夢見る秋の星座たち
その日、ウサギは図書館の分類番号443.8の書架の前で立ち止まった。星座の本を手に取り、ふと思う。「今夜はどんな星座が浮かんでいるのかしら」小さなつぶやきは、静寂に包まれた空間の中へそっと溶け込んでいった。
その姿を見守っていたカメは、歩み寄ると柔らかな声で話しかけた。
「星座を眺めるなら、天文台がいいかもしれないね」 その一言は、ウサギの心に優しく響いた。
よく晴れた日、二人を乗せた車は、紅葉に染まる道を駆け抜けていた。
「ねえ、優しい音が聞こえるわ」
車はいつの間にか「高山村メロディーライン」に差しかかっていた。「星に願いを」の旋律が、まるで語りかけるように耳に流れ込んでくる。
車を降りた二人は、ぐんま天文台へと続く山道を見上げた。肌寒い空気の中、カサリと音を立てる枯葉を踏みしめながら、ゆっくりと階段を登り始めた。
最後の一段を上りきった瞬間、ひときわ冷たく澄んだ山の空気が頬を撫でた。 視線の先には、不思議な石像たちが、枯葉舞う芝生の上で二人を待っていた。
「これは日時計だね。インドに建てられた天体観測施設を再現しているんだよ」カメの声は寒さで少し震えていた。
「こっちのモニュメントは、イギリスのストーンヘンジをもとに作られたもの。日の出と日の入りの方向がわかるんだ」
天文台の中に足を踏み入れると、スタッフによる今夜の星空案内が始まった。
「ペガススの大四辺形を手掛かりに、星座を探してみましょう。アンドロメダ座がどこにあるかわかりますか?」 その柔らかな声が、心地よく耳に届く。
「アンドロメダ姫をお化けクジラから救ったペルセウス王子が姫と結ばれるなんて。秋の星座って、なんてロマンチックなのかしら」 ウサギはすっかり解説に引き込まれていた。
「夜になるのが待ちきれないね」とカメが言うと、ウサギは嬉しそうに笑った。
「もうドキドキしてるわ」
星座たちが夜空で慌ただしく支度を整えている…。そんな光景を、彼女は心の中でそっと描いていた。