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詩人・向井久夫

向井久夫は2013年に詩を書きはじめた。その姿は元々生まれもって詩人だった人が、ようやく本来の仕事をしはじめたかのようだった。最初は照れ臭そうな様子だったが、内容がとにかく下品で、照れ臭がる人が書くようなものには見えなかったので腹を抱えて笑った。同時に向井さんはこんな言葉とユーモアを秘めていたのかと皆が驚いた。そのうちにハッとするような真実、苦悩や哀しみが綴られるようになり、今度はその純度と美しさに僕たちは涙した。

向井さんの詩作は突然はじまったかのようにも見えたが、恐らくそうではない。 既にそのとき、スウィングには「詩」という文化が揺るぎなく存在し、巧みだろうが何語か分からなかろうが誰もバカにしたりなんかしない、「どんな表現をしてもOK」という環境があったのだと思う。どんな表現をしてもOK。この安心感があってはじめて人は自分自身の、自分自身のための表現をはじめることができる。

当時、「どんな表現をしてもOK」の中心にはQ氏がいた。Q氏は口では外的評価を求めながらも、それとは真逆のような、誰の胸をも打たない言葉を来る日も来る日もノートに書き綴っていた。今でもそれは続いており、実際そのどうでもよさは傑出している。映画『パターソン』はどうでもいい表現の素晴らしさ、表現に良し悪しなんてないのだというメッセージを美しく物語っている……と僕は解釈している。だから大好きで繰り返し観てしまう。Q氏の詩は「ええの書こう思たら、おもろなくなんねんなあ」と首をひねる向井さんの心を射抜き、しきりに羨望や敬意の眼差しを向けていた。一方のQ氏はQ氏で、多くの人の胸に響く詩を書く向井さんに嫉妬心や敬意を抱いているようだ。2人の詩人の関係性は面白い。

向井さんは一貫して<スウィングにいつ来るか分からない人>だが、たとえ何ヶ月もスウィングに姿を見せなくても自宅で詩を書き続け、ときどき最新作でぱんぱんになった封筒をスウィングに送ってくれる。一見穏やかそうに見えるが、幼少期から苦悩の人生を歩んできた向井さんだ。近年はご家族の死や病も相次ぎ、いつしか彼自身も癌を患い、先頃より緩和ケアへと移行している。

もちろん作品の素晴らしさが先立ってのことだが、向井久夫詩集の発行は僕や彼の周りにいる人間にとっての念願だった。向井さん自身が喜んでいることはもちろん、彼の詩を読んで泣いたり笑ったりしている人たちがいるのがとても嬉しい。先日、僕もようやくゆっくりと目を通してみたが、やっぱり泣けて笑えて最高だった。誰が何と言おうと向井久夫は偉大な詩人である。


詩人・向井久夫、はじめての詩集が完成しました。 勝手に詩人デビューした2013年から現在に至るまでに膨大な作品群の中から、向井を敬愛する癒しのブルースマン、カサ・スリムが珠玉の57篇をセレクト。 絶賛、ガン闘病中。(意外にも子どもに熱い思いを持っていた)63歳・生粋の京男が、愛と苦悩と下ネタを〈すきなように〉行き来します。

●品 名 向井久夫詩集「すきなように」
●価 格 1,200円(税別)
●サイズ 四六判(127㎜✕188㎜)/並製本 本文128p
●発 行 2022年11月11日 初版第一刷発行
●発行元 NPO法人スウィング

【詩と絵】向井久夫
【選者】カサ・スリム
【監修】木ノ戸昌幸 田中秀明
【組版】鰺坂兼充 岡田尚子
【印刷】株式会社からふね屋
【協力】竹尾 淀屋橋見本帖 山下祐生

◆掲載作品 「よいしょ」「かぜ」「ておつなぐ」「おしっこ」「みえないもの」等、珠玉の全57篇!

◆購入について  
・こちらのサイト「swing base shop」よりご購入いただけます。

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こどもらにもかいてほしい

好きなこともつらいことも かいてほしい かくのが大事

親に言いたくないこともあるやろ?

別にまちがえてもいいねん 好きなようにかきなさい

自分の見せたい人に見せたらいい

詩人・向井久夫

向井久夫(むかい・ひさお)
1960年生まれ、京都府京都市在住。2011年よりNPO法人スウィング(京都府京都市)に所属し、2013年より詩作をはじめる。




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