恐怖の報酬について

眉毛がどうしても均一にならず、わたしは朝の鏡の中で呆然としていました。

光の当たり具合を調整するために卓袱台の位置を調整し、お日様の光に両方の眉毛がちゃんとはっきり見えるようにしてから、再度鏡を覗きました。

どうしようもありません。
剃刀を出して、眉毛の端を慎重に慎重に剃っていきます。先っちょが痛いほど尖った小さいハサミでちょこちょこと周りを切ります。

シザーハンズがもし恋人だったら、こんな苦労はなくて済むのでしょうか。

でも怖いな。あんなでっけえハサミで眉毛狙われたらたぶん前髪と目ん玉も切れちゃう気がする。

シザーハンズの映画を見たのはかなり小さい頃だったですが、なんだかいけないものを見てしまった気がしてずっと心に残っていました。不完全なロボットや人形やヒトガタがとても好きなのは、シザーハンズによってフェチを形成されてしまったからかもしれません。

ドラえもんの「のび太と鉄人兵団」で出てきた女の子ロボットが腕が取れて倒れているシーン、「GS美神」のマリアが刀で腕をちょんぎられるところを自分で見ているシーン、小花美穂「パートナー」のモエが半分機械が見えた状態でぎしぎし歩いているシーンとか、手塚治虫原作のアニメ「メトロポリス」で最後機械の部分が丸出しになったティマの姿とか、ハンス・ベルメールの球体関節人形の写真とか、蜈蚣Melibeさんのバージェスの乙女たちシリーズ(これはむしろ完全体か?)とか、なぜかめちゃめちゃ好きで、何度も何度も見てしまいます。

ロボット萌え?機械萌え?ヒトガタ萌え?

今はラブドールの写真集を集めるほど人形が好きですが、小さい頃は人形が怖かったです。フランス人形買ってあげると言われても、リカちゃんやジェニーちゃんやバービーちゃんを買ってあげると言われても、怖くて首を横に振って断っていました。ピエロも怖かった。なぜピエロが怖かったのかはわかりません。もしかしたらピエロが出てくる怖い話でも見たのかしら。ITは見たことなかった気がする。ジョン・ゲイシーだろうか。はっきり覚えているのは、地獄先生ぬ〜べ〜の映画かなあ。

しかしピエロを怖がる恐怖症というものはどうやらあるらしいですね。小3の頃、サーカスに連れて行ってもらった時も我慢していたけれど本当はめちゃめちゃ怖かったです。終演後ツーショットでポラロイド写真を撮ってもらうことになり、恐怖でおかしくなりそうになりながらもピエロの人に申し訳ないという気持ちで必死に笑顔を作った記憶があります。

なんでピエロはあんなに怖いんでしょうね。

90年代の、ピエロに怖いイメージを定着させる動きが映画やテレビの中になければ、ピエロは怖くない存在、人を楽しませる存在だったのでしょうか?

そもそもがサーカスというもの自体が不気味な雰囲気をたたえているということもあります。

サーカスは非日常を提供するもので、見たこともない芸や変わった人や生き物によって人を楽しませますが、それは単に面白い笑いだけをひきおこすものではなかっただろうと思います。非日常は一歩間違えれば恐怖や不安を惹起します。見たこともない馴染みのない変わったものに興味を惹かれる時、その好奇心の中に半分くらいは恐怖が占めているといえるでしょう。怖いもの見たさという言葉がありますがまさにそれです。怖いから見たいし知りたいのです。

怖さを感じる時、人はエンドルフィンとアドレナリンでみたされます。交感神経がバリバリに逆立って必死で恐怖から逃れ生き延びようとします。怖さから逃れられるといっきにドーパミンが分泌されます。これが気持ちいいのです。わざわざ怖さを感じるために怖いものを見に行く理由はこのドーパミンが欲しいからでしょう。

わたしが不完全な機械人間やヒトガタを見ると興奮してしまうのは、もしかしたらこの恐怖の報酬、ドーパミン分泌を期待しているからなのかもしれません。
グロやゴアよりも好きよ。

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