光が紡ぐ鏡の世界
その日の夕暮れ、ウサギとカメは明治神宮外苑の広場に立ち、静かに息を潜めていた。時おり聞こえてくる人々のざわめきも、まるで風の音のように耳をすり抜けていった。
「これから何が始まるの?」
ウサギの小さな声は、突然鳴り響いた軽快なアナウンスにかき消された。その瞬間、広場全体にふわりとした期待感が生まれ、何かが動き出す予感に包まれた。
不思議な音が耳元で響き始め、ふと視線を向けると、聖徳記念絵画館が煌めく光に包まれていた。その光はまるで命を宿したかのように、鏡の世界を語り始めていた。
「この作品、花火が華やかに打ち上がってる隣で、戦争の爆撃が起きてるのね。この二つが一緒に表現されてるって、なんだか、強いメッセージを感じるわ」ウサギは真剣な眼差しで映像を見つめた。
「56の国からエントリーがあったみたいだけど、それぞれ個性があるよね。こうして見ていると、いろんな文化があるんだなって思う」カメも静かに、光の躍動を見つめていた。
「今年のテーマは『Mirror:鏡』なのね。鏡って、どこか不思議な力を秘めているわ。作品の中では、喜びと悲しみ、成功と失敗のような対照的な二つの表情が同時に映し出されていて、そのコントラストがとても印象的ね」
「大会だから、どの作品も表現したいものをぎゅっと短い映像に詰め込んでいる。それぞれがしっかりとしたメッセージを持っていて、それを全力で伝えようとしているのが伝わってくるよね」
やがて上映が終わり、二人は混雑した会場を抜け、ゆっくりと千駄ヶ谷駅へ向かった。「アートに夢中になってたら、いつの間にかお腹が空いちゃったわ。ご飯でもどう?」ウサギは歩きながら、ふわっと笑みを浮かべた。
「いいね。今夜は韓国料理にしようか。」彼女の提案にカメが笑顔でうなずくと、二人は自然と手を取り合い、駅へ向かって走り出した。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?