました。43歳の時に中国唐代の善導の教えに接し、「南無阿弥陀仏」の名号を称えることによって誰もが等しく阿弥陀仏によって救われ、極楽浄土に往生できることを説き浄土宗を開きました。今年2024年は浄土宗開宗850年を迎えるということで、法然による開宗から、弟子たちによる諸流派の創設と教義の確立、徳川将軍家の帰依によって大きく発展を遂げるまでの歴史を、国宝、重要文化財を含む貴重な名宝によってたどる展覧会でした。
法然の生涯を描いた48巻の長大な国宝「法然上人絵伝」は3期に分けて48巻のうち6巻を展示していて、今は37巻、42巻を見ることができました。端正な絵と美しい彩色が印象的で、どの場面も丁寧に描かれていて、この絵伝がとても重要なものとして描かれたことが分かります。
釈迦の涅槃は「涅槃図」という絵画として描かれたものは良く見ますし、横たわる釈迦だけの像は見たことがありますが、涅槃図に描かれる群像を立体で作ったものはとても珍しいと思います。
今回の目玉は何といっても知恩院さんの国宝「阿弥陀二十五菩薩来迎図」通称「早来迎」です。修理後初公開で、京都では後期のみの展示でしたから絶対に後期に見に行こうと思っていました。
単眼鏡で細かいところまでじっくりと見ました。音声ガイドで修理に携わった学芸員の方がおっしゃっていたのですが、修理の時に裏面の下絵を確認することができて、表面の本画と殆ど違いがなかったということです。描いた絵師の高い画力、技術が分かります。私は、この早来迎は構図がとんでもなくすごいと思いますし、菩薩ひとりひとりの動きが生き生きとしていて素晴らしいと思います(なんとなく楽しそうですよね)。
その他、大福光寺の「方丈記」の最古の写本、永観堂禅林寺の「山越阿弥陀図」など、すごいものがたくさん展示されていて興奮しながら2時間くらいかけて見ました。
博物館を見た後は、少し歩いた場所にある智積院へ行き、「第60回京都非公開文化財特別公開」で公開されている宸殿を見ました。こちらの宸殿には京都画壇の代表的な日本画家である堂本印象の描いた『婦女喫茶図』などの襖絵があり、ぜひ見たいと思っていました。
宸殿は昭和22年に焼失し、昭和33年に再建した際に堂本印象が新たに障壁画を手掛けたということです。洋装と和装の女性を描いた「婦女喫茶図」や「松桜栁の図」など金色に豊かな色彩で描いた襖絵と対照的に水墨で描かれた「朝顔に鶏の図」「茄子に鶏の図」「流水に鳶の図」などがありました。
こちらの『婦女喫茶図』も素敵なのですが
私はこちらの松桜柳図に心惹かれました。堂本印象は、新しい表現にどんどん取り組んでいった方ですから、こんなにモダンでポップで新しい印象の障壁画を描けたのかなあと思いました。水墨で描かれたものは対象的に正統派の水墨画という感じで、そちらも素晴らしいとしか言いようがなかったです。
庭園や宝物館(長谷川等伯の障壁画がある)もたっぷり拝見し、見に来て良かったと思いながら帰途につきました。