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時を超える応挙の幻想
その日、銀座を歩いていたウサギとカメは、赤い建物の前で足を止めた。「ここは日本最古の画廊と言われている資生堂ギャラリーだね」カメがそう言うと、二人は手を取り、入口へ向かって歩き出した。
地下へと続く細い階段は、どこか秘密めいた雰囲気を漂わせており、二人は引き寄せられるように足を踏み入れた。
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薄暗いギャラリーに足を踏み入れると、ひんやりとした空気が二人の肌に触れた。目の前に広がっていたのは、どこか神聖な静けさをまとった空間だった。
大きなスクリーンには、江戸時代の画家・円山応挙が大乗寺の客殿に描いた孔雀と松が映し出され、寄り添うように十一面観音像が静かに浮かび上がっていた。
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「仏間」十一面観音像
兵庫県にある大乗寺は、「応挙寺」としても知られている。そのお寺にある13の客殿が、形を変えてこの空間に再現されていた。
「フォトグラファーの十文字美信が撮影した写真が、インスタレーションとして表現されている。時を超えて、応挙の絵が語りかけてくるようだね」カメの声が、静かな空間に溶け込むように響いた。
「応挙が大乗寺にこの絵を描いた時、空間全体も彼がデザインしていたと考えられているんだ。だからこそ、インスタレーションにもしっくりと馴染むのかもしれないね」
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「江戸時代の絵なのに、こうして見ていると、まるで新しい命が吹き込まれたようね。音楽と絵の動きが、全身に語りかけてくるみたいだわ」ウサギは思わず息を飲んだ。
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「応挙と言えば、足のない女性の幽霊を初めて描いた画家として知られている。写生派って言われてるけど、空想の世界まで、まるでそこにあるみたいに描いてしまうんだ」
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過去と現在、見えるものと見えないもの。その境界を行ったり来たりするような、円山応挙と十文字美信のコラボレーションの世界に、二人はすっかり心を奪われていた。