とある夏の夜の冒険
まだ蒸し暑さが残る夕暮れ時、ウサギとカメは新宿のビアガーデンの会場で、風鈴の音に耳を傾けていた。「勢いでビアガーデンに来ちゃったけど、私たちにはちょっと場違いじゃない？」ウサギが不安そうに囁いた。
「恐れることはないよ」とカメは胸を張ってみせたが、その声は次第に小さくなっていった。「大丈夫だよって言いたいんだけど、ここは図書館じゃないから、どうにも勝手がわからなくて…」カメは少し困ったように言葉を続けた。
言われるままに案内された席に、次々と料理が運ばれてくる。「枝豆って、こういう場所で食べると特別に美味しく感じるわ」料理を前にして、ウサギの顔に笑みが戻った。
「飲み物を取ってくるわ」と、ウサギは軽やかに席を立った。「はい、レモンソーダね」彼女は戻ってくるとカメにソーダを手渡した。
「私はアイスティーにしたの。ビアガーデンに来てビールを飲まないなんて、私たちくらいかもしれないわね」とウサギは笑った。
ビアガーデンを後にすると、アルコールは飲んでいないのに、なぜか二人はほろ酔い気分になり、千鳥足のようにふらふらと東京都庁へ向かった。
「プロジェクションマッピングを観るの？」ウサギが首を小さく傾げると、カメは「今夜はゴジラが上映されるんだ。一度見てみたかったんだよね」と答えた。
都庁前の広場に着くと、二人はレジャーシートを広げて静かに寝転んだ。「こんなところで寝転ぶなんて普段はしないから、なんだかワクワクするわ」とウサギは声を弾ませた。
映像が終わり、辺りに暗闇が戻ってきたとき、ウサギがそっと口を開いた。「結局、ゴジラを倒せなかったけど、大丈夫なのかな？」
「細かいことは気にしなくていいんじゃないかな。ゴジラだって、今は夏休みだしね」とカメは優しく微笑んだ。
いつもなら夢の中にいるはずの時間。大人たちの時間が静かに始まる。二人はまるで子どもに戻ったような気分で、都会の夏の夜の冒険を全身で味わっていた。