シャボン玉気分で
その日、ウサギとカメは、夏の名残を感じる天王洲アイルをゆっくり歩いていた。「今日はどんな驚きに出会えるのかな?」ウサギは、そっとカメの顔を見上げた。淡い期待が、彼女の胸の中でじわりと膨らんでいた。
「これは何なの? シャボン玉?」
ウサギは館内に入ると、足を止めて大きな丸い物体を見上げた。その不思議な形に心を奪われ、胸の中にふわふわとした感覚が広がっていった。
「これはバルーン状のインスタレーションだね。直径が12メートルもあるらしい」 カメはウサギの隣で静かに答えた。
「中がどうなってるのか、すごく気になるわ。さぁ、行くわよ!」ウサギは、スタッフが開けてくれたトンネルの中へ、体を小さく折りたたむようにして、すっと滑り込んだ。
「ここは…どこなの?」
シャボン玉の中に入った瞬間、ウサギは思わず息を呑んだ。目の前に広がっていたのは、淡い光に包まれた不思議な空間。やわらかな波が立つように、静かに揺れていた。
「こんなふうにアートの中に入ったり、触れることができるなんて夢みたい。シャボン玉の中って、きっとこんな感じよ」彼女はくるりと回って、ふと足元に目をやった。
「この大きなオムレツみたいなのって、何かしら?」彼女がそう尋ねると、カメは笑いながら答えた。「これは食べ物じゃなくて、座われる水枕だよ」
ウサギは恐る恐る水枕の上に腰を下ろした。「この感触、まるで海の波に揺られているみたい…。ねぇ、あなたもここに座ってみて」仰向けになりながら、ウサギはカメに向かって手を振った。
「こうやって寝転がって、アートを楽しむなんて、ちょっといいわね。新鮮で、なんだか楽しいわ」ウサギは目を閉じたまま、静かに囁いた。
二人は時間の感覚を失って、光るシャボン玉の中で、まるで波に揺られるように、いつまでも水枕の上で身を任せていた。現実から切り離されたような心地良さが、ずっと続いてほしいと願いながら。
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