ときめきの先の待ち人
「おはようございます!『ウサギのティースプーン』のお時間です」小さなラジオブースの中で、ウサギはいつものように元気な声で番組を始めた。
「次のお便りは、ラジオネーム『図書館にときめくカメ』さんからです。『今年、ウサギさんがときめいた場所はありますか?』そんな質問をいただきました。
「ときめいた場所ですか…それは、もう一度会いたいと思わせてくれる、そんな特別な場所のことですかね?」
「あれは春の日のことでした。不意に東京タワーの外階段を登りたいと思ったのです」
ウサギは穏やかな口調で語り始めた。
「その願いは、その日には叶いませんでしたが、振り返ればそれが始まりでした」
「夏が過ぎ、もう諦めかけた頃、ついにその機会が訪れました。外階段を登ることが許されるのは十五夜の夜だけ…そんな風の便りが私のもとへ舞い降りてきたのです」
「願いが叶ったその日、私は東京タワーに別れを告げ、もう二度と振り返ることはないと思いました。それなのに、気づけばまたあの場所へ足を運んでいたのです」
「東京タワーの足元には、小さなタワーが輝いていました。その光を見た瞬間、ここは私の大切な場所なんだと思えたのです」
ウサギの熱い語りに番組は大いに盛り上がり、彼女はリスナーから寄せられた「ときめいた場所」を次々と紹介していった。
「その時の私は一人。でも、会場に飾られたハートを眺めているうちに、ふと心に浮かびました。次は、この場所を素敵な誰かと分かち合えたらいいな、と…」
「お時間がやってまいりました。それでは、また次回お会いしましょう!」
ウサギは少しだけ頬を染めながら、静かに番組を締めくくった。
放送が終わり、スタジオに訪れた静けさにウサギはそっと身を委ねた。
「そうは言ったけど、素敵な人なんて、一体どこにいるのかしらね…」ウサギは肩をすくめながら、誰にともなく呟いた。
「もし、いるとしたら…」
そう思った瞬間、胸の奥に小さな温もりが広がった。そして気づけば、軽やかな足取りで図書館へと向かっていた。