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「現代4コマオールスター展2024」に行ってきました


はじめに

展覧会のポスター

 原宿のデザインフェスタギャラリーで開催された現代4コマオールスター展2024に行ってきました。開催期間は8月2日(金)から4日(日)までで、私が行ったのは2日目の8月3日(土)です。

 『現代4コマ』とは、提唱者の「いととと」さん (@itototo1010) によれば「マンガに捉われない新たな4コマの概念」であり、また X (旧 Twitter) 上のコミュニティアカウント・@gendai4koma によれば「大喜利×現代アート!? ~此処は、不思議なアイデアで不思議な4コマを発表し合う場所~」とのこと。「#現代4コマ」ハッシュタグの登場から約1年5か月が経った今では、抽象芸術や日常の発見を追求するムーブメントとしてジャンルを確立しています。旧ススメWebでも過去に作品紹介記事を書きました。

 今回のオールスター展では20名の作家による160点以上の作品が展示され、うち新作も30点以上あり、さらにキャンバスアートなどの物販もされました。運営チームの皆さんによる力の入れ具合がうかがえます。現代4コマ作品のリアル展示はこれまでにも 何度か されて いました が、これだけの作家規模で行われるのは今回が初。私も現代4コマのリアル展示を見に行くのは初めてだったので、ワクワクドキドキしながら会場に向かいました。

会場の様子

 展覧会場の室内(撮影可)に入ると、壁には現代4コマ作品が所狭しと並べられていました。事前に作品数「160点以上」と言葉で聞いてもあまりピンと来ていませんでしたが、眼前に広がる作品の数々を見て、ただただ圧倒されました。

これが――
全部――
現代4コマ!

 作品はおおむね作家ごとに固められ、その作家のプロフィールとともに展示されていました。プロフィールはいかにも真面目な文体とその中にあるキャッチーな作品タイトルにギャップがあり、笑いによって興味を惹かせるものになっていました。

展覧会の代表・人生さんのプロフィール

展示作品の紹介

 会場には現代4コマ作家の方々も在廊されており、幸運にも「なむさん」さん、トウソクジンさん、いとととさんとお話できる機会に恵まれました。展示作品を解説いただいたり、鑑賞した作品の感想をお伝えしたりと、またとない時間になりました。皆さん、ありがとうございました。

 この記事では選り抜きとして、お三方の展示作品の一部を紹介したいと思います。

なむさんさん

なむさんさんのプロフィール
なむさんさんの作品展示 (1/2)
なむさんさんの作品展示 (2/2)

 なむさんさん (@numsung763) は『心電図』『大当たり』『虹を見た日』などで知られる現代4コマ作家です。長方形のコマにとらわれず、4分割した領域に日常の光景を落とし込んだ抽象表現を追求されています。コマ間の枠線に意味付けをするワザは作家陣の中でも特筆すべきものです。

『上へ』(なむさんさん)

 なむさんさんの新作『上へ』は、屋外の鉄骨階段を上る人を、階段の裏から観察した様子を表現した作品。枠線を足場とし、コマには足場の間から覗く景色を写しています。高校の部活棟などで日常的に見られるこの場面を現代4コマとして発見する鋭さに、ただただ驚くばかりです。タイトルの誘導だけでなくシチュエーションもあいまって、下から上へと自然に読ませる4コマになっているのも面白いポイントです。

トウソクジンさん

トウロクジンさんのプロフィール
トウソクジンさんの作品展示

 トウソクジンさん (@co_v_h2) は『空蝉が喚き囁き啼き叫ぶ』に代表される、詩に4コマの要素を取り入れた作品で知られる現代4コマ作家です。2023年11月からは月刊詩誌『ココア共和国』の『4コマ詩』コーナーでも作品を継続的に発表されています。(この記事の公開時点での最新号は2024年8月号です。このコーナーでは『ぼのぼの』で有名ないがらしみきおさんも詩を執筆されています。)

『サーモンおいしい』(トウソクジンさん)

 4コマ詩だけでなく、抽象表現もイケるのがトウソクジンさんのスゴいところです。展示作品のひとつサーモンおいしいは寿司ネタのサーモンを題材にした現代4コマ。斜めに傾いたヨコ並びのコマと筆記体で流線形になったタイトルからは、まるでサーモンが踊っているかのような「動」の印象を受けます。一般的な4コママンガにおけるタイトルと4つの長方形のタテ並び、という「静」からの脱却を試みた作品と言えるでしょう。

いとととさん

いとととさんのプロフィール
いとととさんの作品展示

 現代4コマの展覧会として、概念提唱者のいとととさん (@itototo1010) を外すことはできないでしょう。今回のオールスター展も、いとととさんから多くの追随者が生まれたからこそ実現されたものと言えます。ご自身も多くの作品を発表されており、代表作には『運命を思い付いた瞬間』『卒業式』『3分経った』などがあります。

(▲ズーム写真を取りそこねてしまったので、Xの投稿より。)

 いとととさんの展示作品のひとつ視線を感じるはお風呂でシャンプーする人の後ろに4コマを据えた作品です。浴室の枠付き扉とも、人格あるオブジェクトとも解釈できる4コマからは、タイトルとあいまって不気味な印象を受けます。一見すると4コマを添えるだけの「添え4」系譜の作品に見えますが、4コマに確かな(しかも二重の)意味を持たせているあたり、むしろ添え4派(?)を挑発した作品と言えるかもしれません。今回のオールスター展では他にも『チーズイン4コマ』や『作画崩壊の4コマ』など、いとととさんの挑発的な作品がいくつか見られた点が興味深かったです。

リアル展示ならではの作品

 さて、現代4コマはネットから始まったムーブメントです。そのため、作品の「展示」や「鑑賞」は画像や写真のアップロードによる、平面的で視覚を用いたものがメインです。

 今回のオールスター展ではそういった作品だけではなく、空間や触覚を活かした、リアル展示ならではの作品も見られました。こちらも、いくつか選り抜きで紹介したいと思います。

『初夏の色を映して』『反射光』(最中猫さん)

『初夏の色を映して』(最中猫さん)

 最中猫さん (@m0nacat) の初夏の色を映しては長方形の鏡をタテに4つ並べた現代4コマ作品(タイトルが「初夏」なのは初出が6月のため)です。場所や角度によって鏡に映す景色が異なるため、無限の派製作品や現代4コマ体験を創出可能な作品と言えます。

『反射光』(最中猫さん)

 また、同じく最中猫さんの『反射光』は、『初夏の色を映して』が壁に反射した光を作品としたもの。展示初日には作品タイトルが付いていなかったようなので、本当に偶然に成立したようです。これを「作品」に仕立てる即興性もまたリアル展示ならではのムーブと言えるでしょう。

『形而上の現代4コマ』(朽羊歯ゾーンさん)

『形而上の現代4コマ』(朽羊歯ゾーンさん)

 朽羊歯ゾーンさん (@_kushidazoon_) の『形而上の現代4コマ』は「中身を触って想像してからめくってね!」との指示がある、カーテンに覆われた作品。凸凹でもついてるのかな?と思いながら私も触ってみたところ、特に引っかかりはなかったので「これはきっと何も描かれていない、いわゆる『純粋4コマ』があるに違いない」と思いました。そしてカーテンをめくると――

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カーテンをめくったところ

これに触れたときあなたが思い描いたのは、純粋4コマ(真っ白な紙に描かれた中に何もない4コマ)ではないだろうか。否、〔…〕
あなたの思い描いたような純粋4コマは、あなたの脳内にしか存在しない、いわば「形而上の現代4コマ」なのである。

『形而上の現代4コマ』より

 くっそwww  してやられたwww  「純粋4コマ」って言葉を想像したところまで言い当てられてられたのが悔しすぎる。衒学的でいて卑近な解説がまた悔しさを煽っており、鑑賞者の心理を巧みに突いた作品と言えるのではないでしょうか。

『今、この瞬間』(朽羊歯ゾーンさん)

『今、この瞬間』(朽羊歯ゾーンさん)

 同じく朽羊歯ゾーンさんの『今、この瞬間』は、いとととさんの『運命を思い付いた瞬間』をオマージュした作品です。コマ枠が描かれたプラ板をかざして見れば、あらゆる景色が現代4コマに!

カメレオンの4コマ……?

 というわけで私も室外の風景を一枚パシャリ。こういう体験ができるのもリアル展示ならではですね。

物販で買ったもの

左のポストカードは無料配布

 展示をひととおり鑑賞した後のお楽しみは物販。ここでしか買えない現代4コマグッズとして、クリアしおり4点セット(中央)と、純粋4コマ主義アクリルキーホルダー(右)をゲットしました。

自室に飾られる現代4コマ

 また、展示されていたキャンバスアートを買うこともできたので、いとととさんの『運命を思い付いた瞬間』と、トウソクジンさんの『salmon』を購入しました。写真には写っていませんが、キャンバスの裏側にはご本人のサイン入りです。ありがたや~。

 そんなこんなで、現代4コマあふれる空間をたっぷり堪能して帰路についたのでした。ひとつだけ欲を言えば、図録(という名の同人誌)が物販で買えればもっとよかったなって思います。これについては別の機会に期待ですね。

おわりに

 さて、展示会に行くときも、展示会から帰るときも、私はひとつのことを考えていました。「結局『現代4コマ』とは何なのか?」と。

 いま改めて言葉にすると、現代4コマは「無意味からオモシロを発見・創造するための共通言語」のひとつだ、という考えに至りました。過去の記事では、私は現代4コマを「4コマ表現の限界と本質を追究するムーブメント」と言い表しました。それは今でも間違っていませんし、現代4コマを他ならぬ現代4コマたらしめている根っこでしょう。しかし同時に、誤解を恐れずに言えば、限界と本質の追求は手段や結果にすぎないのではないか、と思い至りました。結局のところ、究極の目的はオモシロなのです。

 共通言語とは枠組みでありジャンルです。外国語の歌詞のおかしな聞き間違えを誰かが「空耳」としたように、実用性はないが人に教えたくなる豆知識を誰かが「トリビア」としたように、ヘンテコでキテレツでマンガから外れたような4コマをいとととさんは「現代4コマ」とした。それにより『ヘンテコでキテレツでマンガから外れたような4コマ』で皆が集い、制作し、鑑賞し、語り合う場所ができ、多くのオモシロが生まれるようになった。それこそが現代4コマなる概念の最も大きな価値であり、また概念を提唱されたいとととさんの最も大きな貢献であるように思います。

 オールスター展は終わりましたが、@gendai4koma アカウントや「#現代4コマ」ハッシュタグでは引き続き新作が投稿されています。これからも現代4コマのムーブメントが広がり、そして新しいオモシロに出会えることを信じて、この記事を締めたいと思います。

レポート記事のリンク集

 この他にも、Xをハッシュタグ「#現代4コマオールスター展」「#現代4コマオールスター展2024」やフレーズ「現代4コマオールスター展」で検索すると、当日現地の雰囲気がよくわかるツイートがたくさんヒットします▼


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