この場において最も大切にされているのは何か？

奇跡の9連休だかなんだか知らないけれど、世の中そんなに長い休みを楽しめる人ばかりではないし、孤独を深めるだけの人も、お金が十分にない人も数多い。

それにたかだか5年ぶりがなぜ奇跡になるのかが、まずもって意味不明だ。

ウソ、大袈裟、紛らわしい。

そんな広告があったら教えてね、なんてCMが昔よくテレビで流れていたが、ウソとまではいかなくても大袈裟で紛らわしいのは現代のメディアの日常になってしまったように思える。

ともあれ暦の上では中途半端な今日、スウィングは仕事納め。やる気のある人、やる気のない人、そのどちらでもない人が力を合わせて大掃除をし、株式会社NPOの運営による再出発1年目が幕を閉じた。

僕は1年を通し、近づいて凝視したり、離れて俯瞰してみたり、視点や距離を変えながらスウィングを眺め直した。理由はいろいろあるけれど、最も大きな理由は「この場において最も大切にされているのは何か？」を知るためだ。

思想や理想はあっても、また芸術活動とか市民活動とかそれっぽい外向きの言葉は様々あっても、日常に根づいた文化がなければ仏つくって魂入れず。けれど日常にあるものって、それが日常だからこそよく見えない。だから意図してあれこれ試して眺め直す必要がある。

「この場において最も大切にされているのは何か？」

それは大袈裟さでも紛らわしさでもなく「大事にすること」だった。
大事にするって何を？　他者を。場と時間を共にする自分以外の他者を。

ひとりの部屋で自分らしく生きることは比較的容易であるとしても、組織、集団の中で個々がそれを成し遂げるのはなかなか難しい。誰かの自分らしさや自由は、必ず他の誰かのそれと衝突したり、摩擦を起こしたりする。個が尊重される場であればあるほど、集団における個の持つ意味や力は強くなり、その分摩擦も激しくなる。こりゃまいった。

それに人間同士だからシンプルに好き嫌いというものがあり、苦手な相手のらしさは受け入れ難い。だってそのらしさ（の一部）が気に食わないのだから。

好きでも嫌いでもなんでもいい。そりゃしゃあないし、その感覚だって言うなれば自分らしさの一部だ。でも自分が自分らしくありたい、自分を大事にして欲しいと望むならば、他者に対しても同じように振る舞う必要がある。

大事にすること。

綺麗ごとではない。なかなか困難なことだと思う。毎朝「大事にしよう大事にしよう大事にしよう」と皆で3回口で唱えてみても、カルトっぽく見えるだけでほとんど意味はないだろう。

しかしスウィングには、いかにもあたたかな風景としてではなく、日常の些細な瞬間のなかに、大いに物言う人も物言えぬ人も、あるいは利用者やスタッフといった役割を超えて、他者を大事にしようとする態度が自然と組み込まれている。

そう、精神論ではなく、ほとんどシステムとして組み込まれている。だからこそ文化と呼べる。ように思う。

スウィングには相手を知るための機会がある。また自分を知ってもらえる機会がある。言葉や理屈や関係性を理解しにくい人にも不可欠な役割があり、その役割に対しての感謝がある。苦手な相手とは距離を取ることができ、そのことに後ろめたさを感じなくてもいい。絵に描いたような公平（みんな一緒が大切！）を求めていない。必要は人それぞれ違うのだと肚落ちしている。自分がうっかり掘ってしまった穴は他の誰かが埋めてくれるから、誰かが穴を掘ってしまったときには私が埋める……などなど。

とまあ少々いいように書きすぎたかもしれない。

けれど生きてりゃいろいろいろいろあるさの先にあったものが、不信や不安や競争や正義や終わりなき上昇志向でもなく、自分や他者を「大事にすること」という文化であったならば、概ね進行方向は間違ってないなと思うことができる。

白の側から見た黒はもはや人間ですらなく、その反対も同じ。白黒分断の激しすぎる世界の中で「大事にすること」は人間味を持って生きてゆくための命綱のような気がする。

ここで一見まったく関係ないように見えるが、今朝、今年最後の朝礼でQちゃんが発表した一編の詩を紹介する。

はだか　Q／2024

ある高知県で
はだかの王様は
タクシーを、
止めようと、
手を上げた。
しかしタクシーは
とおりスギてばかりだった。
それも　そのハズ
全部人が乗っていた。
リクルートエージェント。

僕は何かヤバいものを聴かされたような気がして、最初は盗作（もしくは引用だらけ）を疑ってしまった。が、完全オリジナルらしい。もちろん「リクルートエージェント」はあれだが。

詩として言葉として、かつて聴いたことがないくらいに面白い。「ある高知県」というのはあの高知県で合っているのだろうか？　果たしてタクシーが止まらなかった理由は本当に「全部人が乗っていた」からなのだろうか？

こんな作品が突如として生まれ出るのも、日常に根づいた文化の効用なのかもしれない。

放っておけば根は腐る。手を入れすぎても根は腐る。
「大事にすること」を大事にし続けられるよう、大きくなることより小さく在ることを忘れずに。

今年もありがとうございました。
来年もスウィングをよろしくお願いいたします！