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灯りに揺れる過去への旅

その夜、ウサギとカメが小金井公園に足を踏み入れると、夜空からこぼれ落ちた星のような光が、宝石のようにきらめいていた。
昼間の温もりがほのかに残る中、二人はその光に導かれるように静かに歩き出した。

「この公園のイルミネーション、今年が初めてなんだよ」カメの声は、まるで夜の静けさに溶け込む魔法のように響き、ウサギの胸にそっと小さな灯をともした。

「あれは何かしら?」
ウサギは足を止め、ふわりと首をかしげた。
「あれは、小金井にゆかりのある任侠、小金井小次郎をモチーフにしたねぶただね」と、カメが静かに語った。

ふと気づくと、懐中電灯の柔らかな光がぼんやりと行く先を照らしている。ウサギは、心細さを隠すように、そっとカメのすぐ横に寄り添いながら歩き続いていた。

やがて、賑やかな下町が目の前に広がった。道の両側には古い建物が立ち並び、まるで過去に引き戻されたかのような不思議な光景が二人を包み込んだ。

江戸東京たてもの園

「道行く人たちの服装が、古い建物とちぐはぐなところが、なんだか面白いわね」
ウサギが微笑みながらつぶやくと、カメは静かにその言葉を受け止めた。
「まるで、みんな一緒に過去へ旅をしているみたいだよね」

「窓の文様が、どこか幻想的ね…」
ウサギは建物の窓を見ながら、瞳に優しい輝きを宿した。

「子宝湯」にたどり着くと、二人はそっと靴を脱ぎ、静かな期待を胸に秘めながら、脱衣場の中へと足を踏み入れた。

「お湯の上にアヒルさんが浮かんでるわ」
ウサギは湯船のそばにそっとしゃがみ込み、ぱあっと明るい笑顔を咲かせた。

子宝湯をあとにすると、ウサギはふと立ち止まり、何かに引き寄せられるように傘屋の方へ視線を向けた。
薄暗い店内には開いたままの傘が三本並び、闇の中からひっそりとこちらを見ていた。

「あれ、なに? 妖怪なの?」
ウサギが不安そうに呟いた。
「からかさ小僧だよ」
カメは少しだけ冗談めかして答えた。

ウサギが慌てて背中に隠れる仕草に気づいたカメは、優しく振り返り、まるで安心を紡ぐように彼女に微笑みかけた。

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