キャラメルで天下無敵
すっかり秋めいてきたその日、ウサギは図書館の674.35の書架の前で立ち止まり、整然と並んだ本の背表紙をじっと見つめていた。
「広告とかキャッチコピーって、意外と面白いものかもしれないわね…」そう、心の中でつぶやきながら、その一冊を手に取った。
背後に気配を感じて振り向くと、通りかかったカメと視線が合った。「広告のことなら、面白いところがあるよ」カメは微笑みながら、そっとウサギの手を取った。
二人は図書館を出て、電車に揺られ、汐留に降り立った。歩き始めるウサギの胸には、何か新しいものと出会えるかもしれないという淡い期待が、ひっそりと広がっていた。
「この、『森永ミルクキャラメルで天下無敵』って、とても印象的だわ」ウサギは古い新聞広告を指さしながら、くすっと微笑んだ。
「土俵には手をついたことがない太刀山が、この広告では手をついたって、当時、かなり話題になったみたいだよ」カメはまるで物語を語るように、キャプションを読みあげた。
「これは何?」ウサギはふとポスターを指さした。「巨大なマンモスと、それを追いかけて歓声を上げている原始人たち…カップヌードルの広告だね。これも当時、結構話題になったみたいだよ」
「今までにない発想で、見る人に強烈な印象を残す。それが広告の醍醐味なんだろうね」カメはそう言いながら、ふと周りをゆっくり見渡した。
「なるほど、アイディア勝負ってことね。食べ物に関してなら、私、いくらでもアイディアが湧いてきそうだわ」ウサギはいたずらっぽく笑って、軽くカメにウィンクした。
ウサギはまた何かを見つけると、ぱっと目を輝かせてその場所へ駆け寄った。「どこか見覚えがあると思ったら…太陽の塔ね!」
「もし太陽の塔にそのままハグされたら、ほとんどの人は骨が折れちゃうわね」ウサギはくすっと笑った。
「こういう発想、私、好きだわ。こうして眺めると広告って立派な芸術なのね」ウサギはふっと微笑み、そっと目を閉じた。すると、頭の中に太陽の塔とハグしている自分が浮かんできて、その滑稽さに思わず小さく肩を震わせた。