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生まれ変わり、"輪廻"とは中世の"能力主義"
生まれ変わり、"輪廻"をあなたは信じるか?
チベットでは最高指導者、ダライ・ラマの地位でさえ、生まれ変わりが着任する。
しかし、その生まれ変わりの概念は私たちとは全く違う。
チベットでは、その地位にふさわしい"能力"をもつ者をさす。
"能力"をもつ者に、"英才教育"を施す。
すなわち、これは中世の"能力主義"なのだ。
生まれ変わりの決め方
私たちが想像する生まれ変わりとは、死んだ人と同じ記憶がある、だとか、死んだ人と同じ場所にあざ・ほくろがある、だとか、そんなイメージである。私たちは、生まれ変わりをスピリチュアルな何かだと考えている。
しかし、チベット仏教における生まれ変わりは、選び方がルール化・マニュアル化されている。すなわち、制度として成り立っているのである。この制度を活仏制度(生まれ変わりを選ぶ制度)という。
選び方のルールは次のようになる。高僧(偉いお坊さん)が死ぬ際、遺言を残す。地域を指定して、そこで生まれ変わりを探すように指示する。
遺言を受けて、選定者(生まれ変わりを選ぶ人)は、その地方で高僧の死後49日以内に生まれた赤ん坊を探す。これが候補者となる。このようにして候補者がピックアップされる。
こうして選ばれた生まれ変わり候補に、(候補者がある程度成長したら)テストが行われる。地位にふさわしい"能力"を身に着けているかが試されているのである。
死んだ人の記憶だとか、あざ・ほくろなどのスピリチュアルな何かだけで決めているわけではない(注1)。
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注1 生まれ変わりが制度として運用されていることは、中国政府が生まれ変わりを許可制にしたことからも伺える。
「活仏の転生、当局の許可制に」
http://www.tibethouse.jp/news_release/2007/070803_reincarnation.html
生まれ変わりへの英才教育
こうして選ばれた、生まれ変わり"リンポチェ"は、かつての高僧と同等として扱われる。年上の人でも、先輩の僧侶でも、子供であるリンポチェを敬わなければならない。
図1. リンポチェに深くおじぎする女性
小川 康,「第183回 トゥルク ~活仏制度~」,http://www.kaze-travel.co.jp/tibet_ogawa183.html(2019年3月30日アクセス)
このように敬われる"リンポチェ"であるが、もちろん死んだ人の記憶を引き継いではいないので、高い地位に就くためには、勉強しなければならない。
そこで、幼いころから、英才教育が施される。チベット語の基礎学問に3年、顕教に10年、密教に6年かかり、そのうえ医学に5年を費やす。
こうして、長い教育を受けることで、その地位にふさわしい人物となるのである。
活仏制度が生まれた理由
活仏制度(生まれ変わりを選ぶ制度)が生まれたのは、世襲制度(自分の子供を跡継ぎにする制度)による教団の無能化を阻止するためである。
11世紀頃、チベット仏教教団の質が低下していた。その主な原因は、世襲化による教団の私物化である。自分たちの私腹をこやすために、子供、おじなどの親戚を教団の幹部・トップに据え続けていたのである。これにより、無能な人材が教団トップ・幹部になってしまい、教団の質が低下した。
そんな中、活仏制度が登場した。有望な幼児を生まれ変わりとして認定し、その幼児に英才教育を施した。有能なトップ・幹部が教団に就いたことで、教団の質が向上した。世襲制度から、活仏制度という"能力主義"へと変わったのだ。
すなわち、"活仏制度"は中世の"能力主義"なのだ。
参考文献
山口 瑞鳳,「チベット」『世界大百科事典』,平凡社
「活仏制度」『ブリタニカ大百科事典』,https://kotobank.jp/word/%E6%B4%BB%E4%BB%8F%E5%88%B6%E5%BA%A6-45362
(2019年3月30日アクセス)
「活仏転生制度」『中国まるごと百科事典』,
http://www.allchinainfo.com/some/thibetanism.html
(2019年3月30日アクセス)
小川 康,「第183回 トゥルク ~活仏制度~」,
http://www.kaze-travel.co.jp/tibet_ogawa183.html
(2019年3月30日アクセス)
「活仏の転生、当局の許可制に」『ダライ・ラマ法王日本代表部事務所』,http://www.tibethouse.jp/news_release/2007/070803_reincarnation.html
(2019年3月30日アクセス)
ヘッダー画像
NHKEテレ,「輪廻(りんね)の少年」『ドキュランドへ ようこそ!』,(2019年3月30日放送)
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