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世界を目指す気分で
三連休の最後となる日曜日、ウサギは遥か前方に、ゆっくりと歩くカメの姿を見つけた。彼女は跳ねるようにカメに追いつくと、彼の顔をのぞき込んだ。 「昨日の世界卓球、観た?」ウサギは声を弾ませて続けた。「女子決勝はあと少しで半世紀ぶりの快挙だった。選手たちが輝いて見えたわ。私もあんな風になれたらな…でも、私には球技は難しいの」
彼女の顔を見るカメの瞳には、穏やかな驚きが宿っていた。「ウサギさんは動きが早いし、卓球も上手そうにみえるけどね。球技が苦手だって言うけれど、サッカーは上手だったよ」
「正確に言うと、私は器具を使う球技が苦手なの。ラケットとかバットとか。体のみを使うパフォーマンス。私にはそれが全てだわ」ウサギは少し寂しげに言う。
カメはどこか遠くを見つめるように、「僕は少しだけ卓球をやったことがある。いろんな回転をつけたサーブについて、研究するのが好きだった」と、得意げに話した。
「それで、カメくんは卓球が強かったの?」ウサギの声に好奇心が戻ってきた。「僕のサーブは相手に返されたら終わりだった。相手のサーブは凄いなっていつも見とれていた」と、カメは懐かしげに語った。彼の言葉に二人はしばらく無言だったが、やがて静かに笑い合った。
「今度一緒に卓球をやってみない?いい勝負かもしれないわよ」とウサギが言うと、「いいね。分類番号783.6の書架に卓球の本があるから早速見てみようよ」とカメが応じた。二人は図書館に入ると、その書架を目指して本の迷宮に姿を消していった。