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不完全という美学
「おはようございます。ウサギのティースプーンのお時間です」小さなラジオブースの中で、ウサギはいつものように元気な声で番組を始めた。その日もリスナーからの質問に答えるコーナーが設けられていた。
「次の質問は、ラジオネーム『完璧にこだわるカメさん』からです!」彼女はマイクに向かって明るく話し始めた。「『ウサギさんは日頃から完璧を目指していますか?』という質問をいただきました」
「私、先日『茶の湯の美学』という展覧会を観に行ったんです。その日からわび・さびの世界に染まっています」と、ウサギはリスナーに向けて語り始めた。
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「かの千利休は、完璧に掃き清められた庭園に、わざと木の葉を数枚落として『これで完璧だ』と言ったそうです」
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日の丸釜 与次郎/作 桃山時代
「それ知った私は、自分も未完成のままでいいんだ、ということに気づいたんです」ウサギの声はその真意を伝えるために、次第に強く、確信に満ちたものになっていった。
番組はこの話題で盛り上がり、彼女はリスナーからの意見を紹介しながら、不完全さについて熱く語った。
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「あの吉田兼好も言っています。『月はくまなきをのみ、見るものかは』と。月は満月のときばかりではありませんよね。欠けている月こそ、もののあわれ。趣深いのです」と彼女は静かに言葉を締めくくった。
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「素敵な質問をありがとうございました。カメさんも完璧を求め過ぎないで、肩の力を抜いてくださいね。それではみなさん、次回もお楽しみに!」とウサギは番組を締めくくった。
放送を終えたウサギは、しばらくスタジオの静けさに身を委ねた。「カメくんは完璧を求めすぎるのよね。少し解してあげないと」
ウサギはそっと立ち上がると、ランニングシューズの紐を結び直した。そして彼の待つ図書館へ軽やかに走り出した。