全編ホルガで故郷を撮影した写真集「永遠の夏休み」出版からもうすぐ10年 その1ホルガのこと
今からちょうど10年前の2010年の夏に、僕は現在のところ最初で最後となる写真集「永遠の夏休み」をステキ書房名義で自費出版した。
これは僕がまだ大阪に住んでいた頃に、2010年までの約7年間三重県紀北町にある三浦という生まれ育った小さな集落を、ホルガというボディもレンズもプラスチックで、あとは細くて弱々しいバネ一つだけで動くおもちゃみたいなカメラで撮ったものをまとめたものでした。
撮り始めた2003年頃というのはデジタルカメラ黎明期で、まだまだ多くの人がフィルムで写真を撮ることが普通なことでした。
僕が使っていた2台のカメラ「ホルガ120S」&「ホルガ120N」もまたフィルムカメラですが、一般的なネガの上下にパーフォレーションと呼ばれる穴の空いているものではなく、一コマが6cm弱四方もある6x6(ロクロクと読みます)で12枚撮れるブローニー(または中判、120、などの呼び方があります)フィルムを使うという、当時としてもちょっと変わったカメラでした。
その上もともとおもちゃのようなカメラなので、絞り固定(晴れマークと曇りマークの切り替えはありますが、当初のものは切り替えても効果はほぼありませんでした)でシャッタースピードも気まぐれなバネの1速のみと、シャッターボタンを押している間シャッターが開くバルブの2種類のみという、写真の明るさを調整しにくくプロの撮影技術を発揮しにくいカメラでした。
ファインダーは一応ありますがおおよそ見えている像より一回りか二回りほど広く写るのが普通で、最短撮影距離とされている1メートルくらいまで近寄るとファインダーで見えている像と実際写る写真は中心点も結構ずれている感じになるなど、細かな構図を決めるのが不向きなカメラでした。
また、ピントも人一人くらい、3人くらい、いっぱいの人、山くらい遠く、みたいなイラストを頼りに大体の勘で合わせるようなもので、しかもプラスチックのレンズの性能が悪すぎて、画面中央はまだうまくピントがあえば結構シャープに写るのですが、それ以外の周辺部は何をどうしたってぼやけてしか写らないといったものでした。
さらには隙間から光が漏れていたりフィルムがうまく固定できなかったりなどとにかくコントロールしきれないカメラでした。
(僕のカメラは光漏れやフィルムの固定に関してはDIYの工作である程度解消していました。なんせプラスチック製なのでプラモデル感覚で改造したり色を塗ったりしていたのです。笑)
2003年というと、当時の僕は広告写真スタジオに勤め始めて4年ほど経っている頃で、アシスタントからぼちぼちカメラマンとしても撮影させてもらい始めた頃だったのではないかと思います。
映画の学校は卒業したけど写真の学校には通ったことのなかった素人の僕が、商品撮影やモデル撮影などをする広告の写真スタジオの現場でアシスタントからバシバシ鍛えられた結果、当時の僕はわりと「ここはこうでなければいけない」という固定概念に縛られた考え方の写真が多くなっていました。
ところが、ちょうどその頃に南船場界隈の写真ギャラリーによく顔を出すようになり広告としての写真ではなくアートとしての自由な写真に強く感銘を受け、自分の凝り固まった撮影技術満載の写真をもっと感覚的で自由な写真へと解き放ちたいと思うようになったのです。
そんな時に、いつどこでシャッターを押すか、それ以外に何もできないように見え撮った後の結果であるネガやプリントを受け止めるしかないカメラ(多少の語弊はありますがここはあえて)「ホルガ」がとってもステキにみえたのでした。
それに加えて、画面中央部以外はどうやってもぼんやりとしか写らないその映り方が、僕のなかでふるさとを想い出すときの映像と合うなと思ったので、それからしばらく帰省時にはホルガで写真を撮っていました。
僕はいわゆるプロのフォトグラファーなので、ある程度の機材も撮影技術も経験もあります。
目の前のことが特に心に引っ掛からなくても、レンズの特性や絞りやシャッタースピード、構図などである程度いい写真にすることが出来てしまいます。
そう、心が動いていなくても今で言う「ばえる」写真にある程度することはできてしまうのですが、はたしてそんな表面的な写真が撮れたところでどうするのだと。
やっぱり心の動きのあった時にシャッターを切って、それで出来上がってきた写真をしっかりよく見て、そして写真を組み合わせていくことで編集してイメージの束をまとめて一つの作品としたいと思うようになっていました。
もちろん、仕事で依頼を受けて依頼者さまの意向に沿ったイメージを2次元の写真という形に落とし込んでいくという作業とは別の、写真というアートを表現として行いたいというときの話です。
コントロールしきれないホルガというカメラはそれでいて画面中央以外はぼやけてしか写らないのですが、ブローニーという大きなフォーマットのフィルムを使っているため、「ぼやけた画像が鮮明に写る」というなかなか面白い表現ができることも気に入っていました。
今ではホルガどころかフィルムカメラもなかなか使わなくなってしまっていますが、先日壊れてしまったスキャナーを買い換える時にブローニーフィルムもしっかりスキャンできるスキャナーにわざわざ買い換えたのでこれを機にまたホルガをはじめとするフィルムカメラも使ってみたいなと思っています。
ちなみに、写真集「永遠の夏休み」は今では三重県紀北町にある道の駅紀伊長島まんぼうさんと三重県尾鷲市九鬼町にある本屋さんトンガ坂文庫さんでしか買えません(もしかしたらまだ大阪梅田茶屋町のMARUZEN&ジュンク堂書店 梅田店さんにも残っているかも)が、ステキ工房のホームページから連絡いただければ1200円プラス税で送料込みでお届けさせていただきます。