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ホットココアの思い出

「ねえ、ほら、早く!」
ウサギはカメの手をぎゅっと握りしめ、夜風に溶けるように軽やかに歩を速めた。カメは息を切らせながらも、彼女の笑顔に引き込まれるように、身を任せてついていく。

お目当ての場所に辿り着いた瞬間、ウサギの顔がふわりと輝きを帯びた。石畳で瞬く光の粒たちが、彼女の高鳴る想いを祝福しているかのようにきらめいていた。

恵比寿ガーデンプレイス

「もう、すっかりクリスマスね」
七色に変わるツリーの光が、ウサギの瞳に柔らかく映り込んでいる。その前では、大勢の人たちがそれぞれの想いを胸に、思い思いのポーズで写真に収まっていた。

「みんな、気が早いわね。私もだけど…」
ウサギは小さく微笑みながら、七色に輝くツリーへふわりと駆け寄った。

「また冬がやって来るんだね」
ツリーに向かっていくウサギの背中を見つめながら、カメは静かに呟いた。

「ツリーを見ていたら、去年のイルミネーションレースを思い出したわ…」
ウサギはそっと横に並んだカメに微笑みながら語りかけた。
「ねえ、あの日のこと、覚えてる?」

「あのレース、凍った路面に気づかなくて、僕は見事に転んじゃったんだ」 カメは少し照れくさそうに笑った。
「でも、先頭を走っていたキミが、僕を助けてくれたんだよね…」

ウサギは静かに歩き出し、柔らかな光の中で足を止めた。
「どうしてかしらね?」
そう呟くと、くるりと振り返り、少しだけ首を傾けて優しく微笑んだ。

「喉が渇いたわ。何か飲みたいな」
ウサギが沈黙を破るように、そっと呟いた。

「ホットココアがいいかな。今日という日を宝物にしたいから。あの夜みたいに、ね」
その声は冬の冷たい空気の中で、二人の胸にかすかに白く溶けていった。

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