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龍が見守る味めぐり

その夜、ウサギとカメは雨の横浜中華街を、傘を寄せ合うようにして歩いていた。
「大桟橋から見る海は素敵だし、山手の洋館も魅了的だけれど、この季節は中華街が一番だと思うの」

ウサギの言葉が雨に溶けるように消えていくと、カメが不思議そうに彼女の顔を見つめた。「寒くなってくるとね、不思議と温かい食べものに心が惹かれてしまうのよ」

「よく誤解されるけど、私、ラーメン以外だってちゃんと食べるのよ。今日何を食べるかはまだ秘密だけどね」ウサギは一瞬カメに瞳を向けると、足元の水たまりを軽やかにかわしてみせた。

「ねえ、あれは何?」
ウサギがふと顔を上げて空を指さした。その先には、明るく灯るランタンの連なりが、まるで道行く人をそっと守る魔法の生き物のように、夜空にふわりと浮かんでいた。

中華街大通り「百節龍」

「あれは幸せを運んでくる龍だね。春節のお祝いの季節が来たんだ」カメは静かに空を見上げた。「ほら、あそこにも龍がいる」

上海路「五十節龍」

「やっと見つけた!」
ウサギは小さく声をあげ、目を輝かせながらお店へと駆け寄っていった。

「開華楼」

「これこれ!これが私の求めてた大籠包…!」温かい器を受け取ると、ウサギは待ちきれない様子でストローに口をつけた。

「ストローで飲むのがコツなの。だって、小籠包よりずっと大きいからね」ウサギの食べる様子があまりにも美味しそうだったので、賑やかな通りを行き交う人たちが、引き寄せられるように足を止めていた。

「大籠包」

「11月限定の『麻婆きのこまん』ですって?こんなの見逃せるわけがないわね」
大通りに戻ったウサギは、また足を止めて店先をじっと見つめた。

「老維新」

お店から戻ってきたウサギは、両手に包みを抱えてにっこりと微笑んだ。
「激辛パンダまんも買ってきたの。二つとも、半分こにして食べようね」

「麻婆きのこまん」と「激辛パンダまん」

「辛いもののあとは、やっぱりこれね」
ウサギの手のひらには、いつの間にか小さなハリネズミがちょこんと乗っていた。そのほのかなぬくもりが、雨の中に立つ二人をほんのりと温めていた。

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