過去を書きかえるためのジャンプ
「西谷さん、活版印刷やってたんやって!」
ミサさんが大興奮している。
確かに西谷君がそんな職人的な仕事をしてたなんて、これまで聞いたことがない。
「やってないよ」
西谷君、早い。否定が早い。
展開のブレが大きすぎて心がついてゆけない。
「でも、さっきやってた言うてはった」
ミサさん、本当にそう聞いたの?
西谷君、ミサさんに何を伝えたの?
2人のスットコドッコイっぷりは五分。
いや、やはり日頃の言動の不確かさを思うとミサさんがやや優勢か。
ともかく何がどうなっているのか? 西谷君と活版印刷は何か関係があるのか? 西谷君、もう一度教えてくれないかな。
「凸版印刷のCMは見た」
これは誤解とか聞き間違いとかいったレベルではない。
とんでもないヒアリング力……いや、一瞬で人の過去すら書きかえてしまう、異次元のジャンプ力だ。
勝者、ミサ。それも圧勝と言っていいだろう。
もっと間違っていいのだ。
もっとジャンプしてもいいのだ。
僕たちは正しさを追い求めすぎている。