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お姫様の秘密のお城
その日、ウサギは図書館の閲覧席で一冊の本をじっと見つめていた。最初は少しすました表情でページをめくっていたが、やがて小さな笑みがこぼれ、次第にその瞳にうっとりとした輝きが宿り始めた。
カメが静かにそばを通り過ぎようとしたその瞬間、ウサギはふと顔を上げ、カメだけに聞こえるような声でぽつりと呟いた。
「私、お姫様になりたいの」
「あれあれ、また『おひめさまようちえん』を読んでたんだね」カメは肩をすくめながらも、柔らかく微笑んだ。
次の日、二人は風を切るように高速道路を走っていた。「この先なのね、お姫様になれるところって…」ウサギは助手席から、ハンドルを握るカメの横顔をじっと見つめた。
二人を乗せた赤い車は、ついにロックハート城に到着した。城へと続く小道を歩く途中、ウサギは建物の壁に並ぶハートを見つけ、目を輝かせた。
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「ハートの向こうに見えるのが、お姫様になれるお城なのね」 ウサギは周りの景色には目もくれず、ひたすらお城の姿を見つめた。
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「ねえ、ちょっと気になったんだけど、どこを見てもハートだらけね。それに、周りを見れば恋人たちばかり。どうしてなの?」
ウサギは小さく首をかしげ、不思議そうにカメを見つめた。
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「いや…イギリスからお城が移築されているから、お姫様気分になれるかなって思ったんだ。まさかこんなところだとは…」カメは頬を赤らめながら呟いた。
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「いいのよ。お姫様には王子様が必要なんだから」ウサギはふわりとカメの腕に手を絡めて、柔らかな笑顔を見せた。
「ほら、あそこで愛のパワーをチャージできるわよ」ウサギは神々しい輝きを放つパワーストーンを指さし、カメの手を引いて歩き出した。
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「あなたには、しっかりチャージが必要ね。今から60秒、ちゃんと計るから覚悟して」
カメがおずおずと石に抱きつく姿に、ウサギは笑い出しそうになるのを必死にこらえた。
「あなたなら、きっと王子様になれるわ」
ウサギはあたりを確かめて、誰にも聞こえないくらい小さな声で囁いた。